幸福と報復 下巻 (新潮文庫 ケ 12-4)

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  • Amazon.co.jp ・本 (521ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102138144

作品紹介・あらすじ

"運命の男"ジャックと劇的な再会を果たしたサラ。だがそれは、間断なく彼女を襲う苛烈な試練への危険な序章でもあった。一方、コメディ作家として揺るぎない地位を築いたサラの兄エリックは、猛威を振るうマッカーシズムの標的となり、苦渋の選択を迫られる。時代と運命に翻弄された三人の男と女が辿りついた結末-。半世紀を経て真実を知ったケイトは再びサラを訪れた…。

感想・レビュー・書評

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  •  かれこれ17年前くらいの作品だが、この本に限ってはいくら年月が経とうとあまり古くならない。戦後すぐのアメリカに吹き荒れたマッカーシーの赤狩りの時代を背景とした恋愛小説であるからだ。赤狩りの時代はそのままアメリカのゲシュタポ時代として歴史に刻まれてしまった汚点のままだし、時代がどうあれ恋愛小説は恋愛小説でしかないからだ。
     ぼくは恋愛小説に偏見を持ち過ぎていたかもしれない。この本を読みながらずっと思っていたことだ。恋愛小説には真犯人を突き止めたり、トリックを見破ったりする楽しみはないのだが、それ以上に面白くスムースに読めることに驚いてばかりだった。先が読みたい、この次の展開が知りたい、という気持ちにさせられるのは、冒険小説を読む時と何ら変わりがない。もしかしてジャンルが何であれ、面白い本は面白いのだ。
     この物語は、起承転結がはっきりしている、とも感じていた。恋愛小説はどれもがこんな風に起承転結があるのだろうか? 少なくともこの本はそのメリハリがはっきしていた。
     <起>出会った瞬間に恋に落ち、そして戦場に赴く彼との別れ。<承>彼が帰国していろいろあるものの、何となく様々な行き違いを処理して幸福を掴み取る時期。<転>しかし、ある時、過酷なまでの運命が彼らを訪れる。<結>嵐が吹き過ぎた後のそれぞれの収め方。
     そういった起承転結の時代を原稿の形で語らせ、現在のニューヨークに生きる女性の今が、これを前後でサンドウィッチしている構造である。現行の執筆者である女性と、今それを読む女生との関係は何であるのか? それらは渡された原稿を読み進むにつれ明らかになってゆく。壮絶な起承転結を持つ物語とともに。そして、<起>と<結>には現在を生きる読み手の彼女も深く関わってゆくのだ。物語と構造の二つの見ごたえに読者はいざなわれる。
     赤狩り時代の恋愛物語の要は何よりも、幸せすぎる恋愛と、過酷すぎる悲運との落差にある。ヒロインは女性コラムニスト。実の兄はコメディ作者。作者のダグラス・ケネディ自体が、ジャーナリストや脚本家を経験したということだから、得意の世界を舞台にしつつ言葉は踊る。人気コラムニストという設定のヒロインゆえの、研ぎ澄まされウィットに富むお洒落な文章で綴られるゆえのページターナー。
     大戦と赤狩りという負の歴史を拝啓にしているゆえの重さ。恋愛を通じて生涯を捉える人々たちゆえの厚み。どちらも備えて重戦車なみの長大ロマンを作り上げた作者は、これまでの邦訳3作では奇抜なアイディアを軽妙な語り口で読ませる新人であり異端であるように思えていたが、これを境にどう変化したのだろうか。フランスを旅行した時、ドライブインでこの作者の名を多く見かけて驚いた。邦訳はあまりされていないのに、フランスのエスプリには相当歓迎されている作家であるらしい。
     日本でもこういう、アクは強いが名人芸の文章で、読ませる作品をもっと果敢に売り出してほしいものである。

  • 原タイトルは、「幸福の追求」であるが、邦題は「幸福と報復」。読み終わった後で考えると、邦題のほうが適切に内容を表しているように思う。各登場人物は、その時々でなした判断はやむを得ない状況であるが、その決断が不幸を呼ぶ。どうしようもないジレンマ。起こるべくして起こる。こんなことは現実には誰にも起こっているのだろうなと。

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