ナショナル・ストーリー・プロジェクト Ⅱ (新潮文庫)

著者 :
制作 : ポールオースター 
  • 新潮社
3.60
  • (15)
  • (27)
  • (34)
  • (4)
  • (2)
本棚登録 : 454
感想 : 26
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (359ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102451120

作品紹介・あらすじ

失業、戦争、身近な人の死。誰の身にも起こりえる、だが決して「普通」ではない瞬間。少女の日のできごと、戦時中の父との逸話、奇怪な夢と現実の符合。深刻だったり、たわいもなかったり、茫然とするほどの暗合に満ちていたり-無名の人々が記憶のなかに温めていた「実話」だけが持つ確かな手触りを、編者オースターが丁寧に掬いとる。無数の物語を編み上げた、胸を打つアメリカの声。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • オースターがラジオ番組のために一般の人々から募集した実体験集の続編。数ページといえど物語の原型といえるような体験談が詰めこまれ、お手すきの合間に大満足な読書ができました。

    印象に残ったのは『一九四五年八月』。死の運命から逃れたと思った選択が、死を呼び寄せてしまうのはまさに"サマーラの死神"の現代版です。これが実話だとは…。ほかにもニューヨークに大寒波が到来した日にスケートに出かける兄妹の物語『雪』。猛暑日だろうが心がほっこりするのはいいものですね。そして、オースターのラジオ番組をきっかけに自分に目覚める『ありきたりな悲しみ』。平凡な日常にだって物語の端緒となるような機会があちこち転がっているのかも。

  • なんとシンプルな企画でこれほどまで効果を挙げたものだ。特に最後の「瞑想」カテゴリーの秀逸さはまさに玄人はだしの領域に達す。ひとつひとつ密度や出来栄えや深さに差こそあるものの完成度はすばらしく高い。翻って此岸のたとえば新聞投書欄、たとえばブログのテキストなどの貧しさ乏しさ狭さを思うに、寂莫たるものを禁じえない。

  • 高校生の頃、図書館で勉強を放り出してむさぼるようにこの本を読んだことを思い出した。あの時代の、あの頃のアメリカ。それも草の根レベルの、非常に小さくて、馬鹿で、でも人間臭くて、愛すべきアメリカ。これこそが物語だと、こういうものこそが真の物語だと心底おもう。ベトナム戦争がアメリカ国民のこころにどのようにしこりを残しているのか。それをダイレクトに率直に伝えるのは溢れる文体でヒロイックに戦争を描いた物語ではなく、こういった小さな庶民のささやかな物語であると。当たり前のことだけれどもそれぞれの人々がそれぞれの関係性をもって、それぞれの気持ちをもって、生きているその生き生きとした物語を読むということは、何にもかえがたい喜び。

  • Iに引き続きこちらも読破。
    Iも良かったけど個人的にこちらのIIで取り上げられてるテーマの方がよりそれぞれの人生を追体験している気分を味わえて好みかもしれない。
    テーマに戦争、死、愛など重ためのものが含まれているからこそ人の感情がよく伝わってくる。
    瞑想というテーマも普段は覗くことのできない他人の取り止めのない思考を知ることができてよかった。
    個人的なお気に入りエピソードは「一九四五年のクリスマス」、「スーザンからこんにちは」、「予行演習」、「石掘」、「アナ・メイ」、「海辺」かな。

  • これが、アメリカの姿。

    ポール・オースターのラジオ番組の企画、第二弾。戦争だったり愛だったり、様々なアメリカにいる「わたし」のストーリーが語られる。最後に収められた「ありきたりな悲しみ」のラジオについての投稿が、まさにこのプロジェクトを語っていると思う。

    後書きによるとこの本の出版は2001年9月13日。プロモーションでは9.11に触れて、アメリカが「なぜ嫌われ」もしくは「評判は悪くなる一方」なのか、アメリカとは、自分たちは何者で何を考え何を信じているかを問い直す時に出版された、と書かれている。文庫本のための後書きによると、その時はオバマ氏が大統領になった頃で、アメリカ人はもちろん世界が「アメリカの理念に対する期待と信頼をふたたび取り戻しはじめて」いる頃のようだ。ここにあるアメリカは、温かく、時に滑稽で、くすりと笑える愛おしさを備えている。

    しかし、今、オバマ氏の次の次の大統領が選ばれようとしているアメリカの姿は、もうどう表現していいのかわからないほどの混乱と失望と対立の真っ只中だ。ここに声を届けてくれた人たちにも、信じるものがあり、失いたくないものがあり、そのために今戦っているかもしれない。

    アメリカは(アメリカだけではないけど)声に満ちている。声が響き渡っている。願わくば、わたしが何者かを語る声が、相手を傷つけるためのものにならないように。ラジオから流れる、孤独な人に寄り添うような声であるように。

  • 39813

  • 文学
    人生

  • (01)
    物語たちの半分ほどを読み進めた頃,ふと柳田國男の遠野物語のことを思い出した.本書は,読み方によっては現代アメリカの遠野物語になるのかもしれない.
    泣ける話,笑える話にも事欠かないが,それ以上に奇妙な話(*02),奇跡的な話に驚かされ,それらの物語は,人物や物事の先や上にある何物か,それはおそらく原題には残る神を示唆するものなのだろう.その意味では,神の跡を示す物語たち,つまり現代の神話篇と呼びたくなるような仕上がりにもなっている.
    なぜラジオなのか,不特定の人々に,不特定の物語を募るプロセスが,神の降誕には必要な手順であり,儀式であったのかもしれない.瞑想の最終話にはラジオならでは啓示性が現れている.

    (02)
    オカルトめいた信仰告白集でもある.リアルなストーリーという点では,2010年前後の日本のテレビに現われた「松本人志のすべらない話」に似通った魔圏が形成されている.
    本当か本当でないか,それは他人によってはもちろん,語る本人や語られる当人にとっても証明することはできない.作り話ではない,が前後関係,因果関係はそれが過去の語りである以上,あとから付け加わる箇所もあり,話として整えられ美化される箇所もあり,信じていたいたいという吐露が言葉に現われる箇所もある.こうして語り手によって時間をかけて織られた文章は,どこに作用するのだろうか.
    本書は,ストーリーやヒストリーという問題系に意欲的に,そして実践的に取り組んだ作品でもある.

  • 事実は小説よりも奇なりという使い古された表現は使いたくなかったけど、そうとしか言いようがない草の根レベルのアメリカが見えた。

  • ずっとベッドサイドに置きっ放しにし、読んだり読まなかったりしながらかれこれ5年以上経った。その間に4つの家に住み、3回の引越しを経験した。最後は一気に読み切った。ようやく、数年ぶりに晴れて本棚に戻ります。

  • 誰もがもっているとっておきの話だったり,不思議な話だったり,怖い話だったりを集めた第2弾。それは誰かに語るときに意味の広がりが現れるのかも知れない。聞いた話をきっかけに何かを思い出し,何かを考え,誰かに近づこうとするのかもしれない。

    愛と死という人生の重要なテーマが含まれているこの巻。そこは読んでいて面白かった。最後の瞑想は「で?」ということが多かったが,それは私の心に内襞が少ないからであろう。

  • ラジオ番組により全米から集めた小話を基にした短編集。たしか日本でも内田樹氏が同じようなものを制作したと思う。

    いきなりⅡから読み始めたが、思った以上に面白かった。

  • こういうのを珠玉のストーリー集というのだな。先にⅡから読んじゃったけど。
    まさに“事実は小説より奇なり”。
    もし日本で同じことをしたら、もっととんでもなく湿っぽい、編者の作為が透けて見える“さぁ、泣いてください”的なものになるだろうなぁ……(うへぇ)。
    ポール・オースター。『幽霊たち』しか読んだことがなく、映画はまぁまぁ好きだけど、何となく苦手な作家だった(イケメンだけどw)。
    でも、これを機に、多作品を読んでみる気になっている。手始めは『ティンブクトゥ』。

  • 事実は小説より奇なりなんだねえ。
    ほんわかしたりぞくっとしたりわけわからなかったり、いろいろ楽しめました。

  • 考えさせられる話、いい話、びっくりする話が満載です。日本の本でもこういういい話し集ってあるよね。国は違えど人間の心は一緒だと思いました。

  • 単行本が文庫化されて上下2巻となっているのだが、こちらはその下巻にあたる続きの「2」。編者の米国作家ポール・オースターによって、読みやすいようにいくつかの章にカテゴリー分けされている。こちらの「2」に収録されているのは、「見知らぬ隣人(「1」からの続き)」、「戦争」、「愛」、「死」、「夢」、「瞑想」の6章。 次から次へと語られる無名の人が書いた話を読み続けていくうちに、それぞれの人々が出会う人生の不思議に感動する。人が生きていくということは、かくも不思議な驚きに満ちているのだと思わず感嘆してしまうのだ。楽しい話や感動的な話ばかりではない。中にはどうにもやるせないあきらめもあれば、教訓めいた話もある。そのひとつひとつが集まって、まさに現代アメリカの実話のアーカイブスとなっている。

  • ⅠとⅡで間があいてしまいましたが、面白かったです。
    オースターの色々な偶然を読むのも面白かったのですが、
    アメリカ人の今を感じられて、もっと身近に感じられました。
    普通の人の中にもストーリーがある。
    自分が書くとしたら・・・何を書こうかなと考えました。

    でも良く考えると人それぞれ偶然の産物みたいな経験ってあるのかもって思いました。通勤にはこのようなショートストーリーがあっている気がします。一瞬で違う世界に行けるようで・・・・

  • 柴田さんの訳者あとがきを読むまではアメリカの人々というより国とか関係なく生身の声が語るすばらしい物語たち、として読んでたんだけど、9.11の直後に出たことを知って、見方が少し変わったというか増えたというか。いずれにせよ最高の本でした。

  • 上巻とあわせて
    何十億の人間がそれぞれの物語を抱えている。

  • 偶然か必然かなんてこと。

全26件中 1 - 20件を表示

著者プロフィール

1954年生まれ。東京大学名誉教授、翻訳家。ポール・オースター、スティーヴン・ミルハウザー、レベッカ・ブラウン、スチュアート・ダイベックなどアメリカ現代作家を中心に翻訳多数。著書に『アメリカン・ナルシス』、訳書にジョナサン・スウィフト『ガリバー旅行記』、マーク・トウェイン『ハックルベリー・フィンの冒けん』、エリック・マコーマック『雲』など。講談社エッセイ賞、サントリー学芸賞、日本翻訳文化賞、早稲田大学坪内逍遙大賞を受賞。文芸誌『MONKEY』日本語版責任編集、英語版編集。

「2023年 『ブルーノの問題』 で使われていた紹介文から引用しています。」

柴田元幸の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×