皇帝フリードリッヒ二世の生涯 上

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (301ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103096375

感想・レビュー・書評

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  • こういう人が世の中を引っ張って行くんだな。という感じの中世の異端児フリードリッヒ2世。
    ルネサンスの先駆けではあるけど、あの時代では生まれてくるのが早すぎたような気がします。
    ルネサンスに生まれていれば、宗教との対立や批判もなく過ごせただろうに…。だからこその先駆けとはいえ、彼の生涯とその後が気になる展開です。

  • 塩野七生さんの最新刊。

    構想に40年以上とかいうことだったのでかなり期待。
    あのカエサルやマキャベリ以上の思い入れがあり、さぞ素晴らしい考察をされているかと思いきや肩すかし。

    確かにあの中世で思い切った改革を行い、ルネサンスの先駆けとなったフリードリッヒⅡではあるけど、その凄さが伝わってこなかった。

    伝わってこなかったのは、そもそも皇帝と法王という二元的対立軸に陳腐化したためか、それとも中世のカトリックが権威どころか権力を持っていたことが日本人として肌で感じにくいことか、そもそも著者の文章表現によるものかは分からない。全体を通して単調で、ローマ人の物語のような著者の気迫による人物描写がなかったように感じる。

    しかし、フリードリッヒⅡという人物を取り上げてここまで詳述した邦人作家はいなく、その点では世に出した功績は非常に大きい。

    洞察力、先見性、実行力にずば抜け、政治機構を大改革し、それがために法王と対立したがその対立すら主導していく。

    しかし、フリードリッヒⅡは取り組み方が非常にまじめすぎる。
    ガチガチのコチコチ。

    カエサルがもしその時代にいれば、あれば遊び心満載、対立することなくそつなくかわしていたように思える。

    カエサルが政治に躍り出る際に真っ先にしたことは、まったく信仰心など無く遊び暮らしていたくせに、自ら神官に立候補。若くしてローマで最高の神祇官になっちゃった。宗教的権威を良く知っていてかつ利用方法を知っていて、対立するというか自分がそれと同体化するという離れ業。結局カエサル以降アウグストゥスも最高神祇官を兼ね、以降の皇帝は全てカエサルを模す。キリスト教を国教化したテオドシウスから兼ねなくなったけど。

    フリードリッヒⅡは法王との対立に終生悩まされたのは、カエサルの時代とは比較できないくらい当時のカトリックの影響力が大きかったのはよく分かる。フリードリッヒⅡという叡智の塊のような人物が法王との対立を考え抜いて外交と武力で交渉していたが、それでも暗い中世という時代には通用しなかった。勧善懲悪的物語構成でいえば「敵に勝てなかった」という結末に終わったのがすっきりしない読後感になったのかな。

  • タイトル通りの中世ヨーロッパ物語。

    上巻は誕生からロンバルディア同盟軍との勝利(1194年~1237年)のお話。
    作者自ら中世史の真打ちと銘打っただけ、生き生きと描かれている。
    「ローマ人の物語」のカエサルへの肩入れ以上かもしれない傑作であろうと思われます。

  •  塩野さんが「ルネサンスとは何であったのか」の中で,ルネサンスの先駆者としてアッシジのフランチェスコととともに挙げた,フリードリッヒ二世の伝記のうち,42歳までの前半を扱っています。
     塩野さんは,ルネサンス時代を中心に扱ったルネサンスモノから執筆活動を始められ,その後に15年をかけて「ローマ人の物語」で古代ローマを書き終えられてからは,ルネサンスとローマの間の中世を舞台にした作品で間の時代を埋めていらっしゃるいますが,その中世モノの最後として,この「皇帝フリードリッヒ二世の生涯」を執筆されています。

     この作品は,塩野さんの強烈な自信が感じられる,次の書き出しから始まっています。
    ---
     これら中世モノの最後が,この『皇帝フリードリッヒ二世の生涯』です。今度はキリスト教世界内部の対立であり,聖権と俗権をめぐっての対決ですから,中世モノの「真打ち」という感じでもある。
     とはいえこれらの諸作はいずれも,中世の一千年間を舞台にしていることでは同じです。同じ時代を,照明を当てる対象を変えながら書いていった,としてもよいかもしれません。
     ゆえに私が,読んでくださるあなたに保証できることはただ一つ,これらを,とくに中世ものの真打ちの感ある「フリードリッヒ」をお読みになれば,中世とはどういう時代であったかがわかるということ。そしてその中世の何が古代とはちがっていて,なぜこの中世の後にルネサンスが起こってきたのかもおわかりになるでしょう。 
    皇帝フリードリッヒ二世の生涯(上) 読者に より
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     ルネサンスへの扉を開いた,皇帝フリードリッヒ二世がどのような幼少時代を過ごしたのか,そしてその幼少時代の環境が彼にどのような影響を与え,時代を転換させることになったのか。また,神聖ローマ帝国皇帝であり,シチリア王という立場にあった彼が,どのような対内政策や対外政策を行うことで,時代を転換させようとしたのか。彼の半生と時代を転換させた思考や行動という観点からの塩野さんの叙述は,塩野さんの歴史物の中でも,冒頭の自信につながる内容になっていると考えます。
     これまで,塩野さんの作品を読んでこられた方々には,ルネサンスモノとローマ人の物語で,「ローマ」,「中世」,「ルネサンス」というそれぞれの時代の特徴が何度も叙述されているのをご存知だと思いますが,その特徴をフリードリッヒ二世の生涯を通じて,より明確にまとめられているなという印象を持っています。

  • あい変わらず、塩野さんの本は読ませます。最初からぐいぐい引き込まれていくこの感覚は塩野節とでもいうものだろうか。皇帝の伝記という形を取って、中世とはどういう時代だったかを知るための好著と思う。

    以下注目点
    ・人間は同じようには出来ていない。親と子でも、同じようにはできていない。逆境でも克服できる人はいるが、克服できない人も多いのだ。そのうえ、さらなる逆境に、自分で自分を追いこんでしまう人さえいるのである。

  • フリードリッヒ二世って、歴史上2人います。本書で描かれる神聖ローマ皇帝と18世紀プロイセンのフリードリッヒ二世。どっちも歴史に名を残す「フリードリッヒ二世」なんだけど、ややこしいなあ。

  • ルネサンスの先駆けとも言える皇帝の生涯。
    膨大な資料と著者の豊かな想像力と表現力の結果なのでしょうがまるで見てきたような文章でその場面が目に浮かぶシーンが多くあります。
    著者の本を読んでいると遠い過去の人々がふと身近に感じることがあるのですがこの本もそうでした。

    二度も波紋を言い渡す法王と対抗する皇帝の姿に『カノッサの屈辱』を思い出し、ハインリヒ4世との対応の違いに彼の先進的な思考を感じました。あの当時、今で言う政教分離を考えていたとは。

  •  神聖ローマ帝国皇帝、フリードリッヒ二世。1194年に生まれ、1250年に死ぬ。

     中世ヨーロッパの文献など聖職者や官僚の記録から探るしかないだろうに。

     それなのになぜ、塩野七生は実際に彼を見てきたかのように描写できるのだろうか。

     特に、鷹狩りに出かけるフリードリッヒ二世の馬の蹄の音を聞き、住民たちが一日の始まりとして起きだしてくるという描写がある。

     そんな文献は無いだろうに、しかしまるでフリードリッヒ二世が馬にまたがり丘から駆け下りてくる情景を眼に浮かべることが出来る。

     そのイメージを脇立てる書き手の筆の力というのは抜きんでている。


     幼少の頃より皇帝になることを運命づけられ、
     皇帝になるまでの旅の途中で敵対する町の兵士に追われ馬ごと川に飛び込み、
     神聖ローマ帝国とシチリア王国を手中に収め、
     ローマ法王と対峙し、聖地を巡り異教徒と交渉を重ね、
     国の在り方を変えようと全力で取り組んだ。

     こんな面白い男がいたのか。ヨーロッパの暗黒時代と呼ばれる中世に、心躍らせるような男が。

     ただの伝記ではない。気持ちの良い男の生きざまを描く。

  • 下巻に記載

  • 私にとってフリードリッヒ2世と言えば、18世紀の啓蒙専制君主であるプロイセン王の方なのだが、本書は、13世紀に世界の驚異と呼ばれた同名の神聖ローマ皇帝の一代記。
    塩野七生の手にかかると、ルネッサンスよりも100年も前の中世に、法の支配や政教分離という現代に通じる考え方を実践していた奇跡の人の一生がドラマチックによみがえる。特に、この上巻は、いわば昇竜のような成功譚で、読んでいてもわくわくする。

塩野七生の作品

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