レッドアローとスターハウス: もうひとつの戦後思想史

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (396ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103328414

感想・レビュー・書評

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  • 西武天皇と共産党

  • 西武線クオリティーが、割と、理解できた。

  • 回送先:府中市立押立図書館

    純粋に本書は『可視化された帝国』の後期昭和バージョンであり、さしづめ『擬似天皇の逝く国で(元ネタ:ノーマ・フィールド『天皇の逝く国で』)』というべき一冊である。あるいは1993年から放映された『勇者特急マイトガイン』に対する沿線住民からの痛烈な反語返しの歴史であり、証言であるとも言えなくはない部分を含んでいる。

    本書は原にとっての「足元」、すなわち多摩六都と呼ばれることになるエリアで、大規模に造成されたカウンシル・フラットを舞台に、居住集団と政党と鉄道事業者などの複雑でしかし地に足のついた「政治」を思想的に眺めなおす試みのいくつかある事例のひとつである。その意味では、カウンシル・フラットという建築様式と政治体制の比較検討などは居住する住民の意識にすら影響するという指摘は、飛躍していそうで実はそうではないのかといぶかしむようになる。

    しかしながら、相も変らぬ批判をしなくてはならないところに原の(鉄道という補助線を用いた)言説の限界性が見えてくる。まず、本書のタイトルにも記される「レッドアロー」こと西武5000系は確かに団地住民の恨みを買ったには買ったのだろうが(そして原少年の羨望を煽ったのだろう)、それはあくまでも西武池袋線にとどまること、そして毎度の批判―すなわち西武多摩川線への視野の欠如である―によって生じるであろう車返団地の存在が丸ごとカットされていることである。もしかしたら、西武池袋線や西武新宿線での住民運動が西武多摩川線でも波及したかもしれない可能性はありえるのかといった疑問に原は一切答えない。あたかもそれは京王帝都電鉄の管轄であるといわんばかりの態度である。

    願わくは原自身の鉄道に対して向けられる性的欲望(とあえて言ってしまおう)が、当時のカウンシル・フラットに居住する住民が抱いていた「不満を昇華したい」という欲望とどこが同じでどこが重症かということを政治思想のタームを用いて説明してほしいことだ。自分だけが免罪符の位置にいるとはよもや考えてはおるまい。

著者プロフィール

1962年生まれ。早稻田大学政治経済学部卒業,東京大学大学院博士課程中退。放送大学教授,明治学院大学名誉教授。専攻は日本政治思想史。98年『「民都」大阪対「帝都」東京──思想としての関西私鉄』(講談社選書メチエ)でサントリー学芸賞、2001年『大正天皇』(朝日選書)で毎日出版文化賞、08年『滝山コミューン一九七四』(講談社)で講談社ノンフィクション賞、『昭和天皇』(岩波新書)で司馬遼太郎賞を受賞。他の著書に『皇后考』(講談社学術文庫)、『平成の終焉』(岩波新書)などがある。

「2023年 『地形の思想史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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