- Amazon.co.jp ・本 (245ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103336419
作品紹介・あらすじ
何を作っているのかわからない、巨大な工場。敷地には謎の動物たちが棲んでいる――。不可思議な工場での日々を三人の従業員の視点から語る新潮新人賞受賞作のほか、熱帯魚飼育に没頭する大金持ちの息子とその若い妻を描く「ディスカス忌」、心身の失調の末に様々な虫を幻視する女性会社員の物語「いこぼれのむし」を収録。働くこと、生きることの不安と不条理を、とてつもなく奇妙で自由な想像力で乗り越える三つの物語。
感想・レビュー・書評
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表題作が、改行の少ないページにびっしり文字が並んだ作品だったため、読みにくいのかと不安になったが、意外に内容は面白かった(薄気味悪い部分もあり)ので、最後まで読み続けることができた。
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小山田浩子「工場」
第150回芥川賞を受賞された、小山田浩子さんの第一作です。
新潮新人賞受賞作の「工場」を含めた3編が収められています。
天井裏の穴にへばり付いて、他人を覗いているような
顕微鏡にかけた庭の土くれに、小さな虫がひしめいているような
静かな興奮。
芥川賞の「穴」も読まないと。 -
『穴』が読みたかったのですが、こちらが最初の作品なのですね。
表題作が面白かったです。工場、そこは楽園かはたまた牢獄か…。拓けているのになんだろうこの閉塞感。
そしてそれは環境だけでなく、イビツな人間関係にも言えること。
組織というもののとらえどころのなさと儚さを思います。
他の2篇は、読んでかなり疲弊しました(^^;;
そしてどの作品にも言えることですが、はずみをつけて飛ばされたボール、そのまま誰の手にも戻ることなく放置されたまま…そんな感覚の結末ばかり。そもそもこれは結末なのか、それとも何かの始まりなのか… -
不穏。
なんてことないストーリーのようで、後からじわじわくるタイプの作品。
ずっと座ってた座布団の下にマムシがいた、あの違和感それだったのかー、みたいな感覚。
不穏という空気を物語にしたら、こうなった、という印象。冒険もの、エッセイ、ファンタジー、ミステリー、様々なジャンルを読む人がその中に挟み込むといいかもしれない。
居酒屋メニューの中の、定番ではなく、得体が知れなくて、ちょっとどうなの?という見た目で、食べても変な感じだけど、翌日あれ美味しかったなあと思い出すような作品。工場ウ、そうきたか。
職場の人たちの、ささやかな、でも大きな、未熟さや悪意をこんな風に描けるのもすごいな、と思った。 -
不気味
毎日単純作業しかやらないで気がおかしくなりそうなのを無視だの奇怪な動物に例えていて妙に納得した -
三つの短編中、二編が会社を舞台にした不条理小説。一日中一言も話さないような仕事をしている身としては、人が単細胞生物のようにごにょごにょしている様子が気持ち悪いようなうらやましいような気持ち。定年までいられるならわたしも「工場」で働きたい。敷地内で何でも揃いそうだし。
語り手のぱっとしない女の子たちの、24時間実は深く深く怒っていそうな投げやりな態度が不気味で怖かった。何ものも彼女らの不機嫌を癒すことはなさそうで。 -
デビュー作「工場」含む三編。具体的に何を作っているのかどのぐらいの規模なのか(かなりデカイ)全くわからない工場に勤めることになった3人の視点から描かれた奇妙な工場の実態と生活。河があり森があり山があり、飲食店だけでも何十店舗と入っていて、クリーニング工場や職員住宅まであり、巨大なヌートリアの死骸が見つかったり正体不明のウがいたり。とにかく謎しかないような工場。この謎と謎を取り巻くシステムそのものが現実社会に喧嘩を売ってるというか上等な皮肉りになっているような作品。心の中の声が鋭く汚い牛山佳子の怒りや疑問は正当なものだ。よくわからないが大卒研究者というだけで何十年も成果を上がらなくても、ともすれば退社するまで何もしなくてもいいような仕事を高待遇でまかされた古笛ののんきな疑問も正当。きっと主人公たち以外も感じていること。誰もがおかしいと思いつつも工場は稼働し続ける。そしてウの正体よ。
他二編も面白かったなー。○○小説という言い方があるけど、職場小説を通り越した生きかた小説みたいな感じ(皮肉だけど現実に即した)。 -
面白くなくは無いけど、文体が読みにくかった。そしてよく分からなかった。
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最初、改行が少なくて読みづらいと思ったけれど時系列が?とかさっきまでのとは別の人のモノローグだ、と気付いてから俄然おもしろくなった。
労働に対する牛山さんの考え方に頷き、ヌートリアより工場固有種のウに興味津々。
でもどこの会社にでも居そうな後藤が怖い。
いつの間にか場面が変わって別の登場人物のモノローグになっていたりするのは、読者に対する不親切というよりも、至極誠意のある客観性なのかと感じた。
作者や読者が居る現実への客観と創造の絶妙なバランス。
後藤と古笛さんを追って再読しようかな。 -
「工場」と「いこぼれのむし」は、視点が何度もスイッチして、丁寧に丹念に、それぞれ「工場」、「オフィス」という場所を描いていて好み。ものすごく精巧な積み木を、時を追ってスキャンしているみたい。
「ディスカス忌」はちょっと物足りなさも感じたけれど、その分妄想が膨らんだ。熱帯魚の餌を漁っていた飢えた少女が、じつはその後浦部君の内縁の妻になり、浦部君が死んだ理由は、彼女をぞんざいに扱う浦部君を、彼女が殺した。と、軽いホラー小説として読んだ。