半席

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103342335

作品紹介・あらすじ

分別ある侍たちが、なぜ武家の一線を越えたのか。直木賞受賞後、待望の第一作! 若き徒目付の片岡直人に振られたのは、腑に落ちぬ事件にひそむ「真の動機」を探り当てることだった。精勤していた老年の侍がなぜ刃傷沙汰を起こしたのか。歴とした家筋の侍が堪えきれなかった積年の思いとは。語るに語れぬ胸奥の鬱屈を直人が見抜くとき、男たちの「人生始末」が鮮明に照らし出される。本格武家小説の名品六篇。

感想・レビュー・書評

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  • 人の心には、いろんなものが巣食うのですね。悪気ない人からひどく傷つけてられたと悔しさに塗れてしまったり、ただただ逆恨みが高じてにっちもさっちも行かなくなったり、、、お侍さんはそういう気持ちを表現することが下手すぎて、余計にこじれてしまう。直人はそこを解きほぐすことを求められるのですが、頑なな心の鎧をそっと剥がす、現代で言うと臨床心理士のような仕事ぶりが興味深かったです。

  • 半席とは、無役から役付きになっても、お目見え以上でない場合は一代限りの役となる。
    御家人から旗本になっても、そんなわけで半席ではいられないと、主人公の片岡直人は日々を励む。

    仕事は徒目付け。
    上司の徒目付頭の内藤雅之は時折、仕事以外の頼みという依頼を受け、直人に振ってくる。
    初めは断りを入れていたが、内藤の仕事ぶりを見るうちに、断りきれず半年に一度の頻度で受けるようになる。

    犯罪を犯し事件が決着を決めたあと、当事者の『なぜ?』の問いに答えることだった。
    何度も、事件に向き合ううちに、この仕事が好きになり、人間が深く理解するようになった。

    心地いい読み応え。

  • 目次
    ・半席
    ・真桑瓜
    ・六代目中村庄蔵
    ・蓼を喰う
    ・見抜く者
    ・役替え

    これは良い本にあたりました。
    徒目付として、日々仕事に励む片岡直人には、御家人から旗本への出世を目指さねばならない理由があった。

    彼の父は一度旗本に上り詰めたのだが、死後片岡家は再び御家人へ戻る。
    旗本としてついた役の次にまた同程度の役職につかないと、子どもも旗本と認められる永々御目見以上とはならず、一代限りの旗本ということになるのだ。
    それを「半席」という。

    父の死後無役の御家人からスタートした直人は、いずれ生れる自分の息子にはそんな苦労をさせないよう、旗本になれる役職を目指して日々仕事に励んでいた。

    ところが上役が持ってきた仕事は、公の仕事ではなく、個人的に頼まれた仕事。
    犯人は捕まり自白もしているが、なぜ事件を起こしたのかを口にしようとしない。
    自白があればそれで公に事件は解決なのだが、被害者はそれでは納得できない。

    本業の成績を落とさないよう、手早く解決しようとする直人だが、次第に武士として生きることの意味について考え始める。

    決して名のある武士ではない。
    しかし、市井に生きる侍にも、矜持はある。
    心の奥に隠してきた小さなしこりが、耐えられなくなった瞬間ひき起される事件。

    事件はどれも、些細な出来事がきっかけなのだが、それは被害者にも加害者にも痛みを与え得るものだった。
    そう、加害者も痛いのよ。

    直人が行き詰るとふらりと現れ、なにがしかのヒントを与えていく沢田源内という男がいる。
    ちょっとご都合主義のようにも思われる登場だけど、その素性は明らかにされないまま退場してしまったのが残念。

  • 結構時代小説を読んでると思うけど「半席」という
    ものを知らなかった(*_*)

    「半席」とは御家人だった家が旗本の家になるためには、当主が一度、御目見以上の役目に就くだけではなく、二度拝命しないと一代御目見の半席となる
    二度拝命は親子二代かけて成し遂げてよく、三代目は生まれながら旗本となる。

    なかなか理解が難しい…
    まあいわゆる旗本リーチ?たぶん( ̄▽ ̄)
    この半席を自分の代で出世して何としてでも旗本になるんだと、日々努力しひたすら仕事に励んできた主人公・片岡直人

    連作短編六話です。
    仕事以外の頼まれ事…事件の「なぜ」を解き明かす
    という物語。

    内容は面白かった。
    人情物というかちょっと切ない動機解明。

    ただ毎話「半席」の説明が入っててちょっとくどかったな…ここでも「なぜ」でした笑

    上役の雅之と主人公の直人は好きなキャラだったので、続きの作品も読んでみようと思います(^ ^)

  • 一代御目見えの半席を脱して、息子を生まれながらの旗本したい徒目付、片岡直人を主人公とした短編集。望む勘定方への出世を得られるような表の仕事ではなく、組頭の内藤雅之から解決した後の事件が「なぜ」起きなければならなかったのかという裏事情を探る役割を押し付けられる。犯人はわかっているが、「なぜ」の部分を知りたい人のためにそれを探る。前振りに比べて、結論至る家庭があまりに短く、短編であるが故の物足りなさがあるが、青山文平の長編の登場人物とは違う明るさのある登場人物は魅力的である。時代小説の先人たちと同じく、直人と雅之が交わす釣りやら食やらにまつわる無駄話を含め、雅之に語らせる語る様々な事柄が楽しい。

  • 御家人から旗本になるには
    ふたつのお役目を務めた実績がいるんですって。
    それは親子二代に渡ってもよく
    父親がひとつを務めた片岡は
    旗本の椅子に半分足がかかった
    「半席」の状態というわけ。

    なんとかして自分の代で
    もうひとつのお役目をもらえたら
    子孫は旗本として生きていける
    そう思って頑張っている片岡ですが
    上司の内藤は彼に「頼まれ御用」という仕事を
    ことあるごとに振ってくるのです。

    例えば、水死したご隠居の死の真相。
    老旗本ばかりの会合で起きた刃傷沙汰の原因。
    大恩ある主人を死なせた奉公人の
    その行いの裏にあるもの。
    老侍が町内に住む別の老侍を突然切りつけた理由。
    道場主を襲った老剣士の心情。
    それらを説き明かせと命じられ
    嫌々ながらに取り組んでいると
    少しずつ人の心の綾に触れて
    片岡の心持ちにも変化が現れるのでした。

    なんか…じんわりいい感じの時代小説ミステリでした。
    事件の真相が解き明かされたとき
    納得するとともに
    ああ、ボタンの掛け違えがなければ
    こんなことにはならなかったのに
    という人の世の哀しみが心に残る。
    そうそう『遺留捜査』っぽいわ!

    上司の内藤さまとのやりとりや
    町人の源内との不思議なつきあいなど
    ミステリ部分以外も好みでした。

  • 舞台は江戸中期。旗本への昇進を目指す若侍が、出世街道から逸れるような仕事を振られ、嫌々やっていくうちに、どんどん引き込まれる物語。その魅力的な仕事とは、罪人の「なぜ」を引き出すこと。罪を認め、おとなしく処罰される罪人。巻き込まれたもの、親しかったものは、なぜそのようなことを引き起こしたのかについて知りたいと願う。主人公は罪人と向き合い、心の底からその真意を引き出す。聞いてみれば納得。理解に苦しむようなことはないが、自分自身もそういった本心をひたすら隠していたり、思わぬ暴発を起こしたりすることもある。この若侍も、淡々と出世の道を歩むことより、このような人間の本質に触れることに惹かれていく。ミステリーとして読むと、それほど複雑なカラクリではなく、簡単に結び目が解ける感覚。ただ、それぞれの一途さ、矜持、父子の想いなど、改めて思い起こすことができるさわかかな読後感。

  • 歳を重ね、分別ある侍たちが、なぜ武家の一線を越えたのか。
    旗本に出世をすべく努力している若き主人公が
    上司からの「頼まれ仕事」で考え方が変わってゆく。

    彼らは「何故」事件を起こしてしまったのか。
    心に固く秘めた本当の理由はなんなのか

    ある意味「江戸時代のお仕事小説」

  • 事件の背景にある『なぜ』を読み解く。心理描写が秀逸。時代小説を読み慣れておらず、情景描写は理解しづらいところもあったが、面白かった。

  • 非常におもしろかった『泳ぐ者』の前作で、連続6話。
    1話目が『約定』所収で、他は2014〜16年の「小説新潮」

    徒目付を扱った小説は読んだことがなかったが、軍事政権である江戸幕府を、平和な世になってから支えたのが、勘定所(財政)と目付(検察と会計検査)なのだという。そこには2種類の人間がいて、何でもこなす表の御用を見込まれて、裏の「頼まれ御用」で稼ぐ者。そしてもう片方が主人公片岡直人のように上を目指すための梯子と考えて必死で表の御用だけを務める者。

    片岡は無役の小普請から抜け出し、父が一度だけ旗本格の役職に付いたことで「半席」となっている片岡家を永続の旗本にしようとさらに勘定所を目指していた後者なのだが、そのどちらでもない上役の内藤から渡される「頼まれ御用」を断り切れない。それはすでに罪を認めているが動機を語らない犯人から「なぜ」を聞き出すことだった。

    89歳で現役だった台所頭が水死したのは、銘刀を売って買った特殊な釣竿をめぐって72歳の養子と喧嘩し、放り投げた竿を拾うためだったと、養子から聞き出せたが、翌日養子は同じ場所で水死した。

    80歳以上で現役の幕臣の例会で、仲が良かった当日の主催者に切りつけたのは、昔疱瘡に罹った息子が希望した真桑瓜を食べさせたが命を落とした。相談して大丈夫だと言った友を恨む気持ちを押さえてきたが、例会で真桑瓜が出されたので、友は何も負い目を感じてこなかったと知った、というのが動機だった。

    一年契約で家臣として雇われた農村出身の男が20年以上も実直に働いたものの、病気で辞めたものの行き場がなく元の主家を頼ったが当主を突き落として絶命させ、最も重い鋸引きの刑が決まったのだが、親しんでいた主家の家族の依頼で動機を探ると、代々雇われ家臣に付けられるかつての自分の名前を新参の者が名乗ったからだという。

    隠密御用の老人が家の外で近所の当主に切りつけたのは、隠密御用を果たせていないのに下水掃除の割り当てを免除されていた引け目から、水害の多い大川の向こうで育って熱心にドブさらいをしていた男を逆恨みしたものだった。

    人間は本当に些細なことで箍が外れてしまう。「見抜く者」としてあまりに人臭い裏の御用の魅力に、片岡は出世の道へ進まなくなる。

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著者プロフィール

作家

「2022年 『ベスト・エッセイ2022』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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