手のひらの音符

著者 :
  • 新潮社
4.10
  • (86)
  • (112)
  • (47)
  • (4)
  • (2)
本棚登録 : 667
感想 : 99
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (259ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103348719

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 読んだような気はしてた。うん。
    でもそれを忘れてまた読んでしまう私。
    なんか前に読んだ時よりも心にしっかり残ったな。
    それだけ私も歳をとったって事かしらね。
    昔と今とが交錯しながら明るい方へと向かっていく。
    私の人生もそんな風に向かっていけるかなとほんのり勇気をもらいました。

  • ひたむきに生きる、人を思うひたむきさが切ない物語だった。
    45歳の水樹の回想は静かで穏やかだが、子どもの頃の水樹も同じ団地に住む信也たち3兄弟、同級生の憲吾にしても家庭状況はかなり過酷だ。
    子どもには大き過ぎる悲しみを背負わされている。けれど、どの子も歪むことなく素直で優しい。
    回想は優しさに包まれた幸せな時間が散りばめられている。心暖まるエピソードがとても良い。出会う人がまた素敵なのだ。
    大人になった水樹がへこたれそうになった時、支えてくれたのは過去のそんな想い出だ。
    水樹が信也を思い続ける、ひたむきさにも胸が熱くなった。
    人との関わりのひたむきさ、優しさの意味を考えさせられました。

  • 東京で服飾メーカーに勤めるデザイナーの瀬尾水樹は、会社から服飾業の撤退を決めたと告げられ、戸惑っていた。
    そんな折、中学高校と同級生だった堂林憲吾から電話がかかってきた。
    卒業後は就職と決めていた水樹を、デザインの道へと導いてくれた恩師が、回復の見込みのない病気で入院しているのだという。

    恩師を見舞うために故郷に帰った水樹は、音信不通になってしまった幼馴染の森嶋兄弟の事を思う。
    水樹の二つ上の兄・徹と同級の正浩、三つ下の悠人、そして同級生の信也と、五人はきょうだいのように育ったのだが…


    藤岡洋子さん、初読。

    最近の話題作には、主人公が絶望と悲劇の中で足掻く物語が多いけれど…
    そういう方法で、ドラマチックにしようとはしない。
    多くの人が胸に飲み込んでいそうな、ありそうな困難を抱えた登場人物たちが、ごく自然に描かれている。
    ラスト近くで、水樹は信也と再会を果たすが、だからといって、恋愛小説のような描写もない。
    それまでのエピソードで、どれだけふたりがお互いを思い合っているのかは描いたから、もう必要ないのだというように。

    淡くて優しく丁寧で、ある意味ストイック。

    水樹も信也も、そして悠人や健吾も、きっとそれぞれの笑顔で歩いていけると確信できて、清々しい。
    読み終えて、しずかに満足。

    “人によって、闘い方はそれぞれ違うんや。だから、自分の闘い方を探して実行したらええねん”
    小学六年生(!)の正浩の言葉が良かった。


    フォローしているsanaさんのレビュー(文庫本の)を読んで、単行本版で読んだのでこちらに。
    『手のひらの音符』というタイトルで、音楽ものかと思いこんでいた。
    何かもっと、いいタイトルなかったのかなぁ。

  • ★4.5

    服飾デザイナー瀬尾水樹45歳。独身。
    水樹の勤める服飾メーカーは大手ではない。
    16年前の29歳の時に極限までコストを抑え、かつ大量に売れるものを作り続ける事に疲弊し、
    国内の生産にこだわり、品質にこだわる。
    良いものを創れば必ずお客様に伝わる。そう信念をもってやってきたこの会社に転職した。
    順調に仕事を続けてきたはずだった。
    しかし、ここにき限界をきたした。
    社長から服飾業界から撤退すると告げられる。
    今後の身の振り方に悩む水樹のもとに一本の電話が入る。
    高校の同級生の憲吾からで、恩師の遠子先生が体を悪くして入院している。
    それをきっかけに再会した所、憲吾は地元京都で西陣織の再起を図ろうとしていた…。

    人生の岐路で思い出すのは、貧しい子供時代の事だった。
    現在の水樹と過去の水樹…思い出が交互に登場するんだけど、
    特に子供時代の様子は、決して恵まれているとは言えない瀬尾一家と森嶋一家。
    同じ団地に暮らす水樹と森嶋一家の三兄弟・正浩・信也・悠人。
    二つの家族が互いを思いやり、助け合い色んな苦労はあるんだけど真摯に生きてる。
    多感な思春期の少年少女の心情や行動が繊細な描写でまっすぐに届いて来る。
    表現が美しく自然で、景色や情景や気配までが、目に浮かぶ様でした。
    心にグングン染み入りました。
    森嶋兄弟の凄い兄弟愛も良かったなぁ。
    信也の優しさや強さも凄く良かった。

    それぞれ、事情があり苦労も沢山してるけど、それでも前向きに生きる姿が眩しかった。
    とっても良かったです(❁´ `❁) ♡
    物語全体に流れる空気感もとっても良かったです♪

  • 切なく、でも強く前向きになれるストーリー。

    信也も憲吾もなかなか過酷な人生だな。
    水樹も含め、強く、たくましく育っていけて(小説だからだけど…!)よかった。

    思春期に出会う友達、教師、すごく大切。

  • 読みながら何度も心が揺さぶられて、目頭が熱くなった。

    もう戻れない時。会えない大切な人。
    永遠の別れ。

    小学校、高校時代、そして現在と流れる時の中で、今なお色褪せる事ない思い出と、いつもそばにいた人達の存在。
    五人で手を繋いで行った夏祭りの、あの日の幸せな時を思うと切なくなってくる。

    多感な時期に傷ついたまだ幼い彼らに「頑張ったね」って言って、抱きしめてやりたいと思う。

    風変わりで周囲から浮いてしまう弟を見守る、兄二人も良かった。
    特に正浩は小学生ながら物凄い人格者で、人当たりも良い。
    でもその完璧さの裏で、本当は彼も憲吾のように色んなものをその胸に抱えていたのかもしれないな。

    同じ団地で育ち、共に遊び大きくなった水樹と信也。
    ある時は水樹が信也を慰め、ある時は信也が水樹を励まし、お互いに支えあってきた二人。
    音信不通になり信也の行方がわからなくなっても、何年、何十年経っても、彼への一途な想いを持ち続ける水樹。そして同じように信也も…。

    なんかもう読んでて胸がいっぱいになった。
    どんなに辛く苦しい中でも、人が人を想う気持ちは美しい。

  • 僕にはかなりビターな、「救いようのない話」のぎりぎり一歩手前のように感じられたが、その残されたかすかな希望がそれだけにとてもリアルで重くせつない読後感を残した。そのビターさにはホラーやサスペンスのような誰かの悪意によるものではなく、お話の都合というつくりものめいたハプニングによるものでもなく、今の社会の在り方だと確かにそうなってしまうかもしれないというところから出ているので、重く受け止めざるを得ないのだが、この世の難しさはすでに感じすぎているほど感じている身としては、フィクションくらいもう少し明るさがあってもいいかもしれないとは思った。

    その一つの塩梅として、主人公の現在の年齢設定が45歳というのはちょっと厳しすぎるようにも思えた。物語は現在と過去を往復しながら進むが、過去の回想は主人公たちが小学校ごろから専門学校卒業というところまでで、それ以降は急に現在に飛んでいるのだから、その飛んでいく先の現在は30くらい、遅くても35くらいでも良かったのではないかと思えた。
    そう考えるのは、自分らがそのくらいの年で最初の子を授かった時点でもう周回遅れという感じを受けているからかもしれない。

    とはいえ、作者とほぼ同世代の人間として、共有している時代感覚のリアルさはおかげではんぱなかった。

  • 純粋でまっすぐに自分の信じた道に向かって生きている人が身近にいるからお互いに襟を正して生きていられる、そんな感じがした。後悔しない生き方のお手本のようにも思える。初読みの作家だが他の作品も読んでみたいと思う。

  • いやぁ・・・
    年末に今年読んだ本を振り返ったときに、5本の指に入ってくるだろう。間違いなく。

    私たちも、命のリレーをしている。
    先祖から受け継いで、次の世代につないでいる。
    なんとなく閉塞感漂う世の中だけど、がんばる背中を見せなかったら、子どもたちもがんばっていけないよな・・・
    別に大金持ちでもないし、平凡な人だけど、困難に直面したら自分なりの戦い方で、日々できることを精一杯やっていこうと改めて思う。

  • 自分の夢を叶えるのは、強い意志さえ持っていれば、年など関係なく挑戦することだと思った。
    高校担任の先生が、もっと自分の事を親身に考えてくれる人がだったら、人生変わっていたかも!
    何て人のせいにしてはいけないな!
    この本は、よく過去の話と今の話が交互に出てくるが、違和感なくすんなり読めた。
    好きな作家の一人になり、他の本も読もうと思う。

著者プロフィール

藤岡 陽子(ふじおか ようこ)
1971年、京都市生まれの小説家。同志社大学文学部卒業後、報知新聞社にスポーツ記者としての勤務を経て、タンザニア・ダルエスサラーム大学に留学。帰国後に塾講師や法律事務所勤務をしつつ、大阪文学学校に通い、小説を書き始める。この時期、慈恵看護専門学校を卒業し、看護師資格も取得している。
2006年「結い言」で第40回北日本文学賞選奨を受賞。2009年『いつまでも白い羽根』でデビュー。看護学校を舞台にした代表作、『いつまでも白い羽根』は2018年にテレビドラマ化された。

藤岡陽子の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×