- Amazon.co.jp ・本 (206ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103360117
感想・レビュー・書評
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一度は聞いたことのある中国文学。その脇役に着目し書かれたサイドストーリー。
私は四面楚歌(以前『項羽と劉邦』を読みました)の物語が好きで、虞美人の視点から描かれた話が切なく一番良かった。後、印象に残ったのは最後の司馬遷と娘の話。
この物語は脇役を中心とした想像の物語だが、こうやって現代風に書かれていると中国文学というのは本当に面白い。学生時代は漢文が苦手だったが…若い頃分からない世界でも、大人になって面白くなる物は多いな。
万城目さんの普段の素っ頓狂なお話は大好きだが、こういった文章も書かれるのだなぁと感動した。
ちなみに最初の『西遊記』の沙悟浄を主役にした話は完全に岸部シローと西田敏行に変換(沙悟浄の言葉は関西弁に(笑))されていたし、次の『三国志』は頭の中で人形劇三国志の人形が演じていた(笑)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「西遊記」の沙悟浄、「三国志」の趙雲、「史記」の虞姫、司馬遷の娘など、脇役たちに光をあてた短編集。
西遊記というと、やはり孫悟空が頭に浮かんでくる。次は猪八戒か三蔵法師か。悟空と言い争う八戒にそれを諌めるお師匠様の図。
さて、沙悟浄はどのように絡んでいたのか?
ドラマも、人形劇も見たはずだが、今一つ思い出せない。なにか、極力浮世には関わらないでいようとするというか、第三者的な立場を保つというか、消極的なイメージだけが残っている。
それが、万城目さんが書くとそうはならないのですよ。
まったく人間臭いというか、自らの小ささ、これというもののなさを自覚していながら、何につけても周りのものと自分を比較し、序列をつけようとしてしまう。
相対的な自分の立ち位置がやたらと気になる沙悟浄。
あっけらかんとして自由奔放な悟空にも、自分の欲をコントロールできずおバカっぽいけれど実は優秀であったらしい八戒にも敗北感を感じ、みじめな気持ちとも折り合いがつけられない。三蔵法師に対しても自分など必要としていないのではないかと、疑念を抱きながら旅を続けている。
本当に、悟浄はこんなふうに考えながら、もやもやした気持ちを抱えて、ひたすら、歩いていたのかもしれないなあ。自分の中に存在するネガティブな感情に気づいてしまい、人はどうなのだろう、このような苦しみを感じることはないのかと、いてもたってもいられなくなる。
それでも八戒から旅を続ける理由を聞くうちに、自分の中に思わぬ変化が訪れ、ようやく自らの意志によって第一歩を踏み出した。
うつむいていたときにはまったく気づかなかった風景。顔をあげたとき、すぐ隣に自分を認め、見守ってくれる仲間がいた。それぞれに得意・不得意があり、そのよさを集めて力を合わせ、何かを成し遂げようとする。
そのためには、反応を心配して何もしないのではなく、勇気を出し、他に対して行動を起こさねばならない。一歩踏み出してしまえば、たいていのことは、取り越し苦労であったと後から気づけるだろうし、二歩目も続くというもの。
万城目さん、とてもよかったです・・・。
その他の話も、なかなかいい。
元の話を十分理解していたなら、もっと興味深く読むことができたとは思います。
もちろん、知らなくても十分楽しめますよ。
ただ、虞姫については、高校生のときの漢文の授業で習ったときの印象を大きく覆すものだった。
彼女はもっとはかなげで、哀しく美しい人だと記憶に残っていたが、本書ではなかなか気の強いところがあり、言われたとおりに振る舞うだけの健気な女性ではない。
この時代に、こういう女性がいたとしたら、『烈女』とか言われるのかも。
何だか気になって、「史記」と「項羽と劉邦」借りてみました。
どのような書かれ方をしているのでしょう。気になります。 -
高校生の時、授業で出逢った「漢文」にハマって、中国古典の「史記」や「春秋」を貪るように読んでいた。
漢文は、手に汗握る臨場感あふれる情景描写や苛烈な台詞の宝庫。それなのに、登場人物たちの内面描写は一切なし。それが却って、妄想をかき立てて、(1人で)盛り上がった盛り上がった。
そんな、かつての漢文系妄想オタクには、たまらなかった本作。
最遊記や三国志、史記といった中国古典を題材に、いわゆる歴史上の「主役」たちの影に隠れた「脇役」たちを中央に置き、その視点で「主役」を観察し、ひるがえって自己を掘り下げる、という、内面描写に溢れた物語。
「主役」たちの心の動きは明かされない。描かれるのは、「脇役」目線の「主役」たちの姿と、その過程での「脇役」の心の動き。
それが却って、主役・脇役双方の人生の劇的さや侘しさ、不可解さ等を際立たせる効果を生んでいて、趣深い。
帯に「おまえを主人公にしてやろうか!」なんてあるから、どんな悪魔系契約コメディかと思えば、どれも短いのに様々な人生を鋭く捉えた、哀愁に満ちた作品でした。
【掲載作】
悟浄出立
凡庸で常に傍観者の立場にいる悟浄は、心のしなやかな三蔵法師を慕い、粗暴ながら天才な悟空を羨み、仲間の足を引っ張りながらも常に楽天的な八戒を不思議に思うが、八戒には実は秘められた過去があって…。
趙雲西航
三国志の英雄・劉備とその義兄弟である関羽と張飛、天才的軍師・諸葛亮の四人の完璧な結束の輪と心の拠り所の外にいるしかない、趙雲の哀しみ。
虞姫寂静
何も持たない下級官女だった女が、当代きっての英雄・項羽に「虞美人」の名で侍ることになった裏側と最期。
法家孤憤
時の権力者・秦の始皇帝を暗殺しようとして失敗した男・荊軻と、文字は違うのに音が同じ名前を持つ官吏の回想。
父司馬遷
皇帝の怒りをかって宮刑に処せられた司馬遷の、娘から見た父の姿。 -
中国の古代に題材をとり、超有名な物語を目立たない部分から照らし出す短編集。
万城目さんとしては異色の作風で、しみじみとした味わい。
目の付け所が面白いです。
「悟浄出立」
このなかでは一番ファンタジックかな。
「西遊記」の沙悟浄が主人公で、確かに目立たない役‥
猪八戒の過去のエピソードのほうが強烈かも。
孫悟空が先を調べている間に、残った面々はまんまと妖怪の罠にはまったりして。
前に出ることを決意した沙悟浄の、ささやかな一歩。
「趙雲西航」
超雲、確かにいたけど‥
「三国志」が好きだった割には印象に残っていないですね。
故郷を思う超雲と、その憂いを見抜く諸葛孔明。やはり孔明は頭がいいのだった。
「虞姫寂静」
国を傾けた一因とされる美女、虞姫。
実は虞美人は亡くなっていて、よく似た後宮の使い女が突然召しだされて側に上がっていたという話。
十分大事にされてはいたが‥?
「法家孤憤」
必死で科挙を乗り越え、役人になった男。
秦王の暗殺を企てた荊軻という男と、名前の読みが同じで、かって試験会場で話をしたことがあった。
運命の分かれ道に思いを馳せる‥
臨場感のある展開。
「父司馬遷」
歴史家の司馬遷は李陵を弁護したために、罪に落とされた。
何も知らなかった幼い娘の視点で、じわじわと事情が解き明かされます。
本を売らずに宮刑を選んだ司馬遷は身内にも義絶され、自らを恥じていたが、娘の思いがけない励ましで立ち直ろうとする。
兄弟と違って教育も受けないで来た娘の一途さとたくましさが印象的。
2009年から2014年にかけて書かれた作品だそう。
そうだよね、一気に書けないよね‥
こちらは原典を読み直したくなるけれど、これ全部は一気に読み返せないし、関連するのはごく一部だと思うと‥
ちょっともどかしくて、苦しくなりますね(笑) -
色々な所で中国史には馴染んでいるので(ネトゲとか)、どの話も興味深く読めました。荊軻の秦王暗殺事件は有名なのに彼の物語はあまり知らない。目立たない沙悟浄、美人の代名詞、虞姫。司馬遷の娘。各々の物語が生き生きと描かれ、万城目ワールドは控えめでしたが、歴史を一緒に旅をしている気分♪歴史と重要な脇役である全員の生き様の積重ねなんだと思える一冊。「自分が行きたい方向に足を出しさえすればいいんだよ!好きな道を行けよ、悟浄。少し遠回りしたって、また戻ればいいんだ。もっとも出来ることなら最短の道をお願いしたいけどね。」
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読み応えがあって、情景がありありと浮かんで、出てくる人々の苦悩や恐怖や勇気や誇りに共感できる。
まるでひとつの人生を生き切ったような気持ちになれる。(いい意味で疲れる)
どうせ読むならそんな話を読みたいなと思いますが、この短編集はそれを叶えてくれました。
三蔵法師に付き従う沙悟浄、司馬遷の娘、四面楚歌の中を舞う項王の妃、諸葛亮と語る趙雲。
浅田次郎さんが選んだ舞台で、柳広司さんが書いたらこんな風になるのかな、という印象。万城目学さんの作品は基本的に笑えるものしか読んでなかったので、彼の才能に、まだこれからどれだけ楽しませてもらえるのかと、わくわくします。
面白かった。切なくなった。ホッとした。
過去にあったかもしれないストーリーに想いを馳せた後は、現実を生きねば。
読書っていいものですね。 -
表題作「悟浄出立」のインパクトがあまりに強くて、その後の4篇がかすんでしまった。
西遊記、三國志、史記など中国の古典から、物語られる中心人物ではなくその影響を強く受ける人物に焦点を当てた5篇となっている。
その中でも表題作の「悟浄出立」は、中島敦の「悟浄出世」「悟浄歎異」からなる「わが西遊記」を経由しているため、更に奥行きが増しているように感じる。たぶん中島のこの作品から着想してその他の4篇も書かれたのだろうと推測する。
悟浄出立に描かれた八戒の心情やそれを聞く悟浄の思いはずっしりとした重さを持って伝わってくる。 -
「とっぴんぱらりの風太郎」や「プリンンセス.トヨトミ」等とがらっと異なる調子の5編からなる作品。中国古典のそれぞれの脇役に焦点を当てての短編集、興味深く読めました! 気に入ったのは 法家孤憤 父司馬遷 だった。竹簡チクカンや宦官を改めて調べたりの余禄も頂きました 笑。違った万城目ワールドを味わいました! 楽しめました。
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西遊記以外はいろいろちょっと小耳に挟んだことのある話や人物像にまつわるもので、なかなか興味深いのだけれど、実際自分で読むことはないだろうと思われる中国の有名な史実や人たちにこんな形で触れられるなんて。
いつもの万城目ワールドとは違うけれど、これもまたよし。そしてとても素敵だ。愛がある。そう、この人のは書くものは愛に溢れているね、いつも。
でもいつもの調子のものもまた読みたいな。