最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103502913

感想・レビュー・書評

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  • 美術作家、小説家、建築家、音楽家、演奏者、いわゆるアーティストと呼ばれる人たち。生まれ持った才能と感性を思うがまま使い慣らし、これからフリーダムに生きてくであろう天才の雛集団が藝大なのかなと勝手に思っていた。

    とは思ったけどそうでは無いようで。

    薬剤を使うせいで肌荒れが酷い美校生、家が買えるくらいの楽器だけでなくパフォーマンス用のドレスを何着も用意しとかなければいけない音校生はジリ貧生活強いられてたり…と、知らない日常、美大生ならではの苦悩があった。

    色んな制約があってその中でベストを、理想を、面白さを、自分を、追求し続けている人。
    それが藝大生であり、藝大に関わらずスポーツやビジネスで天才と呼ばれている人たちの共通点なのかも。

    じゃあ普通の大学行って一般企業に就職した人は凡人でなんにもないのか?
    そういえば、同じように、人間関係とかお金とか仕事で毎日悩んでる。

    人生も、音楽や美術のように正解がないのなら、
    生きてる限りみんなアーティストじゃないかと。

    我慢とか諦め、ではなく、どうしたら?を問い続けながら、工夫する。楽しくちょっと自由に日常を捉えるヒントを貰えた気がした。

    __________________
    King Gnu井口理さんが出てきてびっくり!!
    藝大声楽科だったんですね!?知らなかった〜!

  • 世界最高水準・日本最高峰の芸術専門大学である「東京藝術大学」に通う学生たちとの対談をまとめたもの。

    普段はなかなか知りえない藝大の内側を垣間見ることができて素直に面白かったです。自由な校風と恵まれた環境、限られた時間とお金を存分に駆使して、全力で何かを表現しようとする学生たちの姿がそこにありました。本書では確かにななめ上の行動も多々紹介されているのですが、それぞれ自己実現に向かって真摯に取り組む真面目な人が多い、という印象です。

    奇人変人当たり前、非凡な学生たちをドーンと懐で抱える藝大。支えはするが後押しするわけでもなく、全力で向かってくる者を全力で受け入れ、指導するというよりは背中で魅せる鬼才溢れる教授たち。そして音校と美校、個々で並外れた技量を持ちながら互いに個性を認め合う学生たち。
    ゆるく正しく構成されたこの世界から秀でた才能が生まれ、それを今後も各分野で遺憾なく放出してくれると思うと、なんとなく日本の芸術分野は安泰だなと思ってしまうのです。

    来年は学祭にお邪魔してみようかな。半分は純粋な魅力と、半分は怖いもの見たさで。

  • 藝大出て直ぐに就職するのは1割らしい。就職するのは落伍者?芸術をあきらめ就職するしかなかったという理由で。
    確かに定年まで勤め上げるのが幸せという『常識』とは別の価値観なのだろう。
    考えていることがバカ過ぎて(しかも実際にやってしまう)ついていけないヤツが沢山いるみたいですね。
    充分異質なブラジャー・ウーマンはまだマシなほうなのか?
    入試問題「鉛筆、消しゴム、紙を使って好きなことをしなさい」で、合格を勝ち取った人の自画像の作り方。発想と実行力が天才!
    今年の春に金沢21世紀美術館に行ったが、意味不明な作品ばかりで「???」だった。
    美校の藝大生曰く「アートとは、知覚できる幅を広げ分かり合おうとすること。」らしいが、分かり合えそうにないと改めて思う。
    音校の藝大生曰く「音楽って生きるためにはなくてもいいもの。だけど、なくてはならないように発展してきた。」は分かる。
    9月初旬の藝祭。今年はチョットしたイザコザがあって警察が来たみたいですが、勇気を出して一度行ってみようかな。

  • 藝大の彫刻科に通う奥さんがいる著者が、藝大の内側や学生と生活について、実際に多くの学生に取材しながら解き明かしている。
    幼馴染が器楽科に通っていて、学生時代何度か遊びに行ったことがある。でも美校の方はあまり接点が無かったので、この本で色々知ることができて楽しかった。
    普通の美大でもかなりぶっ飛んでいるのに、その最高峰の藝大美術のぶっ飛び具合と言ったら、想像以上だった笑

    色々な現役学生の現在やっていることだとか、それについての考え、将来への思いが書かれていて、それぞれ凄く個人的なことなのだけど、何故かとても共感できた。
    自分が音楽も美術的なこと(デザイン)もやっていたり、別の大学を出て藝大に入り直した知人がいたりするせいかもしれない。
    音楽だけ、美術だけ、という大学ではなく、両方有しているからこその大学の強みというのは絶対に大きいなぁと思った。

  • あの東京藝大のルポなのだからして、もう興味津々。確かに「秘境」と言ってもさほど大げさではない気がするほど、実態が見えない大学だ。いったいどんな天才奇才たちが生息しているのか?

    さぞかし変わった人がいるのだろうという予想は、半分当たりで半分外れ。確かに、いやもう天才と呼ぶしかないよねという優れた才能の持ち主や(「口笛で藝大に入った」人がいる)、ちょっと他ではお目にかかれないファッションで構内を闊歩する人とか(この女性が一番のインパクトだった)、すごいわ~としか言いようのない方々が次々出てくるのだが、トータルな印象としては、多くの学生が真面目で真摯で、「普通の」若者なのだと感じた。

    一般人から見れば抜きんでた才能を持つ藝大生も、その道のプロとして生きていくのはとても難しい。それでも一生懸命制作や練習に打ち込む姿に心を打たれ、「珍物件」拝見、という最初の気持ちは、読み進むにつれてすっかりなくなった。若者がひたむきに何かに取り組んでいる姿って、本当にいいものだとしみじみ思う。

    音楽・美術それぞれに、思っていたよりもたくさんの学科や専攻があることにも驚いた。ピアノや油画のようなメジャーなものと並んで、古楽や三味線を学ぶ学生や、「先端芸術」という、何それ?という学科も登場する。なかなか内側を窺い知れない大学だけに、非常に興味深かった。



    ・これは是非見たい!と思ったのが、学園祭である「藝祭」。1年生による神輿パレードは、ニュース映像でちょっと見たことがあるが、やはり実物を拝まねば。

    ・東京藝大の入試はすさまじい倍率だが、国立なのだからしてセンター試験も受けねばならない。以前から成績も良くないと合格しないのだと思っていて、そこがまた藝大の値打ちをいや増すものだと有り難がっていたが、実技がずば抜けていたらそれで通ると書いてある。え~、そうだったの。

    ・友人知人で東京藝大出身者は一人だけ。楽理科卒の彼女の結婚披露宴で、声楽科卒の友人が歌声を披露してくれた。曲は「イッヒ・リーベ・ディッヒ」。みんな、もううっとり。次に指名された新郎側の友人が「新婦が藝大の人だとは知らなくて…僕も歌を歌うんですけど…スミマセン」と恐縮していた。彼が何を歌ったかは忘れた。

  • これは、今まで知らなかった世界!まさに秘境ですね。誰も彼もがすごい、エピソードが非日常すぎます!おもしろかったです。

  • 上野駅公園改札口を出、国立西洋美術館を横目に歩けば、上野動物園と国立博物館に挟まれた閑静な場所に東京藝術大学はある。「藝大」、天才たちの巣食う魔界。われわれ一般人にとってはまさに秘境だ。一口に藝大といっても大きく美校と音校に分かれる。美校は我々が想像する個性と独創性が求められる「変わり者」の世界。音校は競争熾烈な「ほぼプロ」の世界。

    題名と表紙絵からイロモノ本を想像したが、才能や感性では片づけられない藝大生の芸術に対する真摯な姿勢とたゆまぬ努力が伝わってくる。自分の学ぶテーマとこれほど真剣勝負できる大学生がどれほどいるだろうか。一番驚かされるのは学生たちの集中力と意識の高さだ。創作者ゆえに自分で常に開拓する姿勢を持ち、なんとなく入学した人(本当はなんとなくでは入れないだろうが)もそのきっかけは鮮烈なエピソードだったりする。

    読み易いし面白いし示唆にも富んでおりなかなかのおすすめだ。

  • 高校一年の娘が、芸術コースを選択したいと言ってきたので、どうも売れてるそうでもあるこの本を手に取った。それまでは、藝大が音楽コースと美術コースの両方あることも初めて知った程度の知識。いまだにどこにあるのかわかってないけれど。

    藝大生(彫刻専攻)を妻に持つ小説家が、妻の伝手もあって藝大生へのインタビューを行ってその内容をまとめたもの。表紙や煽りからもっとはっちゃけているのかと思ったけれども、インタビューを受けてくれるような学生はまだまともな人たちなのか、飛んでいる知り合いの話は出てくるけれど、本人はいたって真面目な人が多い。もちろん、専攻する分野に関して究めるためにはある種の真面目さが必須の要件なのだろう。

    これだけ切望する人がいるところで短時間の受験で合否を決めるのは大変というか何か問題ありそう。それでも口笛で入学したという人もいたりするのは、フレキシブルな入試制度が必要だということなのかも。

    娘は藝大志望ということではなさそうだけれど、希望しているいわゆる美大も面白いのかもしれない。現実的にはこの本にも出てきたデザイン科であれば、仕事には困らなそうだし。そもそも娘が何をしたいのかわかってないんだが、何より楽しそうだ。最後に書かれた音校と美校が交わって協力して何かをクリエートしていく状況は、大学の意義というか、やはり素敵であると思った。

  • 東京藝術大学…日本で唯一の国立の藝術大学。入試倍率は東大のなんと3倍。しかし卒業後は行方不明者多数との噂も流れる…。

    そんな藝大生を奥様にもつ筆者が各学部学科生たちへのインタビューをまとめたものです。

    『ブルーピリオド』を読んでいたせいもあって、藝大といえば美術のイメージを持っていましたが、そうだ音楽もあったね。King Gnuのボーカル・井口理さんも学生だった当時インタビューされていて、おっ!と思いました。

    もちろんおもしろそうだと思ったからこの本を手に取ったんですが…予想を超えてめちゃめちゃおもしろかったです!

    とにかく出てくる藝大生さんたちがみんなすごい。何かひとつのことにのめりこめるものを持ってる人たちって、型にはまらない人たちって本当に魅力的です。そんな人たちがひとつの場所に集まっている…カオスにならないわけがない。

    残念ながら今年は実施されなかったようですが、藝祭はぜひ一度行ってみたいですね。

    筆者の二宮さんも言ってますが、十年後くらいにインタビューした方たちがその後どうなったのか知りたいです。

    コミカライズもされているようなので、機会があったらそちらも読みたいです。

  • 東京藝術大学の美術学部と音楽学部。それぞれの専門分野で努力したり、苦心しながら、活躍する才気あふれるな学生たちのインタビュー集。

    ”藝大の生協では防毒マスクのフィルターが売られているのだ!”と、驚くべき事柄のように書かれていて、この本を楽しめるだろうかと不安になった。
    ホームセンターに行けば誰でも普通に買えるものだし、そのあとに登場する旋盤などの切削機械も、技術系の学校になら当然あるだろうなあと思ってしまったからだ。

    面白い内容にしようとして少し大袈裟に書いたんじゃないかな。藝大の学生たちは面白み溢れる存在なんだから、誇張する必要はないのになあ、とは思った。

    学生の方々の専門的な話はとても興味深かった。
    特殊な技能を持っていたり、試験方式が変わっていたり、進路に悩んでいたりしている一人ひとりがとても眩しく見えた。かっこよかった。葛藤のなかで技術や才能は伸びていくものなんだな。
    King Gnuの人がインタビューを受けていて驚いた。声楽科で学んでいたのか。素敵だなあ。

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    個性的な自分をアピールするために下駄を履いてます!みたいなタイプの人が苦手だ。彼らの持つ、肥大した承認欲求が透けて見えてしまうからだと思う。
    この本に登場する学生の方々には、そういうタイプの人がいないように感じた。専門分野で頑張っている人は奇抜な行動で他人から承認してもらう必要がないのかもしれないな。あるいは、本を書いた人が意図的に描写を避けたのかもしれないけど。

著者プロフィール

1985年、東京生誕。一橋大学経済学部卒。著書は他に「!」「!!」「!!!」「!!!!」「暗黒学校」「最悪彼氏」(ここまですべてアルファポリス)、「占い処・陽仙堂の統計科学」(角川書店)、「一番線に謎が到着します 若き鉄道員・夏目壮太の日常」(幻冬舎)などがある。

「2016年 『殺人鬼狩り』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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