未来をつくる言葉: わかりあえなさをつなぐために

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103531111

感想・レビュー・書評

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  • 断絶ではなく関係性のなかでこそ人は幸せになれることを突き詰めようとする本
    技術がそれをサポートする

  • ・既知と無知の極限点、知識の先端(ドゥルーズ)
    =人は、未知の領域へ向けて足を踏み出す以外に新しい知識は獲得できない。

    ・生命にとっての身体は、世界を認識し、周囲の環境に働きかけるための支点であり、原初の文脈である。

    ・特定の言語グループに属する人間にはその言語に固有の現実世界が立ち現れる(サピアウォーフ仮説)
    =言語相対論

    ・個体の中で主観的に立ち現れる感覚意識体験=クオリア=「この感じ」
    ことばは、それぞれのクオリアの最大公約数でしかない。

    ・語彙場=村上春樹の性描写の前に漂う言葉の雰囲気的なもの

    ・守破離=型の反復によって新たな型が「自然発生」する=演繹

    正反合=あらゆる事物に対して適用できる共通言語=帰納


    ・表音文字をつなぐ(接着剤)のは、ロジック。=欧米
    表意文字にはそれ自体に意味がある。

    ・religio=宗教=再び結ぶ

    ・世界は、表現の数だけ「異世界」であふれている。
    表現行為は、受け取り手がその領土を自由に探索し、そこから新しい価値を自らの領土に取り込む運動を通して初めて成立する。

    ・インターネットは、新しい文化をつくったのではなく、それまで見えなかった文化の力学を「可視化」した

    ・クリエイティブ・コモンズ=ぬか床の共有みたいなもの

    ・タイプトレースに見える息遣い

    ・プロ黒ニズム=生物の成長の歴史がその形に表出すること

    ★情報を交わす主体の環世界の「差異」こそが、新たな道の価値を生み出す
    =コミュニケーション(翻訳)の中で生まれる差異と結び目から新たな意味と価値が生まれる

    ・自己を構成する要素を自律的に生産し続ける働き=オートポイエーシス=社会すらも生命現象の中に包含される

    ・シンバイオシスとホロビオント
    複数の生物種が連合することで生まれる「超個体」
    =共の身体

    ・個体ではなく関係性から出発する思考
    ベイトソン
    メタローグ
    自他の境界が曖昧になっていく感じ

    ★共話(Synlogue)
    能の営み、互いの主体が交わる
    日本人的な相槌文化

    対話(Dialogue)
    差異の強調

    ・行為中の反省
    相手の動きを見ながら新しいものを生み出すこと
    即興、協働

    ・思い出すという行為は、メタローグの契機である。

    ・言葉を発することは、翻訳である。相手の世界に通じるように自分のクオリアを伝えることだから。

    ・コミュニケーションとは、わかりあえなさを違い受け止め、それでも共に在るための技法。

  • 複数の言語をまたいだ自我を持つ著者の自伝のような評論のような本。彼自身のお子さんの誕生から始まる思索が、彼の子供時代からのい自我形成や仕事のポートフォリオの紹介、そして2019年秋に大きな話題となった愛知トリエンナーレまで繋がる。

    奥様との新婚旅行でのモンゴルでの話、彼と娘さんの関係性が描かれている「メタローグ」のチャプターでの日本語を喋れないふりをする話、「対話」と「共話」の対比の話、など。

    テッドチャンの「あなた人生の物語」の紹介と彼の読後感も素晴らしい。そうなんだよ!と共感。

    それにしてもこのテーマにこのタイトルをつけた編集者の方は本当に優秀。

  • 昨年の愛知トリエンナーレで、架空の遺言を特殊なタイピングソフトで打ち出す展示があった。ゆっくり打ち出された言葉は大きく、素早く打ち出された言葉は小さなフォントで表示され、タイピングのスピードや書き継ぐ間が可視化されるソフトだ。

    何十台というディスプレイに、さまざまな遺言が粛々と打ち出されてゆく展示は、連動しているキーボードの動きとあいまって、とてもインパクトが強かった。まるで透明人間がそこにいてタイピングをしているようだったのだ。

    普通の文書では隠れて見えなくなってしまう思考過程が伺える面白い展示だったが、内容が遺言であったため、一字一句を追うには精神的な負荷がかかりすぎて、早々に鑑賞をギブアップした記憶が残る。これがもし、作家の執筆状況の再現だったなら、何時間でも飽きずに見ることができただろう。

    このインスタレーションの作者がドミニク・チェンだということに、本書を読み始めて三分の一程度進んだところで気がついた。

    チェン氏の出自や生育歴はかなり複雑だ。母は日本系、父はベトナムの血が交じる台湾系、そして国籍はフランス。結果として中国語とフランス語、英語、そして日本語を操れる多言語話者として育ち、若い頃はゲーム文化やパソコンによる画像作成にどっぷりハマり、現在は言葉やコミュニケーションと情報技術を統合した分野で活躍されている。

    話題はチェン氏の自伝的内容がメインだが、すると必然的に氏が興味を持って研究してきた分野の話も混じる。人工知能と人工生命の話、そもそも「生命」とは何かを探求する話、コミュニケーション技法としての対話と共話、精神的な距離感を示す共在感覚の話など、それらが言及されている書物の紹介と具体的な体験とが併せて語られており、まさに今ココの世界を見せてもらっていると感じた。

    「コミュニケーションとは、わかりあうためのものではなく、わかりあえなさを互いに受け止め、それでもなお共にあることを受け容れるための技法である。」とチェン氏はいう。例えば情報技術が発達してSNSに代表される情報発信の場がカジュアルになってきたために、かえって人々の意見や立場、思想の違いが明らかになり互いの溝が深くなるように感じるが、それを受け入れ乗り越えてゆくことは可能だし、そのための知恵をすでに人類は持っている。

    そんなわけでタイトルの「未来をつくる言葉」は実にいいなあと思うのだった。

  • 知的好奇心がばきばき刺激されて、読んでいるうちに、自分も言語化をしたくて、うずうずしてきた。
    以下、印象に残った言葉。

    ——-
    リアルタイムな反応を強いる身体的コミュニケーションの世界と異なり、自分のペースで時間をかけてきじゅつあすることは、それ自体が大きな安らぎの源泉だった

    表現行為が自己のアイデンティティを創発する

    言葉でしか記述できない事象もあるが、言葉の網からこぼれ落ちる事象もまた、世界に満ち溢れている

    「創作」と名付けられるあらゆる営為の数々を、表現者が感知した「新たな環世界を認識するための言語構築」とみなせば、世界は表現の数だけ「異世界」で溢れているとも言える

    特定の表現者のスタイルに親しむということは、その人間の世界の認識の仕方を追体験することであり、作者が生きた環世界に入り込むことでもある。

    表現行為は、決して作者のうちに完結しなき。そうではなく、受け取り手が表現された領土を自由に探索し、そこから新しい価値を自らの領土に取り込む運動を通してはじめて、成立するのだ。

    創作とは他者との関係を生み出す契機

    インターネットは真新しい文化を作り上げたのではなく、むしろその登場までは目に見えなかった文化の力学を可視化したのだ
    ——-

    複数の文化のなかを行き来してきた著者だからこそ見える考察が、興味深く、日々の違和感と照らし合わせながら読んだ。

    たとえば、

    ●日本の守破離: 型の反復をとおして身体に宿す、主観的に経験する→新たな型がそのうち自然発生する

    ●フランスの授業で叩き込まれる弁証法: 理知的な意志の力によって、個別の事象から普遍的な価値を抽出し、次の展開へ導こうとする

    この差は、欧米のベジタリアンに対して、自分が持つ違和感のもとになっている気がする…とか。

  • あいちトリエンナーレ周りのセミナーに行った時に伺ったことと同等がまとめられてる感じ。ドミニクチェンて、名前がいいよね。

  • 昔から、質実剛健な日本語をベースにしているのに、どこか英仏の欧米圏のコンセプチュアルな薫り漂うドミニクさんの文体に憧れている。本著では特異な他言語文化圏で育った環境や、吃音との向き合いによって獲得した言語感性獲得の背景が分った。

  • 著者 ドミニク・チェン 
    父は、ベトナム、英語、フランス語、日本語、北京語、広東語、台湾語の多言語話者(ポリグロット)


    P20 言語という~
    記録媒体を手にすることで、人間は現在という短い時間の枠をただ通貨するだけではなく、過去と未来の時間座標のなかに位置づけて、時間的な地図をつくれるようになった。それと同時に、人間集団gな生息する地域ごとに、言語が多様になっていった

    言語の多様性は記号や音声の多様性ではなく、世界認識の多様性である ヴィルヘルム・フォン・フィンボルト(19Cドイツロマン主義哲学者)

    サピア・ウォーフ仮説
    特定の言語グループにぞこうする人間はその言語に固有の現実世界が立ち上がる

    フランス語を初めて習ったときの、気持ち
    日本語の漢字の表意文字の新鮮さ 国という感じ
    漢字の形 心、永

    言語の意識と無意識の言語

    儚いとエフェメール
    一つの現象に対しても、言語によって異なる言葉のそれぞれに、固有の認識の流れが伴っている
    同時に発動につながる知覚の流れも並行している

    自然言語ハイブリッド

    デジタルなバグ、身体のバグ  吃音
    ゲーム言語との出会い

    吃音とともに培う思考がある

    P35
    覚える言語の数だけ、アクセスできる感覚が増えていき、意思の疎通が容易になるというだけではなく、対話する相手から引き出せる知識も増えていく

    世界を作る言語
    吃音のおかげで、書き言葉の世界に没頭した

    論文は英語
    エッセイ、小説は日本語とフランス語
    哲学はフランス語

    フランス語習得の流れ
    教師のテキストの聞き取りとディクテ
    話し言葉と書き言葉が違う


    難しくて・・・わからなくなった。
    何か別の言語形成で世界をデザインしたってこと?

  • 共話という言葉を知った。テイクターンな対話ではなく、発話を重ねるような在り方。共話は私とあなたという境界を溶解する。レビューは対話的で、モブワークは共話的。

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著者プロフィール

情報学研究者。

「2023年 『高校生と考える 21世紀の突破口』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ドミニク・チェンの作品

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