- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103834120
感想・レビュー・書評
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“何ということもない話
大したことは起こらない
登場人物それぞれにそれなりに傷はある
しかし彼らはただ人生を眺めているだけ。
長い間、そういう小説を書きたかった”
ずっと、ずっと心のアニキであるばななさんの短編集。
グラデーションが美しい表紙にあらわされているように、人生の中の儚い時間の中で、ふとした時に見つけた、何気ないようで、二度と会えない美しい瞬間のような物語。
それでも、日常を紡ぐ中にある、きめ細やかな優しさや、あふれんばかりの愛に満たされる。
既刊「デッドエンドの思い出」のあとがきには
“これを書けたので、小説家になってよかったと思いました”
と書かれている。
今回は
“この本を出せたから、もう悔いはない。
引退しても大丈夫だ”
という。
それぐらい、この本は結晶を集めて、ひとつひとつ並べました、という感じがする。
日常ではない場所で、喪失を感じていたりしたのに、うっかりしちゃったり
変なところで、意外な優しさに包まれたり
それは「小説だから、そんなこと起きるんでしょ?」という感じの、唐突感はなく
この人には起きるべくして、起きたのだと
わかる
それぐらい、この主人公たちは、私の隣にいてもおかしくないぐらい、とても体温を感じる人であり、私であるかもしれない、と思える
出会っても別れても、それでも日常が続いていく。人は生まれて、死んでいく。そうそう、そういうもんだよね、ということが日常の中に、きちんと存在してる。
やっぱり吉本ばななさんは、わたしの心のアニキである。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「死」に寄り添った6つの短編集…と思っていたら最後の「情け嶋」だけ違った。そして私は「情け嶋」が一番好きだったかな。だけど多分この「好き」は、私の今の心の状態によってくるくる変わりそうな気がする。それくらい全ての作品は心のどこかにすっと収まりそうな遠くも近くもない温かいお話たち。そして、今の私は「情け嶋」が一番好き、そんな気分なんだと思う。
全ての物語のイメージはこの本の装丁のイメージとピッタリ。
ばななさんのあとがきに書いてあった、
何ということもない話。大したことは起こらない。登場人物それぞれにそれなりに傷はある。しかし彼らはただ人生を眺めているだけ。
長い間、そういう小説を書きたかった。
それが本当に全てで、淡く優しい小説でした。 -
何十年ぶりに吉本ばななさんの作品を手に取りました。読んでみて、私にとっては全く立場も異なる主人公たちが悲しみから立ち上がり生きてく様が描かれており、共感は正直なところできませんでした…。ただ、この作品の装丁がとってもよくて、読みやすくて、読了するのに時間はかかりませんでした。すっきりした読み応えです。以前に読んだことのある吉本ばななさんの作品も、読んでみたくなりました。
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六つの短編に共通しているのは
「旅」と「死」。
もう3年ぐらい旅をしていなくて、
こういう小説を読むたびに旅に行きたくなります。
ついに断酒した私、「旅の時ぐらい飲んでもいいよね」
と思いながら読みました。
コロナ感染者が激増していて、いつ行けるか?ですが。
もうひとつ「死」ですが、母だったり、旅先で一緒に飲んだ人だったり、友達だったり、夫の弟だったり。
さいご今度は誰?と思ったら、自分自身の想像でした。
「死」への思いはそれぞれですが、
今日ふじみ野で立てこもり事件があり
今のところ犯人は92歳の母が亡くなり逆恨み?
お世話してくださったお医者さんが死亡
理学療法士さんが重態という史上例を見ない事件に。
穏やかに流れていくこの小説に
心が癒されました。
〈いつまでもここでだらだらゴロゴロしていたいですが、
重い腰を上げ、過去に別れを告げ、
ふりかえらず、でも楽しくのんびりと、
はるか遠くに見える次の山に向かって歩んでみます〉 -
よしもとばななさんが本当に書きたかったものが書けたとあとがきに記していた。
大きな出来事は起きないまでも、各話の主人公たちは旅をしながら過去の自分と向き合う。
もう二度と会えない友人や、友人でも恋人でもない人、関係性を言葉にしてするのは難しい場合でも、その時自分にとって大切な存在であるならば、一生心に残り続けることになる。
読み続けるとなぜか登場人物たちの想いに寄り添いつつも、いつの間にか自分の想いに向き合わされる不思議な感覚になる。
たまに立ち止まって自分と向き合うのも良い。 -
中学生のときに好きで、よく読んでいたよしもとばななさんの短編集。
激しい凹凸はなくて、サラリとしている独特の文章、久々に読んで、あーこの感じ!と思いました。
奈良美智さんの絵との出会いもよしもとばななさんだったな。
ほんと、本の装丁も相変わらずオシャレ。
出てくる人物も、落ち着いてて、でも身軽で。
この独特な感じが懐かしい。そして魅力的。
お気に入りは短いけれど、珊瑚のリング。
私の母は今も健在だけど、なんとも趣味が良くて、
古い服や私の服や友達からもらった服をとても上手に着たり、
スカーフやアクセサリーを上手にまとったり、
古道具をなんとも趣味よく部屋に飾ったりする人です。
そのさまがとても好き。
母がもし亡くなってしまったら、大事に大事にそれらをどうするか決めていこう、
と、私も思っています。
この話の最後にあるように、それは自分の心のためなのです。
が、そういうことは理解しない兄弟たちに気づいたら捨てられてしまいそうで…戦々恐々としている。。
この話を読んで、やはりそれは阻止せねばな、と強く思いました。
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これは今読むべき物語だった。私には人生において、そういうタイミングが多々ある。必要な時に必要な物語と出会うタイミング。
電車の中で読んでいて、この部分に差し掛かった時、信じられないくらい泣いてしまった。
p32
「ちづちゃん、あなたがいたことが私の人生だった。あなたは私の人生そのものだったの。こんなこと言われたら重いかもしれないけれど、あの日私から産まれたあなたと出会って、育てて、毎日話して、泣いたり怒ったり、離れたときはすぐにあなたにまた会うことがいつでも楽しみで、あなたが生きているだけで誇らしくて、あなたはほんとうにお気に入りの人に成長して、今思うとあなたを愛したことが私の人生の全部だった。あなたがいなかったら私は何も知らないで死んでいくところだった。そのくらい毎日、毎日嬉しかった。好きな人と暮らせたことを、神様に感謝してる。こうしてものを片づけていると、私の人生のすばらしかったことのほとんどがあなたであることがわかる。すばらしい人に育ってくれてありがとう。」
誰か大切な人を亡くして、どこかに旅に行く人の短編集。 -
2度目の挑戦でやっと読み終わった!!!
本の外装や形など、なかなかおしゃんな小説だと思う。LGBTを扱っており、今時だと思う。
心に残る文章が2箇所あった。
69ページは秀逸で、何度か読み返した。
男性の立場の考えだったが、とてもよく理解できた。すごい表現だと思う。うなずけた。
自分から積極的に読もうと思うジャンルではないが、時には寄り道もいいかな、と思った。 -
デッドエンドの思い出が好きな人はきっと好きだと思う。わたしも好きでした。6つの短編すべてが少し淋しくて。好きな吉本ばなな作品で嬉しくなってひとつひとつ大切に時間をかけて読んだ。きっとまた読むと思う。装丁も好き、サイズ感も。
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冬になると吉本ばななさんの本が読みたくなる。それはばななさんが描く冬の描写がすきなのと、寂しい心を温めてくれるようなばななさんの物語が好きだから。
こちらは短編集だけど、どの作品の主人公も喪失や悲しみや孤独を経験したり抱えたりしている人たちが登場する。彼/彼女たちは、旅の中でさまざまな出会いをして、「まだ生きていける」と思えるようになる。主人公は何かしら悲しい経験をしているのに、心温まるお話ばかりだった。
一番好きなのは「SINSIN AND THE MOUSE」。シンシンがすごく優しくてゆったりとしていて好き。「カロンテ」も良かった。