- Amazon.co.jp ・本 (294ページ)
- / ISBN・EAN: 9784104412051
作品紹介・あらすじ
男二人が奇妙な仲のよさで同居する魚屋の話、真夜中に差し向かいで紅茶をのむ「平凡」な主婦とその姑、両親の不仲をじっとみつめる小学生、裸足で男のもとへ駆けていった魚屋の死んだ女房…東京の小さな町の商店街と、そこをゆきかう人々の、その平穏な日々にあるあやうさと幸福。短篇の名手による待望の傑作連作小説集。
感想・レビュー・書評
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ある商店街を舞台にいろんな登場人物が少しずつ重なり合う話。それぞれが魅力的な人達で、ちょっとした出来事での感情の動きに、はっとさせられる。
取り上げていない人物の物語も読んでみたい。
すっごく好きな作品でまた読み返すと思う。 -
電車の窓から町の風景を見るのが好きです。ごく普通の住宅地を飽きずに眺めています。立ち並ぶ家々の窓の向こうには住む人がいて、それぞれ「生活」があるのだろう。そんなことを思いながら、ぼーっと眺めています。
この本を読んで、ふとそんなことを思いました。
古い商店街のある町に住む人々の日常。日常と言えど、それぞれの形があり、それぞれの想いがある。狂言回しとなるような人物や場所を据えず、それぞれの話の登場人物が何となく繋がり重なる。人の営みが集まり町となる。人の想いが集まり町となる。
日常を描いているのにファンタジーじみて感じるのは、作者川上弘美の掌上に世界があり、作者のまなざしを感じるからでしょうか。そのまなざしは温かいのに、よそよそしく愛想ない。だから登場人物たちは、作者の掌上で思い思いの生活を営むのでしょう。 -
予想以上によかった。短編集だが、次の物語に前の物語の人が一部かかわっている形式。どの人も、どの家も、幸せ不幸せというよりは、希望と不思議と悲しみとおかしさといろんなものがミックスジュースになっているようだ。自分ひとりの力ではいかんともしがたいもの、思いもしなかったことが起こる喜びや悲しみ、人間の力と弱さ、作者の観察眼と表現力に脱帽。平凡な日常を、深く切り込んで書いていくこの人の作品が好きだ。
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とある商店街を舞台に、様々な人が織りなす人生模様が短編で綴られている一冊。
あの人ときっとどこかでつながっている、そんな気持ちにさせてくれる一冊です。 -
東京東部の下町〜商店街を舞台にした連作短編集。
語り手が老若男女と次々と変わり、それぞれにまったく違った、些細で個人的な物語を進める。その物語の語り手は、いつも自立していて優しいから、読んでいてほっとする。ひとつひとつがどれかの話に薄く薄く繋がっていて、「あ、あの人はあの後こうなったのか…」ということが微かにわかる小さな歓び。読んでいるうちに、読者の中に小さな街が生まれる。
どの話も面白くて選べないけど、おかみさんの央子さんと板前の廉ちゃんの15歳差の恋愛を描いた「四度目の浪花節」は、大人の恋愛だな〜という風情で素敵だった。
表題作の「どこから行っても遠い街」は、”生きてきたというそのことだけで、つねに事を決めていたのだ”ってことに、瞬間気づく不倫男性のお話。人生の核心めいたことをはっきりとわかりやすく記してあって、意外な感じがした。
最初の「小屋のある屋上」で、商店街の魚屋さん魚春の平蔵さんが、両親、義両親、実妹、奥さんと立て続けに亡くしているという事実がわかり、最後の「ゆるく巻くかたつむりの殻」は平蔵さんの亡くなった奥さんが語り手です。
奥さんは「好きな人が死ぬと、すこし、自分も死ぬのよ」といいます。平蔵さんは、死んだ人間もまだ死んでない、といいます。奥さんが自分の記憶を「はかない」と思い起こしていて寂しい気持ちになるけれど、最後は「捨てたものではなかった、わたしの人生」と終わるから、少し救われた気持ちになりました。
最初と最後の話のせいなのか、死に包まれたようなふわふわした気持ちが残って、「どこから行っても遠い街」は黄泉の国のような気がしてきます。ただの小さな商店街だけど、黄泉につながっているような。一生辿り着けないような。なにげない自分の生活だって死に向かっているということか。生きること自体が、すべて。 -
下町の商店街が舞台ということもあって、昭和後半の雰囲気が漂う連作短編集。
顔見知り程度のご近所さんの今まで知らなかった一面を、ちょっとしたきっかけで共有することとなり、それぞれの生き様に人間味を覚え、今までよりどこか親しみを感じる様になったと言う感覚。
特に大きな事件も起こらず、各章の主人公のつれづれとした語りで成り立っているので、中途半端な印象はあるけれども、別に嫌ではない。小説を読む上での刺激には欠けているけれども、生ぬるい空気に包まれているのも、悪くはないかという感じ。
11ある短編の中であえて言うなら、「長い夜の紅茶」のお見合い結婚のお嫁さんと姑さんのお話が好き。 -
普通の短編集かと思って読み始めたら、
途中で作者のたくらみに気付いてハッとする。
面白い、と思う気持ちが加速する。
どの話を読んでも、不思議と嫌な気持ちにはならない。
奇妙なエピソードも川上さんに切り取られるとちゃんと様になる。
タイトルが「街」じゃなくて「町」なのもいいと思う。
お洒落な「街」じゃなくて、そこらへんの「町」がこの物語にはぴったりだ。
『貝殻のある飾り窓』と『ゆるく巻くかたつむりの殻』が好きです。 -
連作短編が大好きなんです。
誰にでも物語はあるんだ、って考えると楽しくなりませんか。
たとえば電車の移動中、前に座った人の性格とか、好きな音楽とか、色々想像してしまうような。 -
好き。良い。
「四度めの浪花節」がとくによかった。
わたしも、うんと年上の女の人に夢中になりたい。
と、なぜか、男の立場で思ってしまった。-
2012/11/08
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