- Amazon.co.jp ・本 (258ページ)
- / ISBN・EAN: 9784104596027
感想・レビュー・書評
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4つの短編集からなる本作。「動物園のエンジン」以外は人が亡くならなかったこともなり、いつも谷底にいきなり突き落とされる感のある感覚になることなく(本当はそれがこの作者の作風ではあろうが)、穏やかに終了した。
動物園のエンジン:
地下鉄で向かいに座っていた学生たちの会話の「エンジン」に、10年前の出来事の思い出す。
当時、同じ大学の恩田が動物園の職員で、あったため大学の先輩・河原崎を夜の動物園に誘う。そこでシシリオンオオカミの前に寝そべる元動物園職員の長沢を見つける。この長沢により動物たちの活気、生命力が増し、動物園全体にエンジンがかかった感じになるため「動物園のエンジン」と言われている。
河原崎の小川市長殺害の推理、シシリオンオオカミの死の推理、長沢のマンション建設反対の推理に、これだけよく繋げることができるものだとただ、ただ感心する。
その河原崎も最後には死んでしまう。この人も死んでしまうのかと、いつもながらの何の前振りもなく亡くなったという結果だけが記されているところが、この作者らしく、また、最後の長沢のプラカードには、「え?そこ」っていう感じで終わるところもまた、この作者らしい。
「夜」の出来事、「死」があちこちに出てくるため全体的に暗く感じ、その暗さのまま終わってしまった感がある。
サクリファイス:
sacrifice (犠牲、生贄)のタイトルのごとく、小暮村での、生贄を差し出す風習の秘密をプロの泥棒・黒澤が明らかにする。
「黒澤」って、「ホワイト・ラビット」で登場した黒澤だと、井坂幸太郎作品のビギナーである私でもすぐにわかった。ここでは副業である探偵として登場する。冷静沈着で洞察力、推理力にたけており、現実的かつ合理的な性格。探偵として「山田」を探すことを依頼されていたが、ここでも、村の風習と生贄となった周造のことが気になり、首をつっこみ、村長・陽一郎と村人・周造のトリックを暴く。
「こもり様」の謎解き、さらに「山田」探しも終結させるが、短編であるためか、いつも以上に急な展開に、少々消化不良感が残る。
フィッシュストーリー:
「僕の孤独が魚だとしたら、そのあまりの巨大さと獰猛さに、鯨でさえ逃げ出すに違いない」という文章が書かれた小説。そしてこの文章を歌詞にた曲との間で物語は「二十数年前」「現在」「三十数年前」と、過去と現在の時間を行き来し、繋げていく。
二十数年前に「僕の孤独が魚だとしたら、そのあまりの巨大さと獰猛さに、鯨でさえ逃げ出すに違いない」の歌詞の曲を聴きながら車を運転していたわたし。この曲には故意的に挿入された無音の箇所がある。山道を運転していたわたしは、この無音の箇所で女性の悲鳴を聞く。そこには仰向けに倒れた女性の上に男が押さえ込んでいる姿があった。
そして物語は「現在」へと移る。飛行機で、「僕の孤独が魚だとしたら、そのあまりの巨大さと獰猛さに、鯨でさえ逃げ出すに違いない」の小説を読んでいた橘麻美は、隣に座っていた瀬川という数学の高校教師から話しかけられる。親から「正義の味方」になるようにと、育てられ、「正義の味方」になりたかった。瀬川の父が母と出会ったのは、正義感が理由だったとのことだ。ここで『ああ、例の私が瀬川の父だったんだ』と、物語が繋がった。この後、飛行機はハイジャックされ、嘘のような話の展開となるが、瀬川が言う「正義が虐げられる」に反していて、嬉しくなる。
そして物語は、三十数年前に遡り、この「僕の孤独が魚だとしたら、そのあまりの巨大さと獰猛さに、鯨でさえ逃げ出すに違いない」の曲がどのように作られたかの話になる。
最後に再び現在で橘麻美が登場する。ここで瀬川と繋がっていれば、面白かったのだが、そうではなさそうであった。が、瀬川の父に救われた瀬川の母、瀬川に救われた橘麻美、橘麻美に救われた世界。すべて「フィッシュストーリー」繋がりである。
ポテチ:
ホワイトラビットで登場していた、黒澤、今村、中村が登場。
かなり抜けていた今村が主人公のこの物語。今村の優しさに読んでいて心が暖かくなる作品であった。
空き巣に入っていたところに自殺予告の留守番電話メッセージ。自殺しようとしていた大西をなだめ思い止まらせた今村は、それをきっかけに大西と一緒に暮らすようなる。大西が今村と一緒に空き巣に入ったプロ野球選手の尾崎のマンションで、またもや電話がなる。
なぜ、今村が尾崎に思いを寄せるのか、同郷で、同じ日に同じ病院で生まれたこともあるのだが、もしかしたら本能的なものかもしれない。尾崎の登場がなかったが、野球漫画(タッチ)を愛するプロ野球選手の性格が何となく想像できる。最後は、意外な展開となるが、やっぱり…と言うのが、素直な意見。
そして、ここでも冷静な黒澤が登場する。頭のいい黒澤が、なぜ今村に対して優しいのか、実を言うと今まであまり理解できていなかったのだが、今村の立場から書かれている本作を読むと、それもようやく理解できる。物語の展開として、今村だけなら間延びするのだが、黒澤が登場することで、ひねりが加えられ楽しく読めた。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
短編最後の「ポテチ」がよかった。目当ての登場人物が良い(?)ことをしてくれて。
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軽く読めて良かったが、読んだ後に特に記憶に残らない感じ。
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ひとり伊坂幸太郎氏フェアで、今迄読みたかったが読めていなかった作品を読んでいる。
作品間のリンクには自分の記憶力がさっぱりついて行けず、ネットの力を借りてみるも、薄ぼんやりと思い出せるものと全く思い出せないものとがある。
本書の「ポテチ」は良かった。
映画化されていたようで、読み終わってから、当時の映画予告動画だけネットで観てみた。
今村と黒沢役の俳優さん達は両者とも演技が上手くて好きな方達だったが、それでも自分のイメージしていた今村と黒沢とは全く違う。
今村の母と大西、つまり女性陣の方も自分の脳内イメージと全く違う。
これはあくまでも個人的な意見だが、伊坂作品に限らず、私は原作よりも映像の方がはるかに素晴らしいと思えるパターンには出会ったことがない。
映像の方を「悪くはなかった」「これはこれで良かった」くらいに思ったことはあるが。
そしてそう思えるのは大抵映像を観たのが先だったという場合なのだ。
やはり、読者の数だけの脳内映像を生み出す書籍って素晴らしい。
★間違えて電子書籍の方で登録していたことに気付いたので修正(2019/08/27) -
とにかく私は伊坂さんの描くキャラクターが大好きです。
いつもプッと笑ってしまいます。
特にお気に入りの作品は『ポテチ』です。
今村が可愛い!
泥棒が悪い行為だと感じさせないところが不思議です。 -
4つの短編集。
「動物園のエンジン」★★★☆☆
「サクリファイス」★★★★☆
「フィッシュストーリー」★★★★☆
「ポテチ」★★★☆☆
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伊坂幸太郎の中でも1番好きなキャラ、黒澤が活躍しててよかった
他にも知ってるキャラがたくさん出てきたの嬉しい
伏線の張り方がホントにうまいな -
まぁまぁ。
ちょいちょい違う小説のキャラが出てきたりして面白かった!