- Amazon.co.jp ・本 (252ページ)
- / ISBN・EAN: 9784104600021
作品紹介・あらすじ
イラクで無念の死を遂げた奥克彦。幼い日に芽生えた外交官の夢、ラグビーに熱中し挫折も味わった学生時代。やがて念願の外交舞台に立った彼は、常に「現場」で戦い続けた。爽快に生き、壮烈に死した半生を描く青春ノンフィクション。
感想・レビュー・書評
-
2003(平成15)年にイラクで銃撃により奥克彦先輩が志半ばで斃れてから、読了時点でもう10年になろうとしている。月並みな言い方だが、時がたつのは早い。
ラガーマンとして、外交官として、つねに前を見て目標を定めて上を目指す“一本目”(早稲田大学ラグビー蹴球部で一軍レギュラーを指す)を目指し続けた奥先輩の生き方はやっぱりかっこいいしあこがれる。
著者の松瀬さんも照れ隠しなのか、あとがきで「ちょっと美化しすぎや。そんなかっこいいもんとはちゃうで」と奥先輩に文句を言われそう、と書いているくらい。
でも松瀬さんは美談を並べて涙を誘うだけの安っぽい内容にはしていない。
では、私が奥先輩の人生で何が強く印象に残ったのか、それを以下に書きたい。
まず、ある程度の人生経験を積んだ者ならばわかると思う。スーパーマンみたいな人間なんて実在しないし、かっこいいだけの人間なんて嘘だってことが。
奥先輩が本当にかっこいいのは、挫折しようと困難にぶち当たろうとも下を向くことなく、一本目の精神を保ち続けようとしたことにあると私は思う。
奥先輩の人生最大の蹉跌は、外交官を目指すために勉強に集中しようとラグビー部を中途で退部したことだろう。その時は目標を一本に絞り人生最大の決意をしたということだが、その後人生の節々でラグビー部を辞めたことの後悔の念が顔をのぞかせる。奥先輩が走り続けられたのも、自ら手放してしまって取り戻すことが難しい「大切な何か」に何とかして近づこうとして諦めることなくずっと追い続けた結果ではないか。
それと最後の方に出てくる、奥先輩と同期入省でイラクで共に赴任していた上村さんの発言が印象に残った。いわく、奥先輩の“殉職”をいたずらに美化するのは危険であり、国際社会ではチームとして入れ替わり立ち替わりしぶとく戦っていく必要があるのに、一本目の奥先輩に「がんばらせすぎた」のではないか…
奥先輩の死を見つめるだけで終わらずに、過労死や一部の「がんばる」人間に負担が集中するなどの、日本社会が抱える矛盾という視点まで広げられる上村さんのような人がたくさんいて奥先輩とチームを組み、パスを出しあい、いわゆる敵に当たっていければ、もしかしたら、奥先輩の「しんどさ」は減らせられたのではないか。
私はこの本から、奥先輩の生涯が、そういった大切な何かを手放した後悔や、自分一人で先頭を走り続けるしんどさといった誰もが経験する、唇を噛みしめたくなるような苦い体験と表裏一体であって、そこで逃げたり妥協したりせず翔け続けたからこそかっこよかったんだということを学んだ。
また、そういう部分を書き挟んでいることが、松瀬さんの奥先輩に対するリスペクトであり、奥先輩の意思を受け継ぐ松瀬さんがライターとしての“一本目”を目指す矜持かと思う。
奥先輩と酒を酌み交わし、時には口角泡をとばして議論し、他人の笑顔を引きだすような数年先を見すえた仕事を、自分もしたかった。いや、しなければならないと思う。今の日本にもそういう現場は数多くあるはずだ。
※同じ大学の出身者として、親しみと尊敬をこめて奥先輩と書きました。
(2013/6/24)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
『各人が職責をこなす』最後の方に書いてあった言葉。印象に残った。
-
「奥さんはスーパーマンみたいな人だった」
早大ラグビー部の後輩、清宮さん奥さんの印象を聞かれて、そう語っていたのをよく覚えている。
それは、美化とかじゃなくて、本当にそうやって人を惹きつける人だったんだろうなってのがよく分かった。
同じ一日でも、自分の3倍くらいの時間が流れているんじゃないかって思ってしまうくらい、パワフルな人。
友達や、周りの人みんなから愛されていたんだなってしみじみと思いました。
自分が何をすべきか。って考える。 -
外交官の人生を綴った物語、にしてはとてもとても面白い内容。
幼少から始まり、イラクで殉死されるまで一環とした故人のポリシーはとても素晴らしく勉強になる。
“こういう人が日本にもいた”ということはもっと多くの人に知られてもいいことだと思う。