アルテミオ・クルスの死 (新潮・現代世界の文学)

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (379ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105185015

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  • メキシコ革命後の混乱期に己の才覚一つで経済界の巨人にのし上がったアルテミオ・クルスが、死の直前に見る走馬灯。
    彼の記憶が年代を前後して断片的に回想される。
    話の筋らしい筋はない。しかし、読み進めていくうちに、彼の生涯は、あるいは彼の存在自体が、メキシコの歴史を体現しているということに気づく。

    アルテミオ・クルスは周囲の人間を利用し、収奪し、上手く立ち回って一国を牛耳るほどの立場にのし上がった。その彼に踏みつけにされ、彼のことが憎くてたまらない周囲の人間も、心の底では彼の恩恵を受けていることを否定はできない。
    この関係は、スペインとメキシコの歴史的な関係を彷彿とさせる。

    人間の一生は、一国の歴史にも匹敵するドラマなのかもしれない。言葉にすると陳腐だが、それを実感させてくれる何とも大きな小説である。

    「メキシコ人にとって、人生はチンガールするか、またはチンガールされるかの可能性しかない」(オクタビオ・パス)

  • 2015/04/28 ★★★★ アルテミオの緑色の瞳を思い浮かべながらの再読。やはりメキシコの話だった。そして権力の話。カタリーナとアルテミオがどうしてもお互いに素直になれなかったのが悲しい。ああまでして守る意地に何の意味があるだろう?

    二人称で話しかけてくる存在によって、永遠に繰り返される時間に絡め取られている世界を感じた。また別のアルテミオが生まれて、戦って勝ち取って死ぬ。手塚治虫の火の鳥みたいに。

    2011/09/10 ★★★★★ 成り上がって孤独のうちに死ぬ男のさかのぼり年代期。難しくてなんども後戻りしながらの読書になったけれど、背後霊と神の間のような何かが語る独特な二人称の個所に強力な磁力があって最後まで集中して読めた。この本が品切れなんてもったいない。

    権力に固執して人をモノ扱いし、家族には遺言書の場所ばかり気にされる悲惨な終わり方で、「マッチョに生きても何にもいいことないじゃん」という印象。でも最後までさかのぼったところで、「この出自でこんな内戦状態の環境だったら、とにかく"手に入れる"ことに執着してもしかたないかな」と感じられてくる(それでも、途中で軌道修正できればねえ、と思うけれど)。

    この「しかたない感」に加えて、物語全体に刻まれる土地や建物の鮮やかな描写から、フエンテスは「アルテミオのような人物を生み出す祖国・メキシコ」を表現したかったのかなあと思った。アルテミオは嫌な爺なのだが、どこか憎めない魅力があった。息子にはためらいなく注げたのに、ほかの人にはせき止められたままだった愛情を持った、有能な男ではあったのだ。

    読み始めてしばらくは西暦と年齢をメモっておくと、各エピソードが何歳のときのことがわかりやすくていいかも。

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