アムステルダム 新潮クレストブックス

  • 新潮社
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感想 : 16
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  • Amazon.co.jp ・本 (198ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105900090

感想・レビュー・書評

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  • イアン・マキューアンという名前のイギリスの作家が書いたイギリスが舞台の小説です。一人の死んだ女性と、その恋人だった3人の男性の関わり合いの物語です。

    最後のぎりぎりまで題名の「アムステルダム」の意味が分からずに読んでいました。イギリスなのになんでオランダの首都が題名なのか、気になりながら、物語の途中のそこここに、そのヒントは散りばめられていたのに、それに気付かずに読み進んでいた自分の浅読みを読後に思い知らされました。読んでいる途中は、そんなに面白いとは思わないというか、よくわからず読んでいたのですが、読み終わってああそうだったのかという感覚が、かえって快い読後感になりました。オランダってやっぱり異質な国なのですね、イギリス人にとっても。
    一筋縄ではいかない奥行きの深いイギリスの変態馬鹿男たちの立ち居振る舞いが、笑えると言えば笑えます。ビートルズにしても、英国王室にしても、多分似たり寄ったりの変態馬鹿男は跋扈しているはずです。私的には、他人事ではないとも言えなくもありません。一言でいえば変な小説です。いかにもイギリスです。お時間があればぜひご一読を。
    (自分のブログから転載)

  • イアン・マキューアン作品。初。(贖罪は、積読中)
    「ああなるくらいなら自殺したはずだよ。」かつての恋人「モリー」の死に対するこの科白から始まる物語は、その言葉を自らが受けるように自殺(安楽死)させられることになる。
    モリーの死の原因におびえ、二人は「自分が”ああなった”場合、安楽死させてほしい」という約束を相互に結んだ。だが、”ああなる”状態は、いかようにも解釈できてしまった。1つの行為が、「彼の正義感」とも、「彼の狂気による乱心」とも。そして、後者の場合…。

    "自分が自分らしい自分であること"。これを他者に認めてもらうことができるのだろうか?「私のこの判断・意見は、自分の理性・感情から考えて間違っていない」ことを他者がそう考えてくれることは可能でしょうか? 見解の違いや意識の違いは、普段なら傷つけあうことがあっても、お互いを認めることができる。ただし、それは常であろうか? その”違い”を正確に判断できない場合、歪曲した場合、その人のその人らしさの否定にもつながるのではないか。ふと、そんなことを考えた。
    クライヴ:「降りてきた神」をつかみ損ねたのかもしれない。あるいは、手が届かなかったかもしれない。神が手を差し伸べなかったのかもしれない。それを知ったときは、原因を作るしか逃げ道はないのでしょうか。静かに降りるしかないのでしょうか。
    ヴァーノン:「本来公開しなかったもの」を、公開することによって、地位も仕事も失うことになった。どんな理由があれば、行為は正当化されるのだろうか。亡くなった彼女にとって。そして、非難したクライヴにとって。
    二人は、それぞれの社会・世界で、他者の生き方・考え方を尊重できなかったのかもしれない。理解できなかったのかもしれない。その違いを。だから、それを狂気とみなし、”ああなった”とみなし、…。
    ただ、生き残っていた場合、「ああなるくらいなら、…」、そんなことも思わせられる。

    印象的なフレーズは:
    ★いい論点ですな。しかし、実世界では正義のシステムも人間的な過ちをまぬかれないものでして
    ★友人たちの多くは適当と見た時には天才カードを出して、一部の人間にどんな迷惑をかけようとも結局は崇高な天職の厳しさに尊敬を増すことになるという信念のもとに、いろいろな会合をさぼっていた
    ★探していた音楽が、少なくともその音楽の形を知る鍵が聞こえたのだった。天の贈り物だった。
    ★ジャーナリズムはある点で科学に似ている。賢明なる反対論によっても葬られずに、かえって力を得るようなアイデアこそ最上であるという点で。
    ★自分は疲れ、才能をしぼりとられ、年老いてしまった。
    ★ベルが鳴って、それから沈黙。去っていった。一瞬、あのかすかなアイディアは失われた。

  • この作品の3年後に作者が発表した『贖罪』を読んだとき、「これはすごいものを読んだぞ」という気持ちになったし、すぐ前に書いた『愛の続き』では「じっと黙って理解したい」という気持ちになった。

    今作には『贖罪』のような骨太な読書体験はないし、『愛の続き』のようなピリピリしたスリルもない。
    あるのは「華やかでいて、その実空虚な都会の成功者たち」という類型的で平凡なテーマ。破滅の予感まで既知のものとして描くこの世俗にまみれたストーリーが、けれども、読んでいるうちにどんどん質量を持ってこちらに迫る。

    つまらない自己保身、実のないやり取り、おべっかや当てこすり、取るに足らない憂鬱、無意識の正当化、自己欺瞞。
    それと同時に描かれる、一瞬の美の訪れ、この世界は信用に足るものだという喜び、完全なものへの憧れ、計算も保身もない、心からの愛情。
    マキューアンが淀みない筆致で描く、ドロリとして身動きのできない世界の感触も、愚かしいほど純粋に「善いもの・正しいもの」を乞い求めるその姿も、どちらもよく親しみ、嫌悪してきた感情。

    シニカルで軽妙で、ふっと笑った後に溜息をつきたくなる小説。
    社会的成功も、気の置けない友人も、充実した人生も、すべては薄氷の上で成り立っていて、割れた氷の下には薄汚れた世界しか広がっていないとしたら、いったい何に依って生きていけばいいんだろう。

  • 重い余韻を残す「贖罪」とはかなり違って、皮肉な味わいの小品。惹句にあったように映画化すればおもしろいだろう。冒頭で埋葬されてしまうヒロイン(?)の存在感が全編に漂っていて、これもまた「不在」と「喪失」の物語だ。既にないものにしか意味を見いだせない登場人物達が醜く愚かで哀れだ。

  • ひとりの魅惑的な女性が死んだ。選ばれた男たちとの遍歴を重ねた途上で。元恋人の三人が葬儀に参列する。イギリスを代表する作曲家、辣腕の新聞編集長、強面の外務大臣。そして、生前の彼女が交際の最中に戯れに撮った一枚の写真が露見する。写真はやがて火種となり、彼らを奇妙な三角関係に追い込んでゆく。才能と出世と女に恵まれた者は、やがて身を滅ぼす、のか。98年度ブッカー賞受賞作品。

  • ひとりの魅惑的な女性が死んだ。選ばれた男たちとの遍歴を重ねた途上
    で。元恋人の三人が葬儀に参列する。イギリスを代表する作曲家、辣腕
    の新聞編集長、強面の外務大臣。そして、生前の彼女が交際の最中に
    戯れに撮った一枚の写真が露見する。写真はやがて火種となり、彼らを
    奇妙な三角関係に追い込んでゆく。才能と出世と女に恵まれた者は、
    やがて身を滅ぼす、のか。98年度ブッカー賞受賞作品

著者プロフィール

イアン・マキューアン1948年英国ハンプシャー生まれ。75年デビュー作『最初の恋、最後の儀式』でサマセット・モーム賞受賞後、現代イギリス文学を代表する小説家として不動の地位を保つ。『セメント・ガーデン』『イノセント』、『アムステルダム』『贖罪』『恋するアダム』等邦訳多数。

「2023年 『夢みるピーターの七つの冒険』 で使われていた紹介文から引用しています。」

イアン・マキューアンの作品

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