世界の果てのビートルズ 新潮クレスト・ブックス

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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105900526

感想・レビュー・書評

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  • Rock ’n’ roll meant it was real; everything else was unreal. (John Lennon)-ロックンロールだけが本物で、あとはすべてウソっぱちだった。 (ジョン・レノン)

    ビートルズの名が付いた邦題だから、ロックの名曲とか数々のロックミュージシャンへのリスペクトが次から次へと出てくるような展開を当初は期待していた。

    確かに12ページ目にさっそくELVIS PRESLEYがいい感じで登場する。-「ギターを弾くハンサムな若者が描かれているつやつやのレコードジャケット」という記述や「これが未来だ。未来っていうのは、こういう音がするんだ。道路工事の機械のうなりに似た音楽」という記述から、たぶん、“Blue Suede Shoes”のことだろうか?
    この箇所は、この作品のなかでも特にいい描写だ。主人公はエルビスの歌に衝撃を受け、道路工事の機械のうなりに似た音楽と例え、そのまま外に目を向け、当時未舗装だった地元の道路が次々と舗装工事が進められていくのを目の当たりにする。そこで見えるのは、「黒く光る革のようなアスファルトではなかった。油で固めた砂利だった。」というクールな表現に続く。つまり、自分たちのまわりにできあがっていくものは、新しいものに見えるけど、実は「バッタ物」なんだってこと。
    そのなかで、ビニールのシングル盤に写し出されたロックンロールだけが、本物をそのままパッケージしたものだったって思えたこと。単なる青春小説じゃない、屈折した感性が十分感じられる。

    …ここまではよかった。でもここからしばらくロック的な話は全くおあずけ。
    いよいよ74ページで、主人公の友達の祖母の葬式があって世界中に散らばっている親戚連中がやって来ていて、アメリカ在住のいとこがロンドンに寄ったとき買ったというビートルズのシングル盤を見せる。
    でも、ここで私の頭のなかは??だらけになった。なぜかって?だって祖母の葬式に行くのに、いとこのためにビートルズのEPを買っていくって普通に考えたらそんなことありえないって思わない?主人公の友達はレコードプレーヤーすら持ってないんだよ?よくよく考えたら、このビートルズのレコードとの出会いのエピソードは“ホラ話”なんじゃないの?

    しかしホラだからってこの作品の価値が落ちることにはならない。なぜならこの作品全体が、もうホラまみれだから。むしろホラ話を笑って楽しむくらいでないと、真の良さはわからない。
    ピンときたのは、ある結婚式で新郎側の一族と新婦側とが「どっちがすごいか」って話になって、酒の勢いもあってどんどん話が大きくなっていって収拾がつかなくなるシーン。もうホラか本当かなんて誰もどうでもいいと考えるくらい話の内容が膨らむだけ膨らんでいったって話を読んで、「ああ、こんな感じで作者も面白~く話をぼくらに提供するのに、ビートルズをこんなふうに設定に借りてきたんだな」って思えた。自然な流れだし、面白いから十分OK。

    でもホラ的展開を許せた最大の理由は、ラストがすごく良かったこと。最後の第20章では、主人公の祖父の古希祝いに親戚縁者近所の人などが一堂に会する。
    主人公たちは手に手に電気楽器を持って登場。彼らのバンドは自分たちなりに演奏に自信もつきかけてたころ。集まっていたすでにほぼ酩酊のムース猟師たちがセッティングの場面を不安そうに見守る中、ニイラが「三拍子のリズムでギターを鳴らしはじめると、ほっとしたようすになった。みな、なんの曲かわかったようだった。」
    バンドが演奏したのは、トーレダーネンの古くからの愛唱歌だった。ビートルズやエルヴィスの歌なんかじゃなかった。
    「みなグラスを置き、座ったまま聞いていた…『ああ、エンマ、ぼくの恋人になるって約束してくれたときのことさ…』」たぶん、現地の地の言葉によるロックの演奏を聞くのは、みなはじめてだっただろう。バンドも聴衆も、今なにが一番演奏されるべきかって言わなくてもわかってたんだ。
    この物語で長々と少年から大人へのモラトリアムの通過儀礼が語られていたけど、ここでようやく大人への仲間入りを名実ともに認められたっていう感じ。

    最後にバンドのメンバーが「十字路のまんなかの、車道の中央に体を横たえた。あお向けになって体を伸ばし、星空を見上げた」というラストのラストも、ありきたりかもだけど、いいシーンだ。十字路の先にはビートルズのいたイギリスや、エルヴィスのいたアメリカがある。またスウェーデンの都市のストックホルムにも続く。しかし、この地に残る道もある…
    “答え”なんてない。誰にもわからない。地元で幸せそうに一生を終える人もいるだろうし、つまらないと恨みをこめて一生を終える人もいた。大人になるのと引き換えに、ロックで生きようと、地元のルールで生きようと、誰もがぶつかる人生最大の難題からは逃げ得ないってこと。
    そんなこと知ってるよ…だけど、ここまでユーモアたっぷりに書かれたら、青臭い思い出とともにフフンて鼻を鳴らしながら、昔の古いロックンロールを聞きながら、甘酸っぱい思い出にひたるのも、そう悪くはない。

    …ということで、本物が実は本物じゃないって現実を次から次へと知らされるのが大人になるための儀式ならば、ジョンが言うように、ロックンロールとの出会いは人生にとって決して無意味なことなんかじゃない。
    (2015/6/20)

  • 舞台は1960年代、スウェーデン北部の小さい村。
    主人公の僕と親友ニイラのおかしくてほろ苦い青春の日々が描かれてます。
    小さな子供時代の2人が巻き起こす珍騒動の数々が素晴らしい。
    ユニークすぎる出来事を真面目に語っているところが、また妙にツボにハマってしまうのです。
    「プクク…」と含み笑いしてしまう箇所がたくさん出てきて、最後はしんみりとしてしまう。
    どんな年代の方にもオススメしたい、極上の青春小説です。

  • 900万人しかいないスウェーデンで75万部売れたという、スウェーデンの田舎の村の青春小説。いや青春小説ってのはダメだ。そんな軽薄な作品じゃない。自伝的小説らしいので、作者の子ども時代がずっと描かれていて、外国の子どもの微笑ましく、またうらやましい感じで話が進むんだけど、ある意味マジックリアリズム的なところ(まあ、俺はマジックリアリズムがなんだか知らんのだが)がある。それはスウェーデンのフィンランド国境付近の村の自然と風習とが、いい味を出してるから。でも、煙に巻かれる感じは全然しない。それは、語り口もあるのかも。最後ににやりとさせるような一言で締めくくるから、むしろ作者像が出てくる。とにかく、田舎のガキがバンドでもやったんだろ、スウィングガールズみたいなやつだろ、とか思うのはやめなさい。むしろ、俺のイメージではファンタジー系の冒険小説(エンデのジム・ボタンみたいな)に近い。それを一人称語りで文学にしている感じ。いやーうまく言えないなあ。とにかく俺は子どもを主人公にした小説にやられるってことがよく分かった。これはやられる。子どもの目というフィルターを通すことにすごく興味があるんだわきっと。遠いものが神秘化されたり、手の届かないものがなぞめいたり、解釈は自分本位で、だからこそ自由。そして、気持ちが素直。とりあえず、現時点では今年のベスト候補。

  • とても幻想的!

  • 最近読んだ本で一番面白かった。作者は北極圏の出身。スウェーデンの領内だが、フィンランドとの国境の村なので、フィンランド語を話す。作者の自伝的小説。子供の頃から思春期までの物語。村の子供達は殴り合って生きていて非常に粗野。ロッタちゃんと同じ国の話と思えない。
    自然の描写も美しい。色とりどりのオーロラ、凍てつく川。村の人々の結婚式の場面は面白かった。豪華なごちそうの後、両家親族の自慢大会になって、腕相撲したり、皆で裸になってサウナに入ってがまん大会をするのだ。また近所のおばあさんのお葬式をしたあと、相続をめぐって親戚一同の大げんかが始まったり、学校の先生が自転車でスクールバスと競争したり、ギターを買うためネズミ退治のアルバイトをしたり、奇想天外な転回になって読者を惹き付けてやまない。
    村の因習も困難な歴史の背景も作者のユーモアのセンスで重苦しくならず、面白く読めた。さすがスェーデン人で12人にひとりが買った本だけある。映画もあるそうで、観てみたい。

  • 私はきっと、この作品が好きという人をも好きだと思います。。。

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