- Amazon.co.jp ・本 (229ページ)
- / ISBN・EAN: 9784106036835
作品紹介・あらすじ
ヒマワリの花はなぜ美しい螺旋を描いているのか?シマウマや熱帯魚はどうして「アニマル柄」なのか?数学者もびっくりした蜂の巣の六角形構造とは?体節から生えてくる昆虫の翅の起源はなにか?最先端の進化発生学を援用しながら、「生命が織り成す形」の法則性を探り、個体の発生プロセスに進化のダイナミズムを見出す、生物学の新しい冒険。
感想・レビュー・書評
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なぜ生物にカタチがあるのか。
それはアンドリュー・パーカー『眼の誕生』に詳しいように、眼という感覚器が生まれ、捕食者/被食者との間に見る見られる関係が生じたからだ。ではどのようにカタチは形成されるのか。筆者はそのあたりを、ただ解説するのではなく、ともに読者と思考しようとする。話はあちこちするがそこが読み物として面白い。
私がとくに見つけようとしていたのはチューリング・パターンに関する記述。たとえばシマウマのしましまのデザインなどが生成するアルゴリズム。
これがリンデンマイヤーのLシステムにつながり、フィボナッチ数列につながり、プリゴジンの「散逸構造」につながり、フラクタルへ。
おまけにドゥルーズの襞と差異についても言及され、なるほど襞=差異とはそう解釈すればいいのかと意外なところから納得。そういえばカントやベルクソンにまで話が及び、ゲーテが形態学においては主役級の役割を果たしたという驚くべき話へ……
ああ、物を知らないって楽しすぎる。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
おそらくこの著者の長沼さんは、かなりの「フカオイスト」なのではないかと。
各章、おもしろい展開だったけど、第12章は、読んだ当時思わず「エキサイティング!」と読書メモにも残した「眼の誕生」を思い出して楽しかった。 -
形態学は専門外とのことで、軽く楽しく読める雑学の詰まったエッセイ集の趣。
細胞の形を作るのは細胞壁と細胞骨格。細胞壁のない動物では細胞骨格:タンパク質のフィラメントが主役。
消化呼吸器系の発達史としては食道が本線、気管が支線。
生物界全体を見ると節足動物などタテグチが主流。エイリアンもタテグチの方が怖かったのでは。
毛管現象で吸い上げられる液体の高さは管の直径に反比例する。吸う系の口吻をもつ昆虫が大きくなれない一つの理由。
L−システム:単純なパターンの繰り返しでフラクタルな構造が作られる。植物のかたちをよく再現する。内因的に形が作られるとする立場。⇔環境との相互作用(これは複雑)をシュミレートする外因的な立場。
葉序パターン(対生、互生、らせん)も力学・化学・物理の3つの説明モデルがある。科学モデルが植物学好み、環境変化に対して化学物質の濃度勾配で形を作る。物理モデルはL−システム的。フィボナッチ数列が出てきたり。
参考)物理モデルのこんな<a href="http://www.fbs.osaka-u.ac.jp/labs/skondo/saibokogaku/fibonacchi.html" target="_blank">反論</a>をみつけた。
黄金螺旋、白銀螺旋(白銀比:半分に折ってもタテヨコ比が変わらない長辺vs短辺の比。すなわちA4、B4とかの紙のサイズ)、生成文法、チューリングパターン、散逸構造とか付いていききれず。結局どういうことか分からん。
ゲーテって、なかなかのアマチュア自然学者だったそうな。 -
k
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カタチへの問い。ちょっと分野違いの専門家による生物の形態の話。専門性が低いという意味では読みやすい。
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140111 中央図書館
あちこちに話が飛び火しながら進んでいくようにみえて、発生生物学、古生物学、数理的(構造主義的?)な生物形態論まで、綺麗にまとまっていく。
タテクチ、ヨコクチの話、アノマロカリス、フラクタル、生成文法、L-システムなど興味をそそられる内容が多かった。 -
後半に行くにつれ、著者の地がでてはっちゃけている感じ。ゲーテが好きなんだな。覚えておくべきジャーゴンとしては「エヴォ・デヴォ」か。
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作者の文章がエッセイのような感じで論理的に伝わってこない。
一つ一つの話は魅力的だが、そこから得られるものが限られている。
もう少し、カタチという側面から生物学が読み解かれると期待していたので
残念。 -
「辺境生物学者」長沼氏の形態学である。生命に興味があるので、形についても知識を得ようと思い、読んでみた。全12章、連載で体系的ではなく、著者の想像も入り読みにくいが、生物学の知見を知ることはできる。第1章は体節と左右対称(専門用語では左右相称)の話、陸上の内骨格生物では10tが限界、マグロのサシは植物プランクトン由来の油脂の生体凝縮などにもふれる。第2章は細胞骨格の話、ロバート・フックによるコルクの細胞観察(1665)、バイオマス(量)では微生物が5兆t、植物が2兆t、動物は数億t、人間は3億tくらいらしい。ガラスをつくる植物とか、細胞を膨らませる浸透圧の話。第3章は人体の食道と気管の話で、飲むだけの食道、吐く吸うの機能をもつ気管を切り替えるのはやっかいらしい。細胞から原口と原腸ができ、原腸が貫通した反対側が口になるのを「新口動物」(脊椎動物)、原口がそのまま口になるのは「旧口動物」(節足動物)となる。第4章は昆虫などの縦に切れている口は脚が変化したもの、脊椎動物の横にきれている口はエラが変化したものだとする。蚊は空気圧ではなく毛細管現象で血をすっているので、口は小さくないと液体を吸えない。パージェス頁岩の生物や中国雲南省澄江の生物群などの化石にも触れている。第5章はゲーテの「植物は一つの統一体ではなく、いくつもの統一体から合成された」という説にふれ、念珠藻の形を再現したL-システム(ハンガリーの生物学者、リンデンマイヤー1968)のしくみ、第6章はLシステムにやどるフィボナッチ数列・黄金比・螺旋などの話、第7章もLシステムの具体的解説、「最初はA」「Aが分裂してABになる」「Bが大きくなってAになる」。この法則で細胞の配置パターンなどを再現できる。第8章はチューリング・パターンの話で、自己言及の反復パターン(BZ反応などの「反応拡散系」)で生物の模様やシマなどが再現できるとのこと。第9章はベルクソンに影響をうけたプリゴジンの散逸構造と、ミツバチの巣の話。平面や空間充填の問題を生物は解いているらしい。第10章は、亀の甲羅の話で、甲羅は肋骨が広がったもので、甲羅を脱ぐことは不可能とする。ゲーテの「形成衝動」についても触れ、生物は形式と素材に限定されながらも、衝動・内的欲求・強制力・力・能力で変わっていくとする。第11章のペンギンの話、ペンギンは蹲踞の形で歩く。決して脚の短い生物ではないそうだ。泳ぎやすいように手首と手の骨が癒着して一枚になっているそうだ。翼・ヒレ・腕などは「相同器官」といい、どの生物も通常一種類しかもてない。昆虫のハネは気管エラの保護部分の背板が伸びて動くようになったものらしい。サナギをつくる完全変態は「繰り返し体節」から「頭胸腹システム」への再編という意味づけはあるものの、なぜ完全変態があるのかは不明だそうだ。最後は、眼の誕生から100万年で5億4200万年前の「カンブリア爆発」が起こったことから、見られるから「形」ができるという事実を裏づける。カントの判断力批判やゲーテ、三上茂夫の形態論について触れ、形成衝動やリズムにもふれる。多細胞生物の成立仮説で酸素から身を守るために生殖細胞を囲みこむ多細胞生物が生まれたとするのも興味ぶかい。分裂すると動物と植物になる「ハテナ」という生物の話など、最新の知見も多い。
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テレビでのちょいちょい見かけるようになった長沼先生 @NaganumaTakeshi が季刊誌に寄せた連載の単行本。著者本人のキャラに比すると表紙が地味だし、長沼さんの専門分野ではないようだが、「生命=コト、生物=モノ」というスキームの中で、後者のモノ ---- つまりカタチに注目したあれやこれやの話が、面白く脱線しながら進められてる。
どの章も面白いが、読んでいて個人的に盛り上がったのは第6~8章。フィボナッチ数列~黄金比~チューリング・パターンの件だ。生き物のカタチや模様は不思議だけれど、それを解きほぐす人間の知見も大したものだと感心してしまう。もう一点印象に残ったのが昆虫の変態。蛹の中では、各組織がドロドロに溶けてから再構成されるという。それでも同じ個体と云えるのかい?
唐突にゲーテが引用される箇所がいくつかあり、それは理解できなかったけれど、総じて楽しく読み進められた一冊だった。