文明が衰亡するとき (新潮選書)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (301ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106037092

感想・レビュー・書評

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  • ローマ、ヴェネツィア、1960-70年代のアメリカという時代・地理ともに異なる文明を「衰頽」というテーマで貫いた著作。

    著者の感覚的で断定的な記述が少なくない。それらがしっかりと腹落ちするかは読者の見識に依るところが大きいように思う。
    よく見ると論拠が書かれていることもあるが、そうでない場合には著者の思想や感性を掴む必要がある。
    特にアメリカの部分はついていけなかった印象が強い。

    一方で、ヴェネツィア衰頽の原因に関する洞察は興味深かった。終章にかけての、通商国家の根本的な脆弱性を一般化した説明は非常に含蓄があったように思う。

    そして本書の最たる美点は、歴史研究への向き合い方を示したことである。
    歴史的な法則を追究する目的意識が強すぎると事実を見誤りかねない。しかし、歴史は「運命への感覚」を与えてくれる。そこに歴史研究に現代的関心を持ち込む意義がある。

    好きな著作ではなかったかもしれないが、学びの多い良書だった。

  • Amazonで評価が高かったので、読んでみた。
    自分の歴史の知識が浅いため、難しく感じる部分が多かった。
    また、同じようなことを何回も回りくどく言っているように感じた。
    ただ、著者の知識や分析は非常に幅広く、頭が良いのだなぁと思った。
    また、日頃の仕事ではストレスを感じるが、文明や歴史に触れると、自分の悩みがいかに小さいかを感じて、心が軽くなって、救われる。

  • 文明が衰亡する原因は何か。
    ローマ帝国の場合は、①蛮族の侵入、②ローマを発展させたエリートの減少と奴隷解放による活力と進取の気象の欠如、先見と常識の不足、道徳的・政治的活力の弱体化、③雨に恵まれたよい気候が悪化し乾燥することによる農業の弱体化やマラリアの蔓延、④繁栄をもたらした福祉国家が、逆に税を重くし、社会の担税能力を超える福祉国家化、である。
    ヴェネチアの場合は、①新航路の開拓の失敗、②新進気鋭で商業的であった文化の衰退から乱伐からくる木材の不足、である。
    現代のアメリカに目を転じると、①都市計画の失敗、②拡大路線に対する諦め、③政府の拡大からくる政府の疲弊など、衰亡の兆候が表れ始めている。
    通商国家は、異質の文明と広汎な交際を持ち、さまざまな行動原則を巧みに使い分け、調和させて生きている。しかし逆に自信やアイデンティティを弱め、道徳的混乱が起きる。通商国家は、成功に酔い、うぬぼれると同時に、狡猾さに自己嫌悪を感じる。その結果、社会は分裂し、より平穏な生き方への傾向を求め、ネットワークの瓦解と変化への対応弱める。通商国家である日本がこれらの文明と同じ轍を踏まないようにするには、変化に対する対応する姿勢を持つ必要がある。

  • 古代ローマから海洋国家ヴェネツィア、現代のアメリカまで大国の歴史を事例に上げつつ、繁栄と衰退の要因を探った内容。刊行は1981年。書かれたことは今から振り返ると古いものが多い(特にアメリカについて書かれた章)。が、示唆に富む。
    人であれ国家であれ、時代・環境の変化に対応できない柔軟性や開放性の欠如、活力の減退は、どの大国においても衰退原因である。が、一番印象に残ったことは結局その国の繁栄をもたらす強みは弱みにもなるという重い事実だった。盛者必衰は世の真理という達観が何事も必要らしい。

  • ■文明衰退

    A.昔から今まで人々は、種々の角度から、文明の衰亡を論じて来た。中でも、ローマ帝国の衰亡については、多種多様の説がある。例えば ――
    ・蛮族(ゲルマン民族)の侵入によって亡ぼされた。
    ・ローマを発展させたエリートたちの家系が絶滅し、それに代わって秀れた新エリートが出現しなかった。
    ・気候の変化により、農業が衰頽した。
    ・強さの源泉である共和政が崩れ、専制政治が出現した。
    ・経済の中核である奴隷制大農場の存続が難しくなった。

    B.経済的な要因に、ローマの衰亡の原因を求める説は多く、それは今日における支配的な説と言える。

著者プロフィール

1934年(昭和9年),京都市に生まれる.京都大学法学部卒業.1960年より2年間ハーバード大学留学.法学博士.京都大学教授.専攻,国際政治学,ヨーロッパ政治史.1996年(平成8年)5月,逝去.『高坂正堯著作集』(全8巻)のほか,著書に『世界地図の中で考える』『政治的思考の復権』『近代文明への反逆』『外交感覚』『現代の国際政治』『平和と危機の構造』『高坂正堯外交評論集』『世界史の中から考える』『現代史の中で考える』などがある.

「2017年 『国際政治 恐怖と希望』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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