新しい太陽系: 新書で入門 (新潮新書 238)

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  • Amazon.co.jp ・本 (223ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106102387

感想・レビュー・書評

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  •  読みやすいのに非常に中身が濃くて,なんで今まで読んでなかったのかとかなり後悔。天文少年だったころ,胸をときめかせた思い出なども魅力的だし,無味乾燥なデータの羅列などは一切ないし,非常に読ませる本になっている。
     本書は,冥王星が惑星から外された翌年の2007年に書かれている。執筆の目的の一つは,過熱報道の残した誤解を払拭すること,ということなのだけど,太陽系の天体をどれもバランスよく扱っている。もちろん,冥王星の「降格」についても,関係者の一人として丁寧に解説。渡部先生が,IAU惑星定義委員会の委員をやってたのは初めて知りました。
     もともと惑星の定義はなかったこと,冥王星がその発見以降,詳しく観察されるたびにどんどん「小さくなっていった」こと,さらに観測が進み,冥王星の周辺にたくさんの外縁天体が見つかって,冥王星より大きい小惑星も見つかってきたこと。これらが冥王星が惑星でなくなった背景にあって,IAUの抜き打ち的な惑星定義プロジェクトの進め方も功を奏して,妥当な結論が得られたということ。学問の中身にも,歴史的経緯や手続の巧拙が影響するんだなあというのがよくわかる。
     とにかくおすすめの本。第一章は,技術革新で太陽系はどんどん広がってきた,と言うとても魅力的な話。望遠鏡で天王星が発見され,星図と天体力学で海王星,写真技術で冥王星,CCDでエッジワース・カイパーベルト天体…。
     以下,各天体について本書で得た知識を少し御紹介。
    ・水星では,一日がちょうど二年。自転周期:公転周期がちょうど2:3で,自転と公転の向きが同じだからこうなっている。2:3ていう綺麗な整数比になるのは,一種の共鳴現象で,水星でも月の公転みたいに自転周期と公転周期が等しくなってもおかしくなかった。その場合は,昼の地点は常に昼,夜の地点は常に夜ということになるので,水星では「一日」という概念が存在しなくなっていた。
     水星の一日は,地球の176日と長い。太陽に近いし,一度昼が来ると長いことじりじり焼かれる。水星の一年(=公転周期)はこの半分の88地球日。もっとも,水星の自転軸は傾いてないので,季節はない。水星の自転周期は1/3日で56地球日。
    ・金星の一日は,116.8地球日。地球と金星が近づく周期(会合周期)はちょうど5金星日。このため,金星は地球と会合するとき常に同じ面を地球に向ける。これも太陽系における共鳴現象のひとつ。金星の自転は普通とは逆向きなので,金星では太陽は西から昇って東に沈む。もし自転の向きが正常で,なおかつ公転より遅ければ,太陽と星は空を正反対に進んでいくはずだけど,太陽系にそんな惑星はない。
    ・地球に衝突する可能性がよく取り沙汰される小惑星。その将来の軌道を高精度で求めるのは難しい。主な擾乱はヤーコフスキー効果で,太陽の熱で暖められた小惑星が放射する赤外線の反作用。ごくごく小さい力だが,はやぶさのイオンエンジンのように長期間では軌道を大きく変更しうる。
    ・木星は,極と赤道の温度差がほとんどない。惑星としては珍しく,内部からかなりのエネルギーを放射しているからで,おそらく重力エネルギーを解放していると考えられている。つまり,木星は今でもゆっくり縮んでる。
    ・土星の環が消えるのは,環のある平面(土星の赤道面)にちょうど地球が来て,細すぎて見えなくなるときと,太陽がその面に来て環に日があたらなくなるときの二種類がある。土星の公転周期の半分である15年おきに起こる現象。前回は2009年だった。
    ・天王星の環は1977年の掩蔽で偶然見つかった。これを機に,土星以外の大型惑星に次々と環が見つかる。
    ・海王星から見た太陽の大きさは,地球から見た最大の金星よりほんの少し大きい程度。その明るさは地球から見る満月の百倍以上だが,この太陽エネルギーから計算される海王星表面の放射平衡温度は40K程度。実際の海王星は表面温度は50Kくらいで,より太陽に近い天王星と同じ程度(放射平衡温度は太陽からの距離だけじゃなくてアルベドにもよるけど)。重力あるいは放射性物質による内部発熱がある模様。

  • 身近な月やお馴染みの惑星たちから、新たに発見された、一万年周期で太陽の周りを巡るセドナまで。まだまだ広がりを続ける太陽系の不思議さ、面白さに触れられる一冊。

  • 冥王星が太陽系惑星から外れたのは何故か?この疑問に明快な答えをくれた本であります。冥王星が惑星じゃなくなると聞いた時は「たった1000人くらいの人達でそんな大切な事決めちゃったのかよ!」って思ってたんですが。実際にその協議に携わっていた方の本なので。何で冥王星が惑星ではなく準惑星になったのか、非常にすっきりと分かりやすく理解できました。冥王星が惑星から外れた事は太陽系が狭くなったという訳ではなく、さらに広がりを持ったという言葉に、過去に天体少女だった私は胸がわくわくしました♪天体望遠鏡欲しいなぁ。

  • 面白いっすねえ、太陽系。自分たちが暮らす地球が属する太陽系は、宇宙からみれば小さな存在ですが、それでも知っていることはホンのわずか。まだまだ夢がいっぱいです。地球の仲間たち=惑星について、最新の知見を踏まえて、すごくわかりやすく解説してあります。カラーの口絵も、太陽系惑星への興味を大いにそそるもので、すぐにでも天体望遠鏡を買って夜空を眺めてみよう!という気になります。
    著者は、冥王星が惑星から準惑星へとカテゴリーを替える際に、アジアから唯一参加した識者です。その経緯や反響が細かく書かれていて、「冥王星、惑星から降格」という新聞の一面記事が実は適切ではない、ということもわかりました。新書で入門という名のとおり、入門書としては最高の一冊ではないでしょうか。

  • 入門書というだけあって分かりやすく、読んで楽しい良書でした。冥王星が準惑星と呼ばれるようになるまでの経緯はもちろん、その他8惑星や、その衛星に関する事柄まで、作者のエピソードを交えつつ楽しく読める一冊。
    この本でようやくエッジワース・カイパーベルトが何たるかを知りました。
    個人的にはやっぱり木星が好きだなあ。
    土星は、環や衛星タイタンの説明はいっぱい書いてあるのに、本体の説明が短くてなんか可哀想でちょっと笑えた。

著者プロフィール

渡部 潤一(わたなべ・じゅんいち) 1960年福島県生まれ。東京大学理学部天文学科卒。東京大学大学院、東京大学東京天文台を経て、自然科学研究機構国立天文台上席教授・副台長、総合研究大学院大学教授、国際天文学連合副会長。理学博士。国際天文学連合では、惑星定義委員として準惑星という新しいカテゴリーを誕生させ、冥王星をその座に据えた。著書に『面白いほど宇宙がわかる15の言の葉』(小学館101新書)、『第二の地球が見つかる日』(朝日新書)など。

「2021年 『古代文明と星空の謎』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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