- Amazon.co.jp ・本 (207ページ)
- / ISBN・EAN: 9784106103483
作品紹介・あらすじ
全世界で七十八兆円、国内七兆円の医薬品業界が揺れている。巨額の投資とトップレベルの頭脳による熾烈な開発競争をもってしても、生まれなくなった新薬。ブロックバスターと呼ばれる巨大商品が、次々と特許切れを迎える「二〇一〇年問題」-。その一方で現実味をおびつつあるのが、頭のよくなる薬や不老長寿薬といった「夢の薬」だ。一粒の薬に秘められた、最先端のサイエンスとビジネスが織りなす壮大なドラマ。
感想・レビュー・書評
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本書は2010年科学ジャーナリスト賞を受賞した著書であり、著者自身が、医薬品メーカーの研究職の経歴があるため、業界裏事情を本音で書いた巧著である。
全世界で78兆円の市場の医薬品業界。
1位がアメリカで42兆円、二位が日本で7兆円。
凄い金額が動いている業界である。
日本とアメリカの違いにビックリするのは、日本の薬価は公定価格として、国が決めて税金や健康保険から支払いする仕組みで、基本は公金から得ているので、安定しているかと思うが、そうではなくて、二年ごとに平均5~7%ほど下げられる。一方、アメリカは薬価は自由に決められる。いい薬ほど高くて貧乏人は払えなくて、亡くなってしまうという。
医薬品メーカーは安定している業界と一般のひとは考えがちだが、本書で初めて知ることは、なんて安定しないギャンブル性の高い業界かということ。
新薬を開発するには、10年以上の期間と100億円超え費用を研究に費やしても、何もできない時もある。
やっと特許をとっても、20年で特許が切れて、安価な薬品(ジェネリック)になり、収益が落ちてしまう。
その他、この本には、医薬品業界の合併再編、訴訟問題、副作用問題と薬の不安定性と業界の問題を思い知れされた内容になっている。
本書で薬に対する考え方が変わることで、健康への配慮が一層進むことを願うばかりである。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
読もうと思っていたが、機会を見つけてようやく購読。医薬品開発までの詳細なプロセスは「現場」の人間ならではで、処方するサイドのドクターはぜひこういうものを読んでおくべきだと思う。
製薬メーカーの時代的流れも、最近はあまり勉強していなかったのでよい復習と学習になった。メルク、バイオックスあたりまで(2000年ちょっとくらい)はこのへんを集中的に勉強して、株まで持っていたこともありました(今は全部手放してますけど)。
タミフルの効能への期待(H1N1)など、臨床家の目から見るとちょっと薬に「甘い」姿勢も感じないではないけれど、開発サイドから言ったらこういう見方になるのもしかたないか。ちょうどいまNEJMにGSKのfraudの記事が載っていたのも、偶然ながら興味深く考えさせられた。
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMp1209249 -
医薬品業界という産業は新薬を創りにくいものの、一つ一つの医薬が膨大な利益を生む観点から考えれば、非常に高収益でかつ不安定な業界特性だ。
膨大なR&Dを経て次々に登場する新薬から巨大な利益をあげ、世の景気に関わりなく右肩上がりの急成長を続けて来た医薬品業界が、本当にここに来て初めてつまずきを見せているのならば、この不可解な現象がなぜ起きたのか。医薬の進歩は本当に限界を迎えたのか。そしてこれから一体何が起こるのか、という論点を考えることは多分色んな面で今後役に立つと思う。
~“経営コンサルタント、証券会社のアナリストといった人々は、「クリティカルマス」「スケールメリット」などの言葉を持ち出し、「日本の製薬企業の資本効率は低く、さらに再編を進めるべきだ」と説く。しかし、どのくらいのサイズがクリティカルであり、スケールメリットがそれほど重要ならファイザーや武田の苦境は一体何であるのか、彼らからは何の説明もない。
今後また大型合併をしてくれれば、確かに彼らの仕事は増えて万々歳だろう。しかしすでに製薬企業の首脳は、手間ばかりかかって実りのない大型合併に懲りている。スケールだけを追求した大型合併の時代は、もう終わったといっていい。
(中略)
医薬品産業は、痛み・苦しみから患者を救うという最も崇高な使命と、目も眩むほどの膨大な資金が飛び交う、この世で最も不思議な産業だ。”~ -
この人の本は、これまでに「ふしぎな国道」(読んだはずなのに、なぜか登録していない…これでこの人を知ったのに)「世界史を変えた薬」「炭素文明論」を読んできた。フリー(・サイエンス・)ライターとしての著者しか知らなかったので、本書でのスタンスは衝撃的(?)だった。
いやー、なかなかのぶっちゃけぶりである。
元製薬会社の研究員という知識と経験を活かして、医薬品開発の歴史や製薬業界の仕組みを分析・紹介してみせる。てっきりそういう本かと思い、確かに事実関係においてはそういう本でもあるのだが、著者の立ち位置はライターではなく、完全に元「製薬会社の研究員」である。
それがいかんというのではない。実際、根本的な構造からしてシャレにならん世界(社の利益の6割を支える製品の値うちが、一夜にして暴落するなど)だというのはひしひしと伝わるし、その説得力は元とはいえ「中の人」が言ってこそ、である。著者は「医療の限界」(小松秀樹著/新潮新書)なる本を、医師である書き手の「悲痛な叫び」と評しているが、医療業界全体がそうも言いたくなる状態なのだろう(巻末の「しかし、ガンを治す薬なんか作っちゃっていいんだろうか…」という現場研究員のつぶやきにはサバイバーの家族としてさすがに引いたが、そんな言葉が出てしまうほど、ギリギリの環境なのだと理解した)。
刊行年の古さ(2010年)はあれど、個人的には読んでよかった・その価値はあった本だった。ただ、上記のごときスタンスが鼻につく人はきっと一定数いて、そういう人には壁本レベルの「言語道断」となろうかと思うので、注意を要する。
2019/1/28読了 -
Vol.64
2010年問題!高収益で不安定な業界構造の謎に迫る。
http://www.shirayu.com/letter/2010/000122.html -
医薬品はけっこうお世話になっている割にはよく知らない点が多い。その点で医薬品に関する知識を深めるにはいい内容でした。
本書は医薬品の特許切れが起こる前の2010年に発刊されているもので、iPS細胞が出始める時代に書かれたものです。
今現在の状況がどうなっているのか、気になるところである。 -
科学的知識の説明と独特な業界事情の解説、筆者の見解のバランスが取れていて、新書としてはかなり質が高いと思います。
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読み終えてからタケキャブの薬剤説明を聞いたら泣くかもしれない、厳しい世界というのがよく分かる一冊。2010年を超えた今とこれからについての続編は読みたいけれど、筆者の問題意識や希望が最終章で分からなくなってしまったのが残念
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面白かった!製薬で勤めはじめ、ひとつひとつの言葉の意味の後ろに何があるのかという、歴史的背景や創薬の難しいさなど、知りたいことが網羅されていた。研究職って尊い。製薬業界はおもしろい。ぜひ続編も書いてほしい。