文明の海洋史観 (中公叢書)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (292ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120027154

作品紹介・あらすじ

新しい歴史観、遂に出現。近代はアジアの海から誕生した-。戦後、誰も疑うことのなかった陸地史観による通説に真っ向から挑み「太平洋文明の時代」に日本の進むべき道を提示する。

感想・レビュー・書評

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  • 【読売論談賞(第8回)】【「TRC MARC」の商品解説】

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  • 榊原英資 どうすれば「最高の仕事」ができるか P94

  • 1997年刊。著者は早稲田大学政治経済学部教授。


     好評媒体を異にする4つの論考(⑴近世日本の鎖国=自給自足の現代的意義。⑵マルクス段階史観への疑問符。⑶文明の海洋史観。⑷現代日本の目指す道と羅針盤。)を纏めた一書である。
     全然方向性の違う論考をひとまとめにしており、所々、方向性の違う叙述(例えば、梅棹忠夫の「文明の生態史観」につき、⑵では反マルクス史観の点で評価する一方、⑶では、社会変革のインパクトに対する論の誤謬を指摘する等)もあって、反マルクス史観以外の著者の立ち位置が明確にならず、読み手に混乱を来しそう。


     ただし本書が梅棹論のアンチテーゼ足り得るかは、甚だ疑問である。
     まず、①シュンペータの議論に依拠しつつ、物産の流入が経済発展と、これと不即不離の社会変革をもたらすというが、では近世期に先立ち、イスラム交易圏の内にあった東南アジアは、人的・物的交流の結節点となっていたことをどう見るのか。
     近世期以降、西欧の物的交流の結節点になっていたことはどうなのか。社会変革が東南アジアであったのか。おそらくはそういう事実は無かっただろうが、この点に関しては判然としない論の展開が見受けられる。

     また、②西田→今西→梅棹と続く(いわゆる)京都学派の発想と海洋史観の関係が不明瞭である。しかも、梅棹はともかく、今西に反マルクス史観のような意図があったかについては、本書の記述からも否定的に見えそうだ。

     ③さらに分子遺伝学が勃興しつつあった90年代半ばで、ダーウィニズム対今西生物学とが全面的に対立している立場だという視座は調査・勉強○○?と言わざるを得ない。
     環境適応性の強弱が進化と絶滅に関わることについて、両論は場面を異にするだけである。

     ④そもそも反マルキシズムというが、段階史観以外のマルキシズムの要素を否定するには別の論を要する。むしろ、経済や資本の分析枠組としての有用性は直ちに否定されているわけではない。かようにマルキシズムの検討不足が見え隠れする。

     ⑤著者の言う海洋史観においては、海からの物産到来が経済発展の、ひいては社会変革の端緒とみる。
     しかしながら、⑴シュンベータに由来するこの見解の妥当性如何?。物産を含むもう少し広い意味での情報伝来こそがインパクトでは?との疑問が生じる。
     加えて、⑵大陸国でも陸路を通じ、沿岸部は海・陸両面から物産が到来する。これらを齎すのは海からだけではない。
     しかも、⑶海と陸の違いは、パイプラインとタンカーの違いに例えられるだろうが、ここからは、流入物産の量、遠距離地域間の直結という違いは見て取れるが、陸が情報や物産を遮断するとまでは言い難い。
     かように海陸の違いを過度に強調し、説得的ではない。

     もちろん、海を介した隔たりが情報を遮断するわけではなく、人的・物的交流を妨げてはいないということは承認するし、想定以上の量と質の交流が、それこそ古代から続いていたことは積極的に首肯すべきだろう。
     しかし、だからと言って、文明発祥とその高度の発展の要因が海の道からの物産流入にあったというのは、余りにも短絡的かつ実証性に乏しい。
     梅棹は実は地域の生産性という観点で、環境を重視している上、西洋一極への批判はしながらも、大陸にある中国文明の勃興を否定しているわけではない。実際のところ、中国文明の揺籃地は、黄河流域においては、かなりの内陸にあることをどう考えているのだろうか?。

  • 唯物史観と海洋史観を陸からとらえた歴史感とし、それに反駁を加える形で海洋史観を打ち出した書物。
    どの理論が正しいのかのポジションを取ることに意味はないと思う。
    海に関しての考察がもっとあれば非常に読みやすかった。
    唯物史観と生態史観の説明で半分以上w
    唯物史観と生態史観のおさらいにはちょうどよい。

  • 今西、梅棹の流れ。

  • 梅棹氏の生態史観の地図の修正を試みている部分に興味を持ったのがきっかけ。海洋貿易の視点から世界の歴史の転換を論じている。

    9〜11世紀のフランク帝国は内陸国家だったため、土地が唯一の富の源泉である封建制を生み出さざるを得なかった。ヴェネチアが1378年のキオジア海戦でジェノヴァを破ってイスラム制海権下にあった東地中海を支配したことが中世の終焉をもたらした。

    14世紀半ばから150年間にわたってヨーロッパを襲った疫病により、中世の権威であった宗教に対する懐疑が生まれた。香辛料は食糧の保存や薬味のほか、医療品としても用いられたため、危険を冒して探しまわった。

    元寇によって中国がシナ海の制海権を失ったことにより、14〜16世紀は倭寇が盛んになった。

    日本では、15〜16世紀(室町・戦国期)に、流通、商業、言語、婚姻形態、女性の地位、食物体系におよぶ大転換を遂げた(「日本中世の民衆像」網野 善彦)。衣料面では麻から木綿へ転換した。木綿は朝鮮や中国からの輸入品だったが、戦国末期に移植に成功した。

    綿花は紀元前数千年よりインドで栽培され、長く独占していた。インド(イスラムのムガール帝国)の綿製品の輸入のため、ヨーロッパや日本では大量の金銀が流出した。それを止めるために、ヨーロッパは新大陸での栽培により大西洋交易圏を形成し、日本は国内生産による自給への切り替えに成功した。ヨーロッパは資本集約型の産業革命を起こした一方、日本は人が多いため労働集約型の「勤勉革命」により生産力を高めた。1800年頃のアジア旧文明圏からの離脱の完成が近代の始まり。

    ヨーロッパの世界進出の背景や過程、日本における元寇の影響、倭寇の意味など、歴史の流れが見えてきてわかりやすかった。

  •  唯物史観と生態史観の2つに代表される戦後日本人の歴史観に挑戦した論考である。

     奴隷、農奴、賃金労働者など生産に携わる人間の生産力、生産性を主たる社会変容の推進力とする唯物史観と、内陸に生きる遊牧民の暴力を主たる社会変容の推進力とする生態史観では、これまで「海洋」という視座が顧みられることはなかった。それ故、特に日本の歴史を適切に捉えることが出来なかったのではないか、というのが川勝の問題意識である。

     川勝の提示する海洋史観は、海外から押し寄せてくる外圧を社会変容の推進力の一部とみるものである。貿易によりもたらされる新規の文物が徐々にせよ、急激にせよ、輸入国に生活革命をもたらす。新規の文物をもたらす海洋の役割を歴史を理解するための視座に取り入れるべきである、というのが、その主張だ。

     相当雑駁に要約してしまった。主張は過ぎるくらいに簡潔であるが、これを導くまでに、西田、梅棹、マルクスらが著した文献の丁寧なレビューがある(第2章にあたる転の章)。川勝の主張に賛同するかどうかはともかく、この部分を読むだけでも価値があると思う。

  • [ 内容 ]
    新しい歴史観、遂に出現。
    近代はアジアの海から誕生した―。
    戦後、誰も疑うことのなかった陸地史観による通説に真っ向から挑み「太平洋文明の時代」に日本の進むべき道を提示する。

    [ 目次 ]
    序 新しい歴史像を求めて
    起之章 「鎖国」と近代世界システム
    承之章 歴史観について
    転之章 文明の海洋史観
    結之章 二十一世紀日本の国土構想

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  • <a href="http://bbs1.sekkaku.net/bbs/?id=mitosemi&log=2407">【三戸ゼミ掲示板】にて、ご紹介頂きました。</a>

  • 2章が難しすぎます…。
    海洋アジアのレスポンスとしてイギリスの近代世界システムと日本の鎖国が誕生するという話。
    かなり興味深い経済論。

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