アイロンと朝の詩人: 回送電車3

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (287ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120038662

感想・レビュー・書評

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  • 〜〜たとえ善意で発せられた言葉が結果として相手を傷つけたとしても、発せられた言葉の是非ではなく、是非を探ろうと新たに言葉を尽くす倫理そのものが難じられることはないはずだ。〜〜〜

  • まず一番最初の『ネクストバッターズサークル』の詠う物語から、惹きつけられる。それからフランス文学についての散文詩、日常における散文詩など続いていく。文学の海の中をたゆたう航海を、美しい言葉の唄と一緒に、だた一人の航夫になって旅をしていく錯覚に陥る。陽の当たる部屋で読んでいると、自分の頭の影がページに映りこんで、澱みを残す。それが能動的に舵を操る本当の読者の姿かもしれない。

  • エッセイ集「回送電車」の第3弾。毎回の如く表紙には北園克衛の「プラスティック・ポエム」から。いい装幀。相変わらず面白い。特に印象的だったのが「大学の送迎バスに乗り遅れた小島信夫さんをめぐる随想」。小島文学の一端を覗いた堀江さんの視点から、読んでる僕自身も小島さんのあの不思議な歪さを持った小説世界の一端を覗いたような気がした。考え抜かれてる。。。視点が読んでるこっち側と近いというか、フラットというか、それがこの人のエッセイを読んでいて惹き込まれる原因な気がする。(07/11/17)

  • −言葉には裏と表がある。裏が表になり、表が裏になるという動きのなかで、文脈が生まれる。それは少しずつ変化していくものだから、時に調整が必要となりはするけれど、言葉を使って生きているかぎり、伝えたかった意味と、伝えられた意味のずれは、避けることができない。−

    そして堀江敏幸は続けて云う。「是非を探ろうとあらたに言葉を尽くす倫理」と。ああやはりそうであったのかとの思いを強くする。

    堀江敏幸の文章の巧みさは、必ずといっていい程に指摘されることだけれども、自分にはむしろ堀江敏幸の重ねる言葉の多様さ、自分の印象に対する極めて真面目な理屈、そしてその理屈の架け橋の妙の方が際立つ。

    彼が何かを語ろうとする時、堀江敏幸はじっくりと自分の心の動きを観察するかのようである。そして何か自分の中に存在している似たような感情の切れ端をつまみ出す。その感情の基になっている言葉をたぐり寄せる。言葉と、その背景を支える文脈を呼び起こしつつ、自分がなぜその印象を持つに至ったのかを別の側面から説明付けようとする。堀江敏幸のすごさは、その過去の出来事への言及が記憶の再起にとどまらず、再解釈にまで至ることだろう。そして、いま現在の印象に対しても別の解釈が与えられ、一つの事象が思いの他に立体的で多面的であることを読者にも気付かせてくれることだ。

    但し気を付けていないと読み手は堀江敏幸に翻弄されて思考停止状態に陥り易い。そこへまた彼の警句が響く。「はじかれたくない、何とか枠に収まって欲しいと祈りながら書評というボールに詰めてゴールに蹴り込む。ほとんどのボールは、半透明によどむ無理解の靄にかき消されて行方知れずになってしまうのだが」。ああ自分は、幾つ堀江敏幸の放つボールを受け止められているのだろう。

    ところで、自分にとっても、ティガーはトラーなのだが、ピグレットはコブタじゃなくて、コプタなんじゃないかと、ある文章を読んで気になった。あるいはこれは記憶違いだろうか?P音を残した石井さんの名訳だと思っているのだけれど。

  • 氏の小説より最近はエッセイの方が好みになっています。

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著者プロフィール

作家

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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