- Amazon.co.jp ・本 (453ページ)
- / ISBN・EAN: 9784120047626
感想・レビュー・書評
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現代社会では、性や愛について科学的に説明する試みはあまり歓迎されない。
まず性(ジェンダーじゃなくてセクシャリテのほう)については公の場で語ることを許さない。そして愛の方は崇めたてられている。「愛こそはすべて」だ。ポップソングの歌詞は愛に溢れている。
そんななかで、愛とは、オキシトシンとかヴァソプレッシンがたくさん放出されている状態だと言ったら、怒りだす人もいるだろう。愛はもっと神聖なものであって、そんなホルモンの状態で語るな、と。
しかし、ジェンダー論を語るとき、LGBTを語るとき、浮気した東出くんを責めるときに、性と愛の脳科学を知っておくことは重要だろう。本書では、(見た目ではなく性格としての)男女はどう作られるのか、性的欲求はどういうメカニズムで作られるのか、母性はどういうメカニズムで育つのか、ヒトはどうして恋に溺れてしまうのか、どうして浮気をしてしまうのか、といったことを科学的に検証していく。
浮気は非常に嫌われる。浮気した人はまるで性的異常者のように社会から批判される。しかし、浮気はそんなに特殊なのか。まず、一夫一妻性をとらない動物は非常に多い。一夫一妻性をとる動物(鳥とかプレイリーハタネズミ)でも浮気はふつうに観察されるし、子供が巣立つまでのワンシーズンのみというケースもある。
人間の場合はどうか。40代から50代のアメリカ人を対象にした大規模な調査によると、20%近くの女性が、夫以外の誰かとセックスしたことがあると回答している。男性の場合は31%超、同棲や交際関係のとどまる場合は半分以上だ。世界は浮気に満ちている。
最初のうちは、恋に落ちてパートナーだけを求める。これはほぼ麻薬と同じ作用だという。まさに恋愛中毒になる。が、結婚生活を続けていくうちに効果は薄れていき、他の異性が魅力的に写るようになる。そして浮気したり、その衝動にかられるようになっていく。
ヒトにとって、浮気はある意味「自然」であるように見えてくる。でも、ダメとされるのだ。浮気に対する社会的制裁システムの存在が、かえって「浮気の自然さ」を証明している。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「性と愛の脳科学」
とても面白い内容だった。
性の分化からホルモンにより脳が性別に形作られる過程、性行動の動物たちとの比較による考察、というより類似性、脳の報酬系に働きかける行動、ホルモンの様子など興味が尽きない。
イソギンチャク、ハタネズミ、人間も同様なホルモン物質により脳の報酬系を刺激され性行動をとることなどは、ある意味では人間の尊厳などというものを地に引きずり下ろすものかもしれない。
400ページに及ぶ大著なので内容は発達心理学や心理学的手法による観察なども含み多岐にわたる。
そして最後の結論として、すべての行動は脳内のホルモンという化学物質によって引き起こされるのだとしたら、いったいどう考えたら良いのか。
人間の意識も結局脳内の電気・化学系の反応に基づいているのだろうから、自由意志とはいったい何だろうかと考えさせられる。
本書はそれでもそれを感じているのはあなた自身だといっている。デカルト的ではあるが、意味を教えるものではない。
科学は真実を突き止めるが、人間には意味を作る物語が必要だと言うことがよくわかる。 -
時々自分とはなんだろうと思う。
生まれる時、場所すらも選べず、当然、自らの才能、健康状態も選べず、生まれ落ちてしまう、なんの選択も許されていない、自分。
性的な衝動も、デザインされたように発動している、いたと見るのが適当だろう。
そうやって、太古から命を繋いできた生き物の、鎖の一部なんだろう。
味気ないといえば、味気ないが、なにも分からず、デザインされたように酔っていれば、それが幸せ、というのも、考えようによれば味気ない気もする。
この世の一部でも、「分かる」「分かった気になる」ことも、喜びの一つだとすると、この本を読むことで、喜びを得て、幸せを感じることができた、といえるのかもしれない。