理論疫学者・西浦博の挑戦-新型コロナからいのちを守れ! (単行本)

制作 : 川端 裕人 
  • 中央公論新社
4.31
  • (49)
  • (42)
  • (12)
  • (2)
  • (0)
本棚登録 : 373
感想 : 46
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (292ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120053597

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 新型コロナというものを通じ、普段あまりやってこられなかった「サイエンスと政府・国民の三人四脚」が日本でも行われざるを得なくなった。有る種強制力によって急にやらなければならなくなったのである。そんな状況下で、サイエンスの立場の人が何を思い、何を経験し、何をしようとしたかの記録がこの本である。環境整備が全くなっていない、ノウハウもない、そういう状況下で三人四脚するのは過酷だろうなと思うが、その考えの通り沢山の苦労が展開される。特に、「思ってもみなかった」「こんなことになるとは」といった類の苦労は、新環境で振る舞い始めた自分にもよくあることなので、辛さがひしひしとわかる。
    この本を通して何ができるのか?私達は新型コロナにせよ、他のものにせよ、何かお上の動きが出た時、「様々な個性を持つ『人』と、都合とが絡まり合いながら何かが進んでいて、しかも目に見えてくるものは全てストレートな発露ではなく、絡まり進む中で歪んだものかもしれない」というふうに考えられる目線が得られるかと思う。すると脊髄反射のように「これだから政府はだめ」とか「科学者が能無し」とか、そうは言えない人間になるかと思う。色んな人や情報の下で動く何かを慮れるということは、日常生活で人と対する時にも役に立つのではないだろうか。あとこの本を通して得られるものは、コミュニケーションって伝わらないよねという諦めに似た前提条件と、自分の行動が様々な余波を起こすことを考えた上で行動しないと善意が踏み潰されるという世の常が知れるだろう。

    新型コロナに関わる皆様には感謝しかないな、という気持ちも湧くはず。本当にありがとうございます。

  • 2020年、誰も知らない新しい感染症が蔓延した。
    私自身は、さまざまな情報に翻弄されつつも、職場柄(職業柄ではない。職場柄、である)「今現在医学的に科学的に正しいと仮定されている情報」を手に入れることができていたおかげで、パニックにはならずに済んだし、SNS上のインフォデミックにも惑わされずにこられた。
    テレビやネットニュースで見る、最前線に立ち続ける人たちの疲れ切った顔や、今何かを守ろうとしている顔は忘れられない。この顔つきは、震災の時にも見ていたから、今恐ろしいことが起きているのだ、ということを感じた。ただ、震災の時と違っていたのは、彼らの正義と感染症の専門家の正義にズレがあるらしいことが、はっきり見えていたことだ。そのズレは、見ている側の戸惑いや不信、不安に繋がったようにも思う。見ている側の人間も、自分の属する社会、会社、その他の背景で、それぞれの正義を持っているのだから、当然のことかもしれない。私自身、「は?何言ってるの?ダメだよそんなの」と何度思ったか知れない。
    本書はその渦中にいた研究者(といえばいいのだろうか)のノンフィクションだ。あの時何をしていたのか、私たちに見えないところで何が起きていたのか、舞台裏の話である。
    守ろうとするものが違う人間の、立場が違う人間のたくさんの思惑が交錯する様子も、その中にたくさんの「正義」があってぶつかり合う様子も、読んでいて苦しくなる。報道等を通じて私たちまで届くのはその中でもごく一部でしかなかったのだ、と想像以上の舞台裏を知る。今でもそれが続いているのは、ニュースを見ていれば感じられる。感染を止めなくてはいけない。経済を殺してはならない。国民生活を止めるわけにはいかない。いくつもの業界を守らねばならない。医療現場を潰すわけにはいかない。どれも正しくて、今なお両立は難しくて、折り合えずにいる。おそらくその状況は今後も続くのだろう。
    政府の仕事や官僚の仕事、大臣の立場と、研究者、感染症の専門家としての立場がぶつかり合う。ギリギリまで折り合う点を探し、お互い譲れない線があり、果てしなく続いていく感じがする。西浦氏にとっては彼の出す数字が正義であり、彼の立場で言えるのは、数字が示すことだけだ。
    帯にもあるが、西浦氏が殺害予告さえ受けた中で、解析を続けていたことは衝撃だった。誰かの中の「正義」が、彼を許せなかったのかもしれないが、彼は数字の使い手でしかない。研究者でしかない。「正義」というものの残酷さがここに向かってしまったことの極端さにもまた、苦しくなった。
    西浦氏の操る「数理モデル」のことは結局よくわからないが「手練」といえる使い手が彼一人であったことは、彼にとっても私たちにとっても不幸なことだったかも知れない。世界的にも大人数での検証ができているわけではないような書き方がされているので、世界中のごく一部の数字の使い手たちが西浦氏と同じ境遇にいるのかもしれない、と考えるのは想像しすぎだろうか。
    本書の最後の方にある、専門家会議の「卒論」の話は、テレビを見ていてやるせなかった出来事として記憶にある。政府が立ち上げた専門家会議でありながら、コミュニケーション不全を起こしていることが最後の最後ではっきりと見えてしまった出来事だったと思う。尾身氏の戸惑いの表情と、きっぱりと「聴いていない」と言った口調で、裏では今までもずっとご苦労されていて、今後もそれが続くのだろうか、と見ていて暗い気持ちになった。
    まだ感染症は収束しない。西浦氏は分科会メンバーではないが、今後も解析は続くだろうし、私たちが見えないところでのお仕事は続く。
    それにしても。この過激な状況が1年前に繰り広げられていたのか、とただただ驚くばかりである。

  • 2019年終わりから流行が始まった新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対応した西浦氏の行動や思索の記録です。氏の行動への賛否は様々だとしても、本書は歴史的な資料として価値があるはずです。
    日本のクラスター対策を日本より感染が深刻な外国から批判する昔の上司や、経済対策ではなく感染の流行制御の話に立ち入ってくる経済の専門家、責任を取らない政治家、そして自身の知見を正確に国民に伝えることの難しさなど、感情的ではないけど突っ込んだ本音まで記述されています。

  • 西浦博先生のことは、昨年2020の緊急事態宣言の時に知りました。かなり熱い方だとは、TwitterやTVから伺い知る事がで来てましたが、本書を読むとそれがよりわかりました。当時は、接触8割削減論に対して賛否両論がありましたが、その舞台裏である、専門家会議内のやりとり、政府との駆け引き、世論からのバッシングなどが赤裸々に、生々しく書かれており、感動さえ覚えました。

  • 貴重な記録。
    マスコミ等で下手に混乱をさせたくないがために情報統制を図る政府・行政と、事実をもとに正しい判断に導きたい科学者。
    共に気持ちはよく分かるが、コロナよりもっと酷いパンデミックだったらどうだったろう。
    情報を削ってしまって肝心なことが伝わらない&共感・理解を得られないことが一番の問題ではなかろうか。
    気持ちも伝えられる素晴らしい漫画家がいる国、わかりやすくヘルプ情報を解説するYouTuberが人気を博す時代、ここに改善できる余地が十分にあるのではないかと思いたい

  • 2020年1月、新型コロナウイルス感染症の流行初期や最初の緊急事態宣言の裏で何が起きていたのか。貴重な記録になると思う。

  • 舞台裏で何が起こっていたのか、ビシバシ伝わってきた

  • 政治上言えること、言えないことや、それが政治家の発言やニュースになる際にどのように削ぎ落とされたり駆け引きが行われるのかが見て取れる稀少な本。
    コロナ初期の記憶が残っているうちに読むことがおすすめです。

  • ワイドショーで、今も続く専門家叩き。この本を読むと8割おじさんの西浦教授や尾身先生達の凄さが分かると思います。

  • 日本には政府から独立し、しかも政府に提言できる科学者集団(アメリカのCDCのような)ものがないというのはこういうことか、と暗然たる思いになった。
    突然国立感染研から北海道大学の先生が呼び出され、そのつてで何とかコロナ対策班を作る。急拵えで、しかもボランティアに支えられているというお粗末さ。
    この西浦先生は今はアドバイザリーボードにいるようだが、第一線でずっとやってくれている尾身先生は本当にご苦労が絶えないと思う。科学的な分析結果をどのように伝えるか、どのように判断するか、誰が決断を下すか(これは政治に決まっているが)、はっきりしていなかったことに驚きを覚える。

全46件中 21 - 30件を表示

著者プロフィール

西浦 博(にしうら ひろし)京都大学大学院医学研究科教授

「2022年 『感染症流行を読み解く数理』 で使われていた紹介文から引用しています。」

西浦博の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×