葬式同窓会 (単行本)

著者 :
  • 中央公論新社
3.23
  • (8)
  • (26)
  • (51)
  • (13)
  • (3)
本棚登録 : 433
感想 : 43
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120056970

作品紹介・あらすじ

卒業後7年ぶりに再会した、北海道立白麗高校3年6組の元クラスメートたち。それは同窓会ではなく、クラス担任だった水野先生の葬儀だった。思いがけず再会した皆は、高校時代の思い出話に花を咲かせる。そして水野が授業中におこした〝事件〟が切っ掛けで不登校になったクラスメートがいたことを思い出す――。かつて高校生だったものたちを睨む〝過去〟。大人になるとはなにか、そして生き直すことは出来るのか。誰もが自分に問いかけた思いを描く、青春群像劇の傑作。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 山で出会う2人の様子から始まり、7年ぶりに担任の葬儀の後に集まった同窓生たちの現在。
    そして、フィギュアスケートのデュオで金メダルを取ったペア。
    これらがすべて繋がっていて、伏線で回収されると陰湿ないじめなどの負の部分が、切り取られていくようでもあった。

    心に傷を負った者は、傷つけられた相手を忘れることはできない。
    いちばん楽しい時期である青春時代の1ページに、黒く塗り潰したい隠の部分があると、歳を重ねても思いだしてしまうかもしれない。
    悔いのない青春時代を送ってくださいと言われることばも素直に受け取れない。


    月夜に校舎を見上げる力士は…
    噴水の縁に書かれた『オレ死ね』の文字。
    何年か後であっても、隣に『生きろ!』があれば届かなかったとしても伝えたい思いが存在したと言えるからいいじゃないか。




  •  高校時代の担任の葬儀で再会した元3年6組のクラスメートたち。懐かしさ、うれしさ、そして未だ癒えない心の傷。
     卒業して7年。大人になったつもりでいた。けれど……。

     現在の自分を見つめ直し、これからの自分を作っていく。そんな若者たちを描く群像劇。
              ◇
     8月11日午後0時。
     カナダのトロントに住むある女性のスマホに着信があった。発信者は不明だが表示された番号は、その女性には心当たりがある。
     存在すら忘れていた相手。自分に電話をしてくることなどないと思っていた相手の顔が思い浮かんだ。 ( 第1章「八月十一日 正午 カナダ トロント」) 全16章。
     
          * * * * *

     いくつもの人生が絡み合う、読んでいて胸が痛くなるような物語でした。また、群像劇ではあるのですが、中心になるのは2人です。

     1人は、柏崎優菜。優しく自己主張の強くない女性で、本好きでもあった優菜は現在、母校の白麗高校で司書教諭をしています。

     優菜は高校1年の時、ある女生徒のグループからイジメを受けていました。仲間外れ。陰口。イヤミに皮肉。思ったことを言い返せない優菜にとって、心に深い傷を負った苦しい1年間でした。
     2年でクラスが分かれたものの3年で再びイジメグループの急先鋒だった北別府華と一緒のクラスになります。ただし1人になった華の方も仕掛けてくることはなかったのですが、悪かったと思っている様子もなく図々しく接してくる華を見ると、優菜の心の傷は疼くのでした。

     高校を卒業後、華の顔を見ることなく7年が過ぎ、ようやく心の傷も癒えたと思った矢先のこと。急死した水野先生の葬儀で華と再会した優菜の心に、また苦しさが蘇ります。傷は癒えてなかったのです。

     もう1人は、船守大和。高校3年のある日、機嫌の悪かった水野から授業でパワハラめいた扱いを執拗に受け、不登校になった男子生徒です。大和は以後も復学することもなく7年経った今、ある決心をして1人で風冷尻山に登ってきました。
     実は大和は家庭でも問題を抱えており、登場人物の中でもっとも苦しい人生を送っていたのです。
     それについては物語の重要部分なので直接お読みください。

     この2人を軸に、イジメっ゙子の華、アロマンティックと思われる一木来良 ( 男子です ) 、恐らく同性愛者の碓氷彩海、高校時代は明るく人気者で目立ちたがりだった望月凛 ( 男子です ) が、それぞれの人生を見つめ直していきます。

     自分の黒歴史のケリをつけるのはかなり難しい。ましてや主原因が自分にない黒歴史ならなおのことです。

     終章を読んだとき、ようやくタイトルの本当の意味がわかります。
     乾ルカさんの『白麗高校』シリーズの中ではもっとも心に重くのしかかってくる、それでいて雲の切れ間から覗く陽光を見たような気持ちにさせてくれる作品でした。

  • 学生時代のイジメなどの嫌な思い出、当事者は何年経ってもふとした拍子に思い出してしまうのには共感した。
    恩師の同窓会で思いがけず再会したいじめた側の華の態度に、苛立つのは大人げないと取り繕っているけど、いやいや大人になってもイラつくでしょ。
    大人になっても感じが悪いままで、こっちまで腹立たしい気持ちになった。
    そして、水野先生はなんで苛立ちを一人の生徒にあそこまでぶつけちゃったのか謎。

  • 子どもの頃の私は、大人になるということは「妬みや意地悪な気持ちがなくなること」だと思っていました。
    乾ルカさんの作品は、自分や他人の様々な感情に振り回され、もどかしく感じていた、子どもの頃の教室という特別な空間に一気に引き戻されます。さらに、大人になった今でも、あの教室から抜け出せない自分がいることにも気付かされます。
    作中に「成熟した人間とは、自分の考えを持ち、それを相手にも分かるように伝えられる人」とありました。
    そうありたいと思います。
    アセクシャルやジェンダーバイアスなど、様々なテーマが盛り込まれています。

  • 学生時代の苦いあれやこれやの出来事や感情を思い出しつつ読書。
    水野先生があんな授業をしてしまった理由は、本当にみんなの推測通りだったのかな。モヤモヤが少し残った。

    華は好かん。
    一年生の時に仲間はずれや嘲笑していた相手に対し、三年になったら色々あったけど水に長そう的なことを言ってくるなんて、人としてどうかと思う。

    自分の嫌な経験を思い出した。
    私は中学時代にボス的な女子Aから無視されたことがあった。
    無視の理由は、本当にくだらない。
    ボス女子Aが敵対する別のボス女子Bの方が私と同じ小学校だったこともあり、仲がよかった。
    AとBはどちらが男子に人気があるかという争いを、周りを巻き込んで行っていた。
    AはBと話す私を見て、Bではなく私を無視することにしたのだ。
    Aと私は同じテニス部だったので、ボスの取り巻き達はもちろん私を集団で無視した。
    取り巻きCは、私のペアだったのに、全く口を利いてくれなくなった。
    無視事件はしばらくして私がAに謝らせられ、終わった。
    謝ることなんて何もないので、屈辱だった。

    しばらくしてAは取り巻きCを無視し始めた。
    理由は、イラつくから、らしかった。
    困ったCは、どうすればAに許してもらえるか私に聞いてきた。
    何事もなかったかのように私に接してくるだけでなく、平然と助けを求めるCに非常に怒りを感じた。

    こういうことが何度かあり、中学時代は苦行でしかなかった。
    別の友達経由で部活仲間の近況を聞くことがあるが、二度と関わりたくない。

    なので、優菜の最後の頑張りに拍手。
    華は職を失い、婚約者も失い、どんどん落ちればいいとすら思った。

  • 高校時代の教師のお葬式で8年ぶりに再会したクラスメイトたち。
    大人の顔で、微妙なマウントや探り合いをするうち、話題はあの日のことへ…。

    『おまえなんかに会いたくない』『水底のスピカ』に続く三部作の最後。
    といっても北海道立白麗高校が舞台というのが共通項なので、この作品だけ読んでもめちゃくちゃおもしろい!
    というか、ある人の名前が出てくるまで、前2作が同じ高校を舞台にしてることにも気付いてなかった…。
    もしかしたらほんとはいろいろつながりがあるかも…

    学生時代の、身の置き場のないような張り詰めた自意識。
    乾さんの三部作はどれも、あの空気が痛いくらい蘇ってくる。
    一人一人の苦しさもしっかり描かれているけど、今回の作品は中心人物が大人ならではの痛々しさを発揮してて、暗くなりすぎずおもしろく読めた。
    三部作どれもおすすめです!

    #葬式同窓会 #NetGalleyJP


  • 卒業後もずっと、胸に刺さったままで、
    棘として残りつづけている思い。
    影帽子のように自分の背について回り、
    息苦しさから解放してくれない記憶。

    囚われた過去を卒業という形で乗り越え
    その延長線上で生きるのではなく、
    かつての自分と真正面から向き合った末に
    自己を弔って改めて一から生き直す物語。




  • ルカさんは雪下まゆさんの表紙が好きなのかな?印象的で目を引く。
    同窓会ではなく、急死した恩師の葬式で、3年6組の同級生が8年ぶりに集まり、同窓会のような感じになったので、葬式同窓会。
    母校の司書をしている優菜のモヤモヤは、ずっと心の中に残っていた。
    大人になってからの話と、高校時代の話。
    作家をしている華のような、人を見下す感じを表現するのが、ルカさんは上手いと思う。
    青春はキラキラだけじゃないかも。
    最後の伏線回収はお見事。
    明るい気持ちで終わって良かった。

  • 図書館の新刊コーナーにあったので衝動借り。
    読んで良かった。面白かったです。
    登場人物の心理描写が丁寧。
    ハクトウワシのボンキングの話とか全く知らなかったので興味深かったです。
    切なくて苦しくなる所もありますが、終わり方が爽やかで清々しいので読後感はいいです。
    ただちょっと引っかかるのはクラスメイトの皆が船守くんに対して無関心すぎるのが個人的にとても怖かったです。どう考えてもこっちの事件の方が記憶に残ると思うのですが。この辺りはちょっとモヤモヤしました。

  • Amazonの紹介より
    卒業後7年ぶりに再会した、北海道立白麗高校3年6組の元クラスメートたち。それは同窓会ではなく、クラス担任だった水野先生の葬儀だった。思いがけず再会した皆は、高校時代の思い出話に花を咲かせる。そして水野が授業中におこした〝事件〟が切っ掛けで不登校になったクラスメートがいたことを思い出す――。かつて高校生だったものたちを睨む〝過去〟。大人になるとはなにか、そして生き直すことは出来るのか。誰もが自分に問いかけた思いを描く、青春群像劇の傑作。



    先生の葬儀をきっかけに甦ってくる昔の思い出。大人になってわかる真実に他人を理解することの難しさを感じました。
    いつの時代も、その時は何気ない言葉だったのが、本人にとってみれば、深く心に突き刺さり、時として刃と化します。

    気をつけなければいけませんが、それでも難しいと思うので、まずは相手の立場に立つことが大事かなと思いました。

    「白麗高校」シリーズということですが、別作品とはあまり接点というものはなかった印象だったので、単独として全然楽しめました。
    言葉によって傷つけられる描写があったので、何度も心を抉られましたが「答え合わせ」をすることで、何か引っ掛かるような心のささくれが取れたように感じました。

    ただ、気になったのは、なぜ水野先生が生徒にキレたのか?ということです。一応、キレた理由がわかるのですが、個人的には、もっと深い真相が待ち受けているのでは?と期待していたので、ちょっと拍子抜けしてしまいました。
    さらに先生側の視点がないので、本当にそれが真実なのか?わからず、帯での宣伝で前面に紹介されていたこともあって、もっと深堀りして欲しかったなと思いました。

    なので、一番の読みどころは、水野先生に関する出来事の真相ではなく、成長した高校生達が葬儀をきっかけに、昔と向き合っていく物語になっていきます。
    それが、良いネタなのか、それとも真剣に向き合い、「今」を成長させていくのか、それぞれの解釈が垣間見えます。

    群像劇になっていて、それぞれの登場人物がどう思っているのか、どう思っていたのか。登場人物の視点が変わるごとに色んな発見があるので、面白かったです。

    他人を犠牲にしてまで、注目されたいのか?
    「今」ならではの暴露による炎上騒ぎもあったので、どこか他人事ではないような親近感もあって、ある意味、リアルだなと思ってしまいました。
    今更、過去を振り返っても・・と思ってしまう時もありましたが、自分と向き合う良いチャンスなのかもしれません。

    良い「大人」になるとはどういうことか?見えない出口を彷徨っている感はありましたが、良いベクトルへ進めることを望みたいです。

全43件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

乾ルカ
一九七〇年北海道生まれ。二〇〇六年、「夏光」でオール讀物新人賞を受賞。一〇年『あの日にかえりたい』で直木賞候補、『メグル』で大藪春彦賞候補。映像化された『てふてふ荘へようこそ』ほか、『向かい風で飛べ!』『龍神の子どもたち』など著書多数。8作家による競作プロジェクト「螺旋」では昭和前期を担当し『コイコワレ』を執筆。近著の青春群像劇『おまえなんかに会いたくない』『水底のスピカ』が話題となる。

「2022年 『コイコワレ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

乾ルカの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×