社会学講義: 人と社会の学 (中公新書 1242)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121012425

作品紹介・あらすじ

本書は、理論的研究、経験的研究、歴史的研究等多くの分野を見通してきた著者があらためて現代社会学を総合的に捉え、専門分野のみならず一般読書人を対象にして、可能な限り高い水準で平易に説くことによって、この学問の面白さと真価を伝えようとする、「富永社会学の展示室」というべき作品である。

感想・レビュー・書評

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  • 社会学講義とあるが、社会学入門である。

    まず、社会学(Sociology) 昔からなんかピンとこなかった。非常に広範な領域を扱う学問だと思っていましたが、本書を読んで腑におちました。
    societyの訳文をみると、社会、世間、共同体とあり、理論社会学を読むと、個人の集まりを研究しているとあります。
    共同体を扱う学問であるとの内容であれば、その範囲も明確であり、他の社会科学との関係なんとなく、区別がつきそうです。

    本書は大きく3部にわかれています。

    1部:社会学とは何か
    2部:社会学の3分野 
      ①理論社会学(ミクロ社会学:個人を扱う、マクロ社会学:集団を扱う)
      ②領域社会学:個別研究(内包的領域社会学:家族社会学、農村社会学、都市社会学、産業社会学 外包的領域社会学:経済社会学)
      ③経験社会学:経験的実証的方法(社会調査、統計調査)
    3部:社会学の歴史
      ①前史+社会学第一世代 英仏啓蒙思想が出発点 仏:コント 英:スペンサー 独市民社会論(ヘーゲル、シュタイン、マルクス) 英市民社会論(スミス、ファーガソン)
      ②社会学第二世代 マクロ社会学の確立 仏:デュルケーム 独:テンニェス 独:マックス・ヴェーバ 米:クーリー 米:ミード
      ③現代社会学 第二次世界大戦後 機能主義理論 現象学的社会学 シンボル的相互行為主義 社会的交換理論と合理的選択理論
      日本における社会学
      ①第一世代 福沢諭吉、板垣退助 スペンサー 外山正一 コント
      ②第二世代 高田保馬 戸田貞三 新明正道

    気になったのは、以下です。

    ■社会学とは
    ・社会学とは社会を研究対象とする学問である。社会とは、複数の人びとの集まりである。
    ・マクロ社会 家族・学校・企業・官庁・村落・都市・国家・国民社会
    ・マクロ準社会 群衆・市場・社会階級・民族
    ・社会学の研究対象は、狭義の社会であり、狭義の社会は、マクロ社会とマクロ準社会と、ミクロ社会とに分かれる
    ・マクロ社会学は社会システムを主導概念とする
    ・認識方法による区分 3つの認識方法 歴史・理論・実践
     ①理論社会学
     ②経験社会学 経験OR実証 個性記述的研究 特定の社会集団、特定の地域社会、特定の出来事、事件を対象にそこで起こっていることを記述スルタイプ
                  法則定立的研究 仮説命題の検証を通じての一般化を試行するタイプ
     ③社会史
     ④社会政策

    ■理論社会学
    ・ミクロ社会の概念は、20世紀初頭になってから、突如はじまった。ジンメル、ミード、クーリー、トーマスらが、ミクロ社会学の創始者
    ・マクロ社会の他、ミクロ社会という概念を必要とする理由は、3つある。
     ①本体単一の意志を持たないマクロ社会が、いかにしてその構成員たる個々人の意志の集約をなし得るのかという問題を明らかにするため
     ②そもそも我々が観察することのできるのは、個人の行為であり、マクロ社会それ自体は、観察することができないから
     ③価値システムとしての文化の問題があげられる。価値システムは社会システムと同じく、マクロ社会レベルの概念でありる。個人が抱いている観念としての価値ならば、当該個人に面接することによって、それを聞き出すことができるから
    ・プロタンティズムの倫理が資本主義を生み出したというヴェーバーの命題定立は、実証研究の手続きにおいては、ミクロの価値意識のレベルで行われており、また実証研究としてはそういう手続きをとるしかない。
    ・重要なのは、個人レベルでの欲求・動機・目的は、社会システムの中で、けっしていつも充足ないし達成され得るわけではないということである。
    ・人間の行為には、感情的要素や伝統的要素が含まれているので、すべての人間行為が合理的であるとはいえないが、行為を目的達成過程として定義するかぎり、最小限度の合理性の契機はすべての行為に含まれていると考えることができる。

    ・ホモ・エコノミクス ①経済的利得を最大にするという、合理主義の基準 ②他者の感情や態度にはいっさい配慮しないし、その影響も受けないという利己主義・個人主義の基準
    ・ホモ・ソシオロジクス ホモ・エコノミクスと対極の概念、社会化された人間 社会システムから課せられた役割を分担することを自発的に受け入れ、そのことを通じて、他者と協働しながら、社会システムの機能的要件の達成に貢献する社会的行為者のこと

    ・ゲマインシャフト 他者が直接な要求の対象である場合 親子兄弟、地域社会、友人関係など
    ・ゲセルシャフト 仕事上の強力関係や市場的交換のように、他者が手段的に必要とされる場合

    ・相互行為を交換関係としてとらえること これを「社会的交換」とよぶ
    ・経済的交換とは異なり、社会的交換は、貨幣メディアを用いることなく、それゆえ、価格はなく、ただ、交換比率として価格に相当するものが考えることができる
    ・価格もついていないが、なんらかの非貨幣的費用を支払うことなしには獲得できない社会的資源を「社会材」という
    ・公正の観念は価値の共有を必要とし、価値の共有は価値の制度化を要求する

    ・職業的役割の制度的拘束は、地位のゆえに守ることを期待されている役割行為の様式、また地位のゆえに付与される権限とか、地位のゆえに課せられる義務などを客観化する
    ・その地位を占める個人が誰であろうと役割期待や行為規範が客観的に確立され、社会構造を構成するようになる
    ・客観的に確立された社会構造のなかに個人が組み入れられると、その中で制度化されている役割期待や行為規範は個人によって学習され、その学習されたものが内面化されて自我の一部になる。この過程を、「社会化」という

    ・社会を「システム」として見るという視点を暗黙のうちに含んでいる。
    ・社会機械論、社会有機体論の下地の上に、ホメオスタシス理論、サイバネティクス、一般システム理論、オートボイエシス理論の4つがシステムの制御メカニズムを理論化していった。

    ・全体社会において、諸社会的資源ならびのその獲得機会が不平等に分配されている社会構造状態を「社会階層」という。社会階層は複数の階層的地位からなるが、階層的地位を共通にする人々の集まりが「階層」である。

    ・社会変動は、集団・組織・地域社会などの部分社会レベルで考えることもできる。家族の構造変動、組織の構造変動、都市の構造変動がこれである。
    ・全体社会レベルでの社会変動は、もっともマクロで最も長期の社会変動である。このような社会変動の考察には、とりわけ「近代化」と「産業化」をその中心に位置づけることが必要である。
    ・近代化という上位概念の下に、つぎのような4つの近代化のサブカテゴリを考えることができる
     ①技術的・経済的近代化
     ②政治的近代化 民主化
     ③社会的近代化 
     ④文化的近代化
    ・人類は、科学・技術・経済・政治・法・宗教・芸術などのさまざまな分野において、広義における社会・文化的な進歩を達成してきた。

    ■領域社会学
    ・領域社会学とは、社会学の個別研究領域ごとに成立している部門別社会学のことである。
     ①内包的領域社会学 家族社会学、農村社会学、都市社会学、産業社会学
     ②外延的領域社会学 経済社会学

    ■経験社会学
    ・社会についての個別的事実を確証することを目的とするのが、経験社会学である。そのために ①データを作成する ⇒ ②これを解析する という2つの作業が必要である
    ・社会事業調査
    ・地域社会調査
    ・統計的調査
    ・意識調査(態度調査)と事実調査
    ・調査テーマによる分類
    ・社会史研究

    ・計量社会学
     社会階層調査のデータ解析

    目次

    序文
    第1章 社会の学としての社会学
     第1節 社会学とは何か
     第2節 社会学の研究対象
     第3節 社会学の研究諸部門
    第2章 理論社会学
     第1節 ミクロ社会学
     第2節 マクロ社会学(1) 社会システム構造論
     第3節 マクロ社会学(2) 社会システム変動論
    第3章 領域社会学と経験社会学
     第1節 領域社会学
     第2節 経験社会学(1)社会調査
     第3節 経験社会学(2)計量社会学 社会階層調査のデータ解析
    第4章 社会学史の主要な流れ
     第1節 前史と社会学第一世代
     第2節 社会学第二世代
     第3節 現代社会学の諸潮流
    結び
    文献案内
    索引

    ISBN:9784121012425
    出版社:中央公論新社
    判型:新書
    ページ数:383ページ
    定価:900円(本体)
    発行年月日:1995年4月25日発行

  • 富永健一 社会学講義

    新書なのに教科書らしい教科書。変な導入など無しに本論からダイレクトに入るあたり、有斐閣から出ている大学向けの教科書よりよっぽど教科書らしい書きっぷりをしているんでなかろうか。また、幅広い分野の話を1人で書けてしまう学識の広さに部外者だけれども脱帽もの。

    この本で印象的だったのは下の2点。
    1. 1章で社会学の取り扱い範囲と取り扱う社会の類型を並べていること
    2. 日本国内の社会学研究の歴史も言及していること

    1章で社会学が取り扱う社会をマクロとミクロ、社会と準社会に分けて話を進めているのだけれど、この部分を読んだ時に学生時代、卒論指導をしてくれた教官が時々「取り扱う集団が社会の中においてどういう集団であるのかをはっきりさせた方が良い」と言われていたことを思い出した。教官は「小さな集団を研究対象として扱っても、そこから大きな社会が見える研究をしてほしい」とも言っていたが、この本を読んでいたら、自分の研究が社会学が取り扱っている社会の全体のうちどの類型に該当するかを明らかにすることで調査対象とした集団を超えてより一般的なことが言えたのではないかと思った。2章の理論社会学のところで、経験社会学と理論社会学の往復の話をしているところに至ってなおその思いが強まった。
    ただ、1章は他の社会学者の名前を数えるほどしか出さずに話を進めていることが気になった。確実に過去の研究や著者自身の研究がバックボーンにあるはずだが、これをそのまま使うことはできない(使うにはなぜ使えるのか説明できないといけない)と思った。
    なお、1章2章と抽象度が高い話が続いているが、新しいタームを出すたびに具体例を挙げてくれるので迷子にならずに読み進めることができる。

    また、戦前からの日本の社会学研究の歴史を取り扱っていることも印象的だった。とかく理想化されがちな”古き良き”日本の実際を知る手がかりになるのではないかと思った。

    難点としてはミクロ社会学の取り扱いが薄い(特に現象学的社会学を実証主義を放棄したゲテモノだと思っていたようにも読める)、社会調査法は定量調査しか扱っていない上に内容が駆け足と言ったことが挙げられるけれど、これは他の本を読んで補えば良いのではないかと。

  • 社会学のていねいで手堅い入門書。

    著者は、社会学をあくまで実証的研究として捉える立場から、社会構造とその変動についての一般理論を解明する理論社会学を位置づけている。また、個別的な領域についての社会学的探求の実例として、家族社会学・農村社会学・都市社会学・産業社会学、さらに経済社会学の諸成果についても分かりやすく紹介し、社会学の実際の姿を読者に示している。

    最後の章は社会学史の概観に当てられている。著者はまず、啓蒙思想と実証主義の流れを汲む、コント、スペンサーらの先駆的業績を紹介した上で、社会をマクロな視点から扱うデュルケム、テンニェス、ウェーバーらの研究と、個人のレヴェルに定位して社会を眺めるジンメルやミードらの研究を対比しつつ解説する。また、日本における社会学史にもある程度詳しい説明がなされており、高田保馬、戸田貞三、鈴木栄太郎、新明正道らの業績が概観されている。

    社会学を実証的研究とみなす立場からの入門書なので、シュッツらの現象学的社会学やルーマンのシステム論について論じた箇所は、その魅力を十分に伝えきれていない憾みはあるが、入門書としては良心的で優れた本だと思う。

  • 社会科学の業績が集積した立派な名著
     社会科学には初めて触れたので読解に時間がかかったが、全体的によくまとまってゐて、努めて客観的に書かれてゐた。説明も大変丁寧で、模範的に書いてみたいと思ったほどである。
     社会学を本質的に概観する上で有用であり、面白い、有意義だ、研究水準もちゃんとしてゐる、と判断した。小谷野敦は富永健一を偉い社会学者だと書いてゐて、読んで確かにその通りだと思った。社会学者を名乗る古市や上野千鶴子などとは歴然とした差がある。
     おもしろくないと言ふ人がゐるが、学問に向っておもしろいもつまらないもあるまい。学問は決しておもしろく書くことが目指されるものではない。

  • 【由来】


    【期待したもの】

    ※「それは何か」を意識する、つまり、とりあえずの速読用か、テーマに関連していて、何を掴みたいのか、などを明確にする習慣を身につける訓練。

    【要約】


    【ノート】

  • ◆新書サイズであるにも関わらず、広範かつ茫漠とした社会学の全容を俯瞰して見せる重厚なガイドブック◆

    1995年刊行。
    著者は東京大学名誉教授(社会学理論、社会変動・近代化、経済社会学、社会階層論、組織理論)。

     重厚である。通常の新書レベルは超え、叙述密度の濃さから言えばなまじの概説書は凌駕するだろう。それは社会学の対象領域の広さと、雑多さに依拠、すなわち学問対象の「社会」の持つ意味・領域の広深さの必然的な帰結であるとはいえる。
     大体、法学や経済学が社会や人間の営みを対象とする以上、社会学の範疇とも言え、また人間が社会を動かしている以上、その人間心理も社会学の領域と言えないことはないからである。

     これら広大な学問領域の全容を言及しようとする意味で、本書は社会学全体の地図のような役割を果たしていることは確かだ。

     まず、全体を様々な物差しで峻別しマッピングしていく。
     つまり、社会学検討の視点の置き場が、個人か社会か(ミクロとマクロ)。静的分析か動的分析か(マクロの中の社会的システム構造論と社会的システム変動論)。演繹的理論か実証的帰納か(理論社会学と経験社会学)。統合的・一般的領域か、個別具体的領域か(理論社会学と領域社会学)。

     その上で、社会学の学説史を、源流の西欧と、これを受容・検討した日本での展開を踏まえ、現代社会学への誘っていく。

     勿論、領域社会学のように余りに多様かつ雑多なため(しかも、その中には他の学問、法学・経済学・教育学などの領域への越境と見られる分野もある)、その全容に触れることなど、紙幅的にも、著者の目配せと理解の範疇という観点でも不可能な部分もあり、事実、この点は割愛されている部分も多い。
     また、様々な解説自体について、富永社会学のバイアスから逃れることも皆無ではなかろう。

     しかし、新書サイズ(一応)に圧縮し、全体を俯瞰できれば十分ともいえる。軽量ではない内容も長所だ。

     もとより社会学のガイドブックの選択は専門家の意見に従うべきだろう。ただ、素人ながらに、取っ掛かりとして、本書がその一になるかも知れないなぁとは思う読後感である。

  • まるで電話帳を読み進めているかのような無味乾燥感を抱いた。今日の多くの社会学がごく当たり前の議論の積み重ねで構成されていて魅力に欠ける御用学問になってしまっているのではないだろうか。それはそれで世の中に必要とされているものなのかもしれないが。

    とはいえ、もう一度くらい読み返すともう少しためになると思う。

  • 新書ながら基本をカバーした教科書になっている。

    【目次】
    第1章 社会の学としての社会学
    第2章 理論社会学
    第3章 領域社会学と経験社会学
    第4章 社会学史の主要な流れ

  • 社会学系の学部を卒業しましたが、在学中はよくわからない学問だなあとずっと思っていました。社会人になって本書を読んでみて、社会学って面白いなあと初めて思いました。本書は社会学の基礎概念などをわかりやすく解説していますよね。社会学が他の学問領域に出張していくのが「領域社会学」ですなどと。
    経験社会学と社会学史のところはよくわからなくて辛かったです。
    大学で社会学を勉強することは二度とないでしょうが、在学中に「勉強するべきだったのにしなかった」ことの一つを勉強できて、満足です。

  • 社会学を一望できる。
    もう一度都市学をやりたくなった!
    メモ

    パーソンズ→ルーマン(+複雑性の縮減/システム自身が持つ自己組織化能力によって可能、構造ー機能から機能ー構造へ)
    盛山和夫「秩序問題と社会的ジレンマ」
    コールマン「社会理論の基礎」
    奥田道大「都市コミュニティの理論」
    藤田弘夫「都市の論理」

    都市社会学
    ドイツ:ヴェーバー/ゾンバルト
    シカゴ学派:都市問題に特徴づけられる
    パーク/バージェス/マッケンジー.......ワース
    「都市社会学のフロンティア」

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著者プロフィール

東京大学名誉教授、日本学士院会員

「2015年 『経済社会学キーワード集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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