ニ-チェ: ツァラトゥストラの謎 (中公新書 1939)

著者 :
  • 中央公論新社
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感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (353ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121019394

感想・レビュー・書評

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  • 数あるニーチェの本の中でも村井則夫氏(明星大学准教授)の本を手に取ったのは新書にしては深い洞察と新しい発見が多い中公新書から出版されていたことと、帯にかかれた「血をもって書かれたものだけを私は信じる」というニーチェ自身の言葉の強烈さに圧倒されたからという理由が大きいように感じられます。

    過去に自分がやったテレビゲームに、「ゼノギアス」や「ゼノサーガ」といったRPGがありました。制作者である高橋哲也氏が盛り込んでいたニーチェの思想が、テレビゲームという媒体を通じて断片的に知るだけでしたが、発狂する前にニーチェがたどり着いていた「永劫回帰」の発現のプロセスを追うことができたのもこの本から得ることのできた成果でした。

    この本を読み終えても何一つ解決しませんし、すっきりともせず、ニーチェが残した思想世界の泥沼にはまりこんでいく空恐ろしい感覚を抱きながら本を閉じることになります。それは自称の理解を促す一方で、実は誤解である可能性があるという危険性と常に隣り合わせであるという緊張感にあります。ニーチェが発狂して人生の最期を迎えたように、彼がたどりついた永劫回帰の意味を知ってしまうと、自分の思考も訳が分からなくなり混乱する、つまりニーチェを体験するかのような感覚に陥る怖さがあるんですね。

    そんな中であっても、悩みを笑いの題材にできるパロディを奉じる精神や、異常と正常の区別をなくしてすべてを平等として受け入れる発想をニーチェから導きだせたのは新鮮な発見でした。ニーチェそのものの人生が常人には理解できない足跡を残しており、実生活から紡ぎだされた思想故に魅力的なんですね。虜まではいきませんし、ニーチェ自身の著書を手にできるほどのレベルにさえ達していませんが、挫折せずに次へ迎える気持ちでいるのは自分に何か面白いと思えるものがこの本を通じて残ったからでしょう。

    ★が5つなのは、村井氏の解説がやさしくここからニーチェを読み広げていくには良書だろうと思うからです。しかし、実際に読後感として去来するのは、ニーチェの思想を理解するに私の脳が追いついていない恥ずかしさでした。私のせいで評価そのものを軽んじる理由は無いのでこうさせていただきました。

  • ニーチェは最も好きな哲学者だ。この解説書はいままでのどの解説書よりもなるほどと思わされた。ただ、それでも永劫回帰の説明はよくわからなかった。

  • 2部構成。第1部でニーチェの文体について論じ、第2部で『ツァラトゥストラ』を読解する。
    岩波文庫版の『ツァラトゥストラ』には訳注が無かったが、本書はその役割を十二分に果たしてくれた。
    以下は本書無しには読み取れなかった数々の「謎」の一部。

    ・古代ギリシアの風刺文学のスタイル「メニッペア」を模した表現技法
    ・綱渡り師と道化師のエピソードが暗示する意味
    ・ツァラトゥストラが説く駱駝⇒獅子⇒幼子の「三様の変化」と、ヘーゲルの弁証法との違い
    ・全篇をとおして現れる聖書のパロディ
    ・自分が見た悪夢にそれらしい解釈を与える弟子を、ツァラトゥストラが一度は歓迎しながら最後は首をふって否定した理由
    ・「重力の魔」が語る永劫回帰と、ツァラトゥストラの永劫回帰との違い
    ・ツァラトゥストラが擬人化された「生」に耳元でささやいた言葉(『ツァラトゥストラ』のテキストでは明示されない)
    ・ツァラトゥストラを誘惑する2人の女として擬人化された「知恵」と「生」の葛藤の意味
    ・ツァラトゥストラが泣く泣く「生」と訣別する理由

著者プロフィール

1962 年生。上智大学大学院哲学研究科博士後期課程満期修了。博士(哲学)。明星大学教授(2013-2017 年),中央大学文学部教授(2017-2022 年)。
著書に『人文学の可能性―言語・歴史・形象』『解体と遡行―ハイデガーと形而上学の歴史』『ニーチェ―仮象の文献学』(以上,知泉書館),『ニーチェ―ツァラトゥストラの謎』(中央公論新社)。訳書にニーチェ『偶像の黄昏』『喜ばしき知恵』(河出書房新社),トラバント『人文主義の言語思想』(共訳,岩波書店),ベーム『図像の哲学』(共訳,法政大学出版局),ブルーメンベルク『われわれが生きている現実』,シュナイダース『理性への希望』,ブルーメンベルク『近代の正統性III』(以上,法政大学出版局)ほか。

「2022年 『メタファー学のパラダイム』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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