人種とスポーツ - 黒人は本当に「速く」「強い」のか (中公新書 2163)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121021632

作品紹介・あらすじ

オリンピックの陸上男子100m決勝で、スタートラインに立った選手56人は、ここ30年すべて黒人である。陸上以外の競技でも、彼らの活躍は圧倒的に見える。だが、かつて彼らは劣った「人種」と規定され、スポーツの記録からは遠い所にあった。彼らは他の「人種」に比べ、本当に身体能力が優れているのか-。本書は、人種とスポーツの関係を歴史的に辿り、最新の科学的知見を交え、能力の先天性の問題について明らかにする。

感想・レビュー・書評

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  • black lives matterが世界中で問題になって以降、人種問題についての本をぼちぼち手に取るようになったが、この本はスポーツという切り口から歴史的な人種問題を取り扱っていたので非常に新鮮で興味深い考察が多かった。

    時代によって黒人は白人よりも運動神経が悪いと見なされていたり、現代のようにあるスポーツで黒人が活躍すると、黒人は運動能力が優れているという偏見が先行し、実際はどうなのかが盲点になってしまう。このような人種が絡んだ論点には歴史的要因がどうしても絡んでしまうのがよくわかった。

    科学的に(遺伝子的に)黒人は運動能力に長けているのかが結局曖昧だったので、そこが一番気になる。あと黒人、白人だけでなく、アジア系のルーツを持つ人はどうなのかも気になるところ(俗に日本人は体格が小さいからスポーツでは成功しにくいとよく言われるように)

  • 昨今の陸上競技では黒人選手が上位を独占する。これは『黒人は生まれつき身体能力が高い』という原因から生じた結果であるのか。本書はそんな一般人がなんとなく信じている理由なき因果関係を、米国の黒人のスポーツと社会の歴史から考察する一冊。南北戦争、人種分類主義体制、WW?。差別と偏見の米国の歴史の中で、如何にして黒人選手が居場所を奪われ、取り返し、その結果として環境要因が無視され、印象のみで語られてきたのか。その経緯と詳細が選手個人の歴史とともに語られ、自分もまた、印象で思い込むステレオタイプの一員であったことが思い知らされる。
    ただしただし。本書を語る上で重要な点として、『科学』が皆無であることを忘れてはならない。社会学と歴史学から『スポーツの優劣は環境要因が大きい』ということには納得がいくが、『結局のところ身体能力に差はあるのか』に対する答えはない。遺伝的、身体生理学的にどうなのか、科学的なアプローチに対する言及が全くないのは、どう考えても片手落ちだろう。筆者が語る『人種を分類するのは難しい』という言葉も、分類学と統計学を軽視する逃げの論に思えてならない。
    『黒人は本当に「速く」「強い」のか。』副題の疑問の解決には、本書だけでは足りない。

  • 黒人の身体能力は優れている。先ずこの言説が生まれた歴史を細かく時代背景と共に紐解く。スポーツが発展した頃、黒人は差別され機会を与えられなかった。徐々に人種統合が進みスポーツでも黒人の参加が増えた時、白人は黒人の優れた成績は生まれつきの性質による所が大きく努力の結果ではないとした、同時に黒人はその生まれつき、に誇りを持ち両者の意思が揃った。また陸上で活躍するのは黒人選手というのは事実だが、ケニアの選手を分析すると、ある特定地域のみに優秀な選手が多い事がわかった。ケニアの他地域は黒人だからといって何も特別ではないという。などなどステレオタイプな認識を丁寧に覆す理論を重ねる。100%論破しきってはないが、何事も認識を見直すきっかけを与えてくれる。

  •  黒人が身体能力に優れているは本当か。人種とスポーツの歴史を振り返りながら考察する。

     人種差別が色濃くあった1900年代前半まで、黒人はむしろ劣った存在としてスポーツの世界でも隔離されていた。それがだんだんと統合されていき、一部の種目で黒人選手が隆盛を極めている。
     だが、現在でも黒人は全てのスポーツで優勢なわけではない。ここでは興味深い記述が多い。MLBが黒人率が少ないのは意外だった。ケニアのマラソン選手は実はほとんどがある地域の出身者だった。
     結局スポーツは身体能力だけでなく、環境要因などによる部分も大きく、様々な要素によって強さが決まるものなのである。

     貴重な近代スポーツ史の資料。

  • 読み終わってモヤモヤが残る本。一般に言われる「黒人の身体能力は高い」と言われる「黒人」の定義が曖昧すぎるという話には納得。そして我々は歴史的、文化的背景や環境を考慮していないという点も納得。ただ読み終わった後にこういうことじゃないんじゃないか?という思いは抜けない

  • 黒人スポーツ選手が受けてきた差別と、やがて黒人の身体能力神話が人口に膾炙するまで
    正直言って、遺伝や環境要因などの研究の知見が足りなくて著者の論旨の組み立てはいまいち弱いのだけれど、それでも勘違いしてる人たちの多さを考えれば読んで欲しい本です

  • スポーツにおける黒人の活躍は圧倒的に見えるが、彼らは他の「人種」に比べ、本当に身体能力が優れているのか。人種とスポーツの関係を歴史的に辿り、最新の科学的知見を交え、能力の先天性の問題について明らかにする。【「TRC MARC」の商品解説】

    関西外大図書館OPACのURLはこちら↓
    https://opac1.kansaigaidai.ac.jp/iwjs0015opc/BB40165122

  • 黒人の身体能力は高い……。疑うことなく使っていたこのフレーズと意識を、歴史的、文化的側面から丁寧に解きほぐす。「黒人」とは恣意的な分類でしかなく、また、その出自であるアフリカにおいても多様であること。「人種」に対するイメージの形成を自覚させられる一冊だった。

  • 『人種とスポーツ――黒人は本当に「速く」「強い」のか』(川島浩平 中公新書 2012)
    著者:川島 浩平[かわしま・こうへい] (1961-) 比較文化、アメリカ研究。

    【書誌情報】
    初版刊行日:2012/5/25
    判型:新書判
    頁数:272
    定価:本体840円(税別)
    ISBN:978-4-12-102163-2

     オリンピックの陸上男子100m決勝で、スタートラインに立った選手56人は、ここ30年すべて黒人である。陸上以外の競技でも、彼らの活躍は圧倒的に見える。だが、かつて彼らは劣った「人種」と規定され、スポーツの記録からは遠い所にあった。彼らは他の「人種」に比べ、本当に身体能力が優れているのか――。本書は、人種とスポーツの関係を歴史的に辿り、最新の科学的知見を交え、能力の先天性の問題について明らかにする。
    http://www.chuko.co.jp/shinsho/2012/05/102163.html


    【簡易目次】
    はしがき [i-iii]
    目次 [v-x]

    序章 黒人と身体能力―生まれつき優れているのか 003
    第I章 「不可視」の時代――南北戦争以後~二〇世紀初頭 015
    第II章 人種分離主義体制下――二〇世紀初頭~一九二〇年代 051
    第III章 「黒人優越」の起源――身体的ステレオタイプ成立と一九三〇年代 091
    第IV章 アメリカンスポーツ界の人種統合――すべてはベースボールから始まった 135
    第V章 台頭から優越へ――メダル量産と黒人選手比率の激増 165
    第VI章 水泳、陸上競技と黒人選手――「黒人」としての特質なのか 199
    終章 「強い」というリアリティ――歴史、環境、多様性 231

    あとがき(二〇一二年四月 ロンドン五輪大会での黒人アスリートの活躍を期待しつつ 川島浩平) [243-247]
    出典一覧 [249]
    参考文献 [25-256]



    【目次】
    はしがき [i-iii]
    目次 [v-x]


    序章 黒人と身体能力―生まれつき優れているのか 003
      「黒人」とは  言葉と概念  三大スポーツの発展 ボクシングと陸上  本書の構成


    第I章 「不可視」の時代――南北戦争以後~二〇世紀初頭 015
      南北戦争後の黒人とスポーツ  アメリカでの近代スポーツ  医学・科学の偏見  初の黒人メジャーリーガー ―― M・F・ウォーカー  史上最強の騎手―― I・B・マーフィー  近代ボクシングの成立  ロンドンに渡ったボクサー ―― T・モリノー  全豪ヘビー級王者―― P・ジャクソン  初のヘビー級黒人世界チャンプ ―― J・ジョンソン  黒人ボクサーは「女性的」  黎明と例外性――肌の「白さ」  人種分離主義体制の成立


    第II章 人種分離主義体制下――二〇世紀初頭~一九二〇年代 051
      近代オリンピックの幕開け  多元主義優越論と実際の参加者  当時の白人ヒーローたち  黒人スポーツの低迷  変化の兆し  黒人初の選手・ヘッドコーチ――F・ポラード  エリートの家系に生まれて  P・ロブスン  「劣等」人種の「優越」選手として  黒人コミュニティのマイノリティ  「いかなる白人よりも白人らしい」  「黒人じゃない。やつは白人だ」  体育教育の普及  若年期の経験と選手参入  職業の制約とスポーツという新しい地平  身体能力ステレオタイプの前提


    第III章 「黒人優越」の起源――身体的ステレオタイプ成立と一九三〇年代 091
      白人至上主義全盛の時代  「未開人オリンピック」  北方人種至上主義の主張  結果を残した北方人種  転換期――トーランとメトカーフ  J・オーエンスの登場  ヘビー級王者J・ルイス  「勝者/強者の集団」としての黒人の出現  黒人優越説の萌芽  「優越」の論理――原始的特徴ゆえの有利  E・B・ヘンダーソンの主張  身体運動による同化主義  ヘンダーソンの黒人身体能力観  スポーツジャーナリストG・ライス  野性的であることの意味  形質人類学者W・M・コッブ  人種的要因の否定と限界  共通する三人  の主張――黒人生得説の肯定  黒人身体能力ステレオタイプの拡大


    第IV章 アメリカンスポーツ界の人種統合――すべてはベースボールから始まった 135
      J・ロビンソンのデビューと衝撃  「アメリカの夢」の実現  ロビンソンの資質  時代の変化――白人の経験と第二次世界大戦 ロビンソンの影響  人種統合は実現したか  ベースボールでの漸次的進展  バスケットボールと黒人コミュニテ  黒人プロ巡業チームの驚異的勝率  黒人初のNBA選手たち  崩れゆく南部の「紳士協定」   黒人五人対白人五人の決勝戦  ラムズからレッドスキンズまで カレッジ  フットボールでの歩み寄り  ボクシング、陸上、テニス、ゴルフでの変化


    第V章 台頭から優越へ――メダル量産と黒人選手比率の激増 165
      プロバスケットボール界の巨星たち  カレッジバスケットボールの五輪経験  「モバイルQB」の時代  陸上競技でのメダル量産  ベースボールの再「白人化」  リングを降りる黒人アスリート  ゴルフ、テニスの「壁」  黒人選手比率が意味するもの  黒人身体能力ステレオタイプの浸透  東京五輪での『ライフ』誌「人類学的評価」  J・オルセンと『恥ずべき真実』  「『黒人は最強』を評価する」の衝撃  相次ぐ著名人の発言  黒人アスリートたちの肯定  スポーツへの執着に警告  負の遺産の現状  日本でのステレオタイプの浸透


    第VI章 水泳、陸上競技と黒人選手――「黒人」としての特質なのか 199
      「不得意」と「得意」の競技  黒人は水泳が苦手か――シドニー五輪の記憶  ジョークと直言  「だれにだって弱みはある」  社会学者の指摘――機会の欠如  歴史学者K・ドーソンの視点  「主役」が交代した理由  水泳で活躍した黒人選手  黒人オリンピアン泳者  陸上競技での黒人アスリートの優越  メディアの影響力  黒人だからなのか――さらなるエスニック集団の精査  ナンディ出身者はなぜ強いのか  特定の個人が選ばれる理由  短距離種目と西アフリカの出自  陸上王国、ベースボール大国


    終章 「強い」というリアリティ――歴史、環境、多様性 231
      歴史的に形成されてきたのか  あいまいな「黒人」の概念  「黒人身体能力」というリアリティ  「黒人」のなかの多様性  なぜ優れたアスリート集団が現れるのか


    あとがき(二〇一二年四月 ロンドン五輪大会での黒人アスリートの活躍を期待しつつ 川島浩平) [243-247]
    出典一覧 [249]
    参考文献 [25-256]


    【図表一覧】

    表1  088
    表2  093
    表3  167
    表4  172
    地図  218
    地図  219
    地図  220
    地図 (1948〜92年) 226

    表5 陸上競技世界記録保持者(2002年1月) 214
    表6 日本,ジャマイカ,ドミニカ3国間のベースボール/陸上競技実力比較 240



    【抜き書き】
    □pp. 3-6
       「黒人」とは
     本論に入る前に「黒人の身体能力は生まれつき優れている」という主張を検討するために必要な言葉や概念について考えたい。
     「黒人」とはだれか――。ひとまず英語で「ブラック(black)」と呼ばれる人びとであるとしておこう。
     では英語の「ブラック」とはだれなのか。
     それは、アフリカ大陸のサハラ砂漠以南の地、すなわち「サブサハラ (sub-Sahara)」を出自とする人およびその子孫のことである。
     これらの人びとを「ブラック」と呼ぶ合意〔コンセンサス〕は、英語圏の社会で広く見られるものである。日本語の「黒人」もおおむねこれに準じて使われている。
     「黒人」は「肌が黒い人」の総称として用いられる場合もある。しかし本書は、オーストラリアのアボリジニーや、南アジアの褐色の肌をした人びとを含まない、アフリカ大陸のサブサハラを出自とする人びとに限定した意味で「黒人」を用いる。この用法が一般的に流通しているので、あえてカギ括弧で括らず表記する。
     ここで特に強調しておかなければならないが、このような意味で「黒人」を用いるからといって、「黒人」という人間集団を厳密に定義できるものとして認めているわけではない。むしろ本書は、「黒人」がとてもあいまいな概念であると示すことになる。だがこの言葉が広く一般に流通している以上、この事実を受け止め、サブ サハラを出自とする人びとを「黒人」と呼ぶところから出発する。
     では、「黒人」はなぜ、あいまいな概念なのか。
      そもそも現代的な意味での「人種」や「黒人」というカテゴリーの起源は、フランソワ・ベルニエ(一六二〇〜八八)からカール・フォン・リンネ(一七〇七〜七八)、ジョルジュ・ビュフォン (一七〇七〜八八)、ヨハン・F・ブルーメンバッハ(一七五二〜一八四〇)へと連なる一七世紀から一九世紀にかけて啓蒙主義時代を生きた西欧の思想家たちが、彼らの世界観のなかで作り上げた分類の単位にある。
     当時の知識人たちが博物学的な知見に基づいて作り上げたこの単位は、いかに多くの見聞や経験に基づいたものであっても、厳密に人類を区分する言葉として正確ではない。「人種」の境界は、現代科学の眼から見ると主観的で恣意的なラインにすぎない。その意味では、いかなる「人種」分類も文化的な作り物にすぎないことになる。ここではこの点をしっかり確認しておこう。

       言葉と概念
     「身体能力」とは、スポーツを行う能力のうちの身体に直接関連し、または由来する部分を強調した言葉である。「身体能力」は、「フィジカルな力」とも言い換えられる。概念としては、近年、アメリカ英語で頻繁に使われる「アスレティシズム(athleticism)」にきわめて近い。アスレティシズムは元来、一九世紀のイギリスで「運動競技熱」の意味で用いられ、そののちアメリカで知性に劣ることをはじめ、人種差別的な含みを持った言葉として使われた。
     しかし一九九〇年代頃から、高い運動能力や身体能力を意味する言葉として用いられている。「生まれつき優れている」とは、遺伝的、生理学的、あるいは医学的になんらかの理由によって他人よりも優れた資質や性質を出生前に与えられ、そのため出生後、人生で他人に優る能力や実力を示し、あるいは成果や業績をあげることを意味する。
     「黒人身体能力の生得説」とは、「黒人の身体能力は生まれつき優れている」という主張を支える理論や思想の枠組みの意味で用いる。そしてこのような主張が表現された言説や表象を、社会心理学でいう「ステレオタイプ」を援用して「黒人身体能力ステレオタイプ」と呼んでいく。 
     「アスリート」は、アマチュアかプロフェッショナルかを問わず、運動能力に長け、好んで運動競技やスポーツを実践する人、「運動選手」はアスリートのうち、一定の基準によって選考され、組織を代表して運動競技に参加する人に用いる。
     「アメリカンスポーツ」には狭義、広義二つの意味があるが、本書は両方の意味を区別せずに用いる。狭義には、競技の実施人口と観客および視聴者人口がもっとも多いベースボール、アメリカン・フットボール(以後フットボールのみで表記)、バスケットボールの三大スポーツのことである。広義には、三大スポーツに続く人気を集めるその他の競技を含み、「ア メリカで人気のあるスポーツ」という意味である。
     本書はアメリカンスポーツとして、三大スポーツに加えて、テニス、ゴルフ、ボクシング、陸上、競馬、競輪、そして水泳を取り上げる。いずれも歴史的に、あるいは現在、黒人選手と縁の深い競技である。
    ――――

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著者プロフィール

1961年、東京都に生まれる。ブラウン大学大学院歴史学研究科博士課程修了。博士(アメリカ都市史)。現在は、早稲田大学スポーツ科学学術院教授。専攻は、スポーツ史、アメリカ研究。著書に、Touchdown: An American Obsession(共著)Berkshire, 2019、『人種とスポーツ』(中公新書、2012)などがある。

「2020年 『スポーツ人類学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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