国際秩序 - 18世紀ヨーロッパから21世紀アジアへ (中公新書 2190)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (354ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121021908

感想・レビュー・書評

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  • 日本国憲法のせいだろうか。多くの日本人が外交というと平和外交か恫喝外交しかカードが無いと思うほどの外交音痴ぶりだが、本書は歴史をひもときながら、外交とは何かを教えてくれる。

    均衡の体系、協調の体系、共同体の体系の織りなす国際社会の視座が得られ、今後の日本の行く末を考える土台を与えてくれる。

    ・キッシンジャー:国際的な講話というものは、たとえそれが強制されたもので無く、受諾されたものであっても、常に、いずれの当事国にとっても、何かしら不条理なものと映るのである。逆説ではあるが、当事国がみな少なからず不満をもっているということが、安定の条件なのである。安定秩序の基礎は、関係当事国の相対的な安全--従って相対的な危険を意味する--にあるのである。
    ・新聞・雑誌がこの時代(19世紀)に急速に普及したことで、他国へのステレオタイプや神話も醸成され、それにあわせて敵意が芽生えることもあった。
    ・ヨーロッパ協調が機能するための2条件。1.主要な大国の間でパワーが均等に分布。2.それらの国が自制した行動を取ること。
    ・均衡が力の体系ならば、共同体は価値の体系。
    ・パスカル:力と正義を一緒におかなければならない。
    ・キッシンジャー:現代の危機が力を行使するだけでは解決され得ないことは自明の理である。しかしながら、これをもって、現在の国際関係において、力がなんらの役割も果たさないとは考えてはならない。
    ・抑止、均衡は自動的なものではない。
    ・伝統的な国際社会は自助原理に頼っていた。つまり、集団安全保障体制やPKOは適切に機能しない。
    ・ニクソン:世界史の中で長期にわたる平和が存在したのは、バランスオブパワーが存在した時代だけである。

  •  国際政治学と政治哲学を絡めながら、近世から現代に至るまでの世界史と国家論の変遷を追っていく。
     カントに心酔……とまではいかなくても多大なシンパシーを感じている私は、「交渉手段としての背景にある武力・他国を手段としてのみ扱う外交」を肯定する筆者の立場に対して素直に頷くことは出来ない。だが、カントのように「平和の可能性」をひたすら説くだけでも、暴力の連鎖が止まらないことも事実だ。
     細谷博士のように柔軟に、これらの問題を見据えていきたいと思える一冊だと思う。

  • 18世紀から現代に至る「国際秩序」の歴史を「均衡(バランス)」の体系、「協調(コンサート)」の体系、「共同体(コミュニティ)」の体系という3つの秩序原理の組み合わせから位置付ける試み。

    ヨーロッパ世界においてはじめて「勢力均衡」が成立したのは、18世紀のスペイン王位継承戦争後のことであるが、こうした「均衡」の体系は、たとえば19世紀後半のヨーロッパ国際秩序である「ビスマルク体制」において典型的に再現される。

    またその「ビスマルク体制」は、ナポレオン戦争後に成立したウィーン体制、すなわちヨーロッパにおける共通の価値(これは啓蒙の世紀である18世紀にスミスやヒュームらによって唱えられた「商業的社交性」の精神等によって支えられている)を前提に実現された「均衡による協調」の時代が徐々に崩壊(協調が失われ、剥き出しのナショナリズムが跋扈)していく過程で登場した。

    第一次世界大戦は、天才・ビスマルクによるアートとしての政治が失われ、均衡が崩れたことによって出現した。大戦後には「共同体の体系」が、しかし「均衡」「協調」という重要な要素を欠きながら登場する。とくに1931年の満州事変はヨーロッパ的な国際秩序原理とは異質な大国の行動が国際秩序を崩壊させたトリガーとしての画期性をもつと分析される。

    1931年の満州事変から10年後の1941年、英米による協調の精神を盛り込んだ「大西洋憲章」は第2次大戦後の冷戦期の「均衡の体系」の基礎となった。その後、ブッシュ(父)による「新世界秩序」構想、クリントンの「民主主義の共同体」構想を経ていく。

    現在は第2次大戦後の「大西洋」中心の時代から太平洋を中心とした時代への転換点であり、日米中の均衡と協調が、今後の「国際秩序」の鍵を握る。

    やや難解な部分もなくはないが、国際関係を2国間関係という点と点の関係の集合から理解するのではなく、面として一貫してとらえようとする著者の試みはひとまずは成功しているのではなかろうか。剥き出しの「均衡」と共通の価値観を背後にもつ「協調」が相即不離の関係で成立することが、今後の国際秩序を構想する上で非常に重要だということが、歴史的な視点から説得的に論じられている。

  • [世の軸足の探求]18世紀から21世紀にわたる国際社会とそのパワーシフトを概観しつつ、その時代の国家間関係を規律していた国際秩序にスポットライトを当てていく作品。「均衡」、「協調」そして「共同体」という体系を基に、時代的にも空間的にもマクロ的な視点から解説を加えていきます。著者は、ヨーロッパを中心とした国際政治を専門とする細谷雄一。


    力や理性に対する考え方が大きく異なる3つの体系を用いながら、とことん丁寧に国際政治の沿革をなぞるバランスのとれた一冊でした。二国間関係が主になりがちな国家間の関係を、その射程を広げて地域、さらには世界規模から俯瞰していく様子はお見事。リアリストの著作の系譜にまた1つ傑作が生まれたと言っていいのではないでしょうか。

    極めて客観的な視点で貫かれた記述ではありますが、下記のとおり、特に終章において述べられる細谷氏の主張は極めて明確。ある意味では「地味で面白みのない」提言のように思われるかもしれませんが、国際政治の背骨部分をしっかりと規律するものの味方を学ぶために非常に有意義な教訓が得られたと思っています。目まぐるしく外交が動く世の中にあって、改めて沈勇な姿勢が大切であることを痛感。

    〜平和を永続させるための「協調の体系」や「共同体の体系」を確立するためには、「均衡の体系」を否定するのではなくむしろそれを基礎に置くことが重要となる。〜

    それにしてもやっぱりメッテルニヒってスゴいな☆5つ

  • 2014.3.31
    世界史の授業で国際関係を話すのに役立つ。2世紀程度の長期的視野から概観するので、流れがはっきりする。
    最終章3節からは今後のアジア、太平洋を考えるための材料が提示されている。
    文章も読みやすい。

  • 18世紀以降激動する欧州にあって、大国に踊り出、現在に至る英国のしたたかで骨太な戦略的思想と歴史が詳述されます。中国が喧伝する「戦後国際秩序」というテーゼが気になり本書を手にしました。こんな70年前の価値観で包囲網を成功させてはいけません。歴史に学び、新しい太平洋秩序を築く価値観を示すこと。そして、多くの国々の共感・賛同を得ることこそ、我が国の立ち位置を獲得するバックボーンになるのでしょう。

  • 中国が台頭する中で不安定化する国際秩序をどのように安定化するか、2国間関係でなく広い空間軸と時間軸で国際秩序を面で捉えようと訴える。スペイン王位継承戦争、ウィーン体制、ビスマルク体制、1・2次の世界大戦、冷戦、そして現代に至るまで、国際秩序がどのように変遷していったかを解説する。
    秩序原理にはホッブズの思想が土台にある均衡、アダムスミスやヒュームの協調、カントの共同体の三つの体系がある。
    ヨーロッパ人としての紐帯と勢力均衡で「均衡による協調」を実現し、長い平和をもたらしたウィーン体制。「協調なき均衡」でビスマルク個人の資質に大きく依存した秩序をつくり、ビスマルク退任後に世界大戦が引き起こされたビスマルク体制。非ヨーロッパの台頭で国際秩序がグローバルなものになった20世紀。第一次大戦の後、「均衡なき共同体」を構築しようとして失敗し引き起こされた第二次大戦。均衡と協調の体系が結びついていた冷戦。「共同体の秩序」を実現したEU。
    こうやって国際秩序を歴史的に説明してくれたことで、例えば子ブッシュ政権の戦争だとか自分にとってリアルタイムだった事件がどうゆう文脈で行われたのかとかがよくわかった。
    国際秩序の構築には共通な価値観が必要であるが、今の東アジアにはそれが欠けている。国際政治の中心が太平洋に移っており、オバマ政権になってから太平洋にリバランスする米との同盟を安定強化し、台頭する中との均衡を回復し、均衡の土台の上に協調を築くことが太平洋に安定した国際秩序をもたらすために必要だ。

  • 地元の図書館で読む。購入すべき本です。

  • 読後の感想としては、とにかくこれだけの濃い内容を、新書1冊にまとめた努力には敬意を払いたいと思った

    まず、序章で、3つの原理として「均衡の体系」「協調の体系」「共同体の体系」を説明し、2章以降で18世紀以降の主としてヨーロッパの5大国を例に挙げながら3つの原理のどれに比重を置いて国際政治を造ったか、その歴史を検証している。

    人間は平和を望みつつ、その都度戦いを起こしてしまうが、第二次世界大戦後の不安定な中でも、局地戦はあっても大きな戦いがないことがある意味不思議に思えた。

    個人的には、ビスマルクの「政治は、科学(サイエンス)というより技術(アート)である」という言葉が心に残った。日本の使節団にビスマルクは会ったそうだが、いろいろな意味で日本も国際政治に組み込まれていく様子がわかりよかった。

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著者プロフィール

慶應義塾大学法学部教授、東京財団政策研究所 研究主幹。
1971 年生まれ、慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程単位取得退学、博士(法学)。国際政治、イギリス外交史。主要著作:『外交による平和──アンソニー・イーデンと二十世紀の国際政治』(有斐閣、2005 年)、『迷走するイギリス── EU 離脱と欧州の危機』(慶應義塾大学出版会、2016 年)ほか。

「2024年 『民主主義は甦るのか?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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