経済大陸アフリカ (中公新書 2199)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (286ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121021991

感想・レビュー・書評

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  • 今世紀に入って、イラク戦争に端を発した資源の全面高はアフリカに大きな変動をもたらした。20年以上に渡って停滞していた経済は、現在、継続的な高成長を謳歌している。しかし、その内実は、まさしく資源高に帰するところが大きく、旺盛な消費活動の陰で、アフリカの農業、製造業は、域内GDPに占める割合を減らし続けている。特に、農業の貧弱化は、輸入超過による貿易収支の悪化の他、食料物価を高止まりさせ製造業における賃金水準を押し上げるなど、開発の大きな妨げとなっている。また、およそ資源国においては、その収入の確保と分配が国家運営の基軸となって、開発よりも、権力維持が優先されがちである。いわゆる、"資源の呪い"、"資源の罠"が、なおもアフリカを苛んでいるのだ。はたして、今後アフリカはどのようにして発展していくのか。すでに国際経済をして無視することできない存在感を放つアフリカは、世界各国からの投資を呼び込み、紆余曲折を繰り返してきた開発援助と合わせて試行錯誤を続けている。衰退、疲弊する産業に囲まれた中にあっても、BOPビジネスはじめ様々な試みが芽吹いている。それは、ときに政治の力で取り払うことのできなかった国境の壁を易々と越え、アフリカの未来を力強く照らすものだ。最新のアフリカ動向を概観する最良の一冊。

  • 鉱物資源を豊富に有するアフリカ、BOPビジネスのアフリカについて
    論じた一冊。メモ。(1)農業の低開発は工業化を阻止する。低開発とは低所得を意味するのみならず高コストであることを意味している。製造業平均賃金、セネガル(4842)、エジプト(2528)、ガーナ(1832)etcに対し、中国(3853)、タイ(2233)、インドネシア(1667)。農業所得の向上が無ければ実現しない。(2)アンバトビープロジェクト。投資の一環としてCSR事業が強いられる拡大CSR。労務対策や教育システムまでをも包含した取り組みが必要(3)資源戦略と安全保障。自らの為に働くことが他者の利益になる設計が必要。

  • 特に目新しい事は書いてないが、データが多少まとまっているのと、ODA周りの知見は多少参考になるかと思う
    アフリカ経済については良書が沢山出ているのでまずはそちらをあたるべし
    この本はそれらの補完

  • 資源、食料(肥料)、21世紀の抱える課題からアフリカ経済の発展に先進~新興国の期待が集まる。各国の思惑が絡んだ世界経済のからくりがとても興味深い。

  • 2013年6月、横浜で開催されたアフリカ開発会議において、安倍首相はアフリカが「援助」から「投資」の対象となることを宣言した。本書は、まさにアフリカがなぜ投資すべき対象であるのか、その要因を様々なデータを引用しながら鋭く考察し、そして今後の日本とアフリカの関係について、著者自身の見解を述べている。
    我が国をはじめ、先進国はこれまでアフリカに多額の援助を行ってきた。しかし、アフリカ大陸は、インフラの未整備、ガバナンスの不安定さ、資源依存の産業構造などの要因により、経済成長は軌道に乗らなかった。ターニングポイントは、資源高の時代の到来である。中国やインドの経済成長により、資源安の時代は終わった。そこでスポットが当たったのがアフリカである。既に中国は先行してアフリカに投資を行っており、太いパイプを築いている。
    著者は、今後、少子高齢化の進行、労働市場の縮小が続く日本も、アフリカがパートナーとなると考察している。レアメタルを獲得する資源戦略として、官民連携でアフリカへ援助することが求められるが、おもしろかった点は、著者が開発政策と社会政策の2つに分けて論じているところである。開発政策としてインフラ整備を、社会政策として教育や保健衛生の分野をそれぞれ例に挙げ、官民が連携して援助を行うべきとしている。それが、パイの縮小する日本を救う道であり、だからこそアフリカは投資の対象となる。
    数々のデータに基づく著者の分析は非常にロジカルであり、ただ分析に終始するのみならず、我が国の進むべき道を示唆している点で、良書と言えるだろう。

  • アフリカの本と見せ掛けて中国の本。

  • アフリカにおける最大の発展障害は国境だ。アフリカ大陸には55もの国が存在し、国境線が細かく錯綜していて、ひとつひとつの国家の規模はとても小さい。人口1000万人以下の国が27、GDP規模が100億ドル以下の国が29もあり、日本では栃木県宇都宮市ほどの規模だ。したがって、アフリカで成長する企業は、必然的に国境を超えていくこととなる。
    グローバリゼーションが進行すると政府と企業の力関係がかわっていく。政府はその定義からして国境を越えることができない。グローバリゼーションを進めているのは、そこから利益をえている企業であり、世界競争で勝ち残るグローバル企業の力はグローバリゼーションの進行と共に大きくなっていく。アフリカがグローバライズされたということは、アフリカの経済の主役が企業になったということだ。

    東アジアでは「他国より豊かになる」ことを目標にかかげた競争思考の強い政権のもとで開発が進められ、それが最も経済発展に成功した。つまりナショナリズムこそが開発のエネルギーになったのである。p151
    自国のために働くということは、利己主義ではない。健全なナショナリズムを持たない人間はどこでも尊重されない。ただ、自らのために働くことが途上国の利益にもなるという事業を設計することが、グローバルプレーヤーにも求められるのである。アフリカと日本との関係は、そういった知恵によって構成されなければならない。それは開発の基本でもある。 p280
    途上国開発がいかに崇高な理念だとしても、開発の主体はあくまで途上国の国民であって、その国家でなければならない。 p151

    南アフリカの製造業の平均賃金はチェコよりも高く、セネガルは中国やフィリピンよりも高い。ケニアはタイより高いし、ウガンダやガーナはインドネシアより高い。経済発展の水準が低いにもかかわらずこれだけ賃金が高いと、労働力をあてにした投資は入ってこない。アジアの投資誘因である易くて豊富な労働力、がアフリカには存在しないのである。 低開発とは、高コストであることも意味している。脆弱な生産力しか持たない国は、輸入に頼るため、概して物価が高くなる。国民の大多数を占める農民が都市経済から切り離されているので、都市の賃金水準と農民の所得水準の間に生まれる格差を縮小するメカニズムが働かないのである。

    アフリカはその食料生産力から見て、その都市化率が過剰だといえる。あるいは都市化率からみて食料生産力が異常に低い。農業生産の停滞が穀物輸入の増大をもたらしている。サブサハラアフリカ諸国の穀物輸入を合計すると、その量は世界最大の輸入国日本を凌駕している。 これが意味していることは恐ろしい。アフリカの都市化がこのまま進行してしかも都市人口を飢えさせないためには、アフリカは穀物輸入を拡大しつづけなければならない。もしアフリカの購買力が不足すれば、世界はその分食糧援助を提供しなければならないのである。まさに底なしの援助だ。アフリカにおける人口増加と都市化の進行が必然的にもたらす食料依存は、世界の穀物生産にのしかかる。

    通常は経済成長に伴って都市人口が増え、歳の購買力が上がっていけばそれだけ食料支出が拡大して農産物が買われ、それが農村部の所得になる。その所得が生産性向上によって減少した農村人口の間で分配されるから、農民の所得水準が上がっていく。欧米ではおおよそ、農民のほうが製造業の労働者より高所得だ。経済成長の成果が都市と農村を循環して農民に裨益する経路がこれだが、アフリカではこの経路が閉ざされている。したがって、アフリカでは経済成長しても、貧困人口が全く減らない。

    世界で最もジニ係数が高いナミビアはウランやダイヤモンドの産出国で、既に0.7を超えている。南アフリカは2010年の最新のジニ係数を0.72と発表したが、これが本当なら世界新記録だ。暴動を誘発する可能性が高い危険値が0.4とされているから、0.7というのは通常の社会常識では考えられない数字である。 資源産業はそれほど多くの雇用を生まないので、経済成長の果実が社会に広く裨益しない。経済成長と共に完全雇用が実現して成長の果実があまねく配分されていく製造業依存の東アジアとはこの点が全く違っている。アジアでは経済が成長するにつれてジニ係数が下がっていくが、資源国の場合は上がっていく。

    資源輸出で貿易黒字が拡大し、国内通貨の為替が割高になって輸出競争力を低下させる。資金や労働力などの国内生産要素が資源部門に偏って投入されることにより製造業が育たない。更に資源高がもたらすたなぼたの収入が財政規律を狂わせる。かつて天然ガスの輸出国であったオランダの経済が、天然ガスの価格が低落しはじめると、財政赤字が拡大して危機に陥った。これを「オランダ病」という。

  • アフリカの現在について、いろいろな角度から光を当てて解き明かした本。筆者のように長くアフリカを見つめてきた人だからこそ、これほど多面的にアフリカのことを語れたのだと思う。

    扱われているテーマは以下の通り。

    アフリカ×中国
    アフリカ×資源開発
    アフリカ×食糧安全保障
    アフリカ×開発援助
    アフリカ×グローバル企業
    アフリカ×日本

    いずれも昨今語られることが多くなってきたテーマだが、それぞれに対して筆者ならではの一段深い洞察が含まれておりとても興味深かった。

    たとえば、アフリカと中国の関係については、中国が豊富な資金をもとにアフリカ中の資源を買いあさっているというだけではなく、結局中国の資源への投資が、国際開発援助が20年間かかっても好転させることができなかったアフリカの経済成長をあっさりと達成しつつあるといったことに触れている。

    もちろん、それでよいというほど単純ではなく、食糧生産の面からは、アフリカは依然生産性が低いままであり、資源バブルを経ても改善されていない。これがアフリカの将来的な成長の足かせになってくることも指摘している。

    また、国際開発援助についての章は、単にアフリカについての記述というより、戦後の開発援助の歴史を包括的に振り返るような充実した論述がされており、この章だけでも非常にためになった。

    戦後から現在までのアジアの発展とこれからのアフリカの軌道は全く異なる道筋をたどることになると思うが、筆者が掲げている複眼的な視点を持ちながら進めていくことで希望はあるということが分かった。それは、日本の経済にとっても非常に有益な結果をもたらすと思う。

  • 基本アフリカと言うと、サハラ砂漠以南のアフリカ(=サブサハラアフリカ)を指し、本書もサブサハラアフリカを対象にした本です。流し読みで読みましたが、内容的には濃い内容でした。ただ、ちょっと文章がお堅いので、読みづらい所が難点です。著者はアフリカ問題はもちろん、発展途上国全般やODA問題、資源問題にも造詣が深く、他のアフリカ本とはまた違った観点からアフリカを知ることができる興味深い内容です。

    特にODAに関する世界各国のスタンスやその経緯や、他の書籍では、中国の対アフリカ政策にネガティブな意見が多い中で、中国にポジティブなスタンスを取っている所が新鮮でした。そしてなぜポジティブなのかは実に説得力のある論調。私も中国ポジティブ論に共鳴しました。

  • 読みはじめて間もなく、いきなり中国批判的な感じで始まる。
    もしや最後までこの感じなのかと思いきや、中盤辺りからはこれまでの歴史になるのでちょっと一安心。笑。
    最後のフロンティアとも言われるくらいで、そしてアフリカ政策のことも少しは理解できたので読んでおいて損はないと思う。

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著者プロフィール

1962年生まれ。国際基督教大学卒業。東京神学大学大学院修士課程修了。日本基督教団阿佐ヶ谷教会、金沢長町教会を経て、現在、代田教会牧師。 説教塾全国委員長。

「2022年 『使徒信条 光の武具を身に着けて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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