日本の財政 (中公新書 2228)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121022288

作品紹介・あらすじ

GDPの2倍、1000兆円を超えた日本の借金。国家破綻をめぐる議論は絶えないが、借金は経済成長を期待して改革を先送りしてきた20年間の結果である。幾度となく財政再建を試みながら、なぜ失敗し続けるのか。成長戦略は重要だが、財政再建なしには少子高齢化は乗り切れない。本書は、特に予算制度に着目し、財政再建に成功・失敗した先進10ヵ国の事例を繙き、日本財政の根源的問題を指摘、再建の道筋を提示する。

感想・レビュー・書評

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  • 読もうと思った背景:
    Little Landというギリシャの財政破綻後を描いたドキュメンタリー映画を見て、「アテネはすっかり変わってしまった」とアテネを捨て移住する若者達の姿から財政破綻についてやっぱり理解しようと思った。コロナ対策でワニの上アゴが外れた日本財政の現状もかなり危機感を持った(けど良く理解できていない)のも背景。

    本の内容:
    ・歴代政権の財政改革を詳述
    ・財政赤字の政治経済学理論の提示
    ・先進国の財政再建の失敗/成功事例
    ・日本の現行制度の問題点の指摘と解決策の提案

    引用:
    世代間の公平性の問題は看過できない。単純な損得勘定は慎むべきだが、日本の若者は、世界で最も不公平な立場に立たされている。

    i.e. 2011年の内閣府の試算によると、国民一人が支払う年金医療介護の保険料などとサービス受給額の生涯収支は
    1955年生まれでマイナス 930万円
    2015年生まれでマイナス3,960万円

    感想:
    大変よく調べられていて、著者の問題意識の深さを感じる。勉強になりました。

    先進各国の成功事例を見ても、多くの場合外圧(EUの監視、世界的な関心事)であったり、経済危機(通貨暴落、為替危機)などが契機になって国民の意識の高まり、政府のコミットメントを経由してやっと財政健全化を成し遂げている事例が多く、「リスク管理」の次元ではなく「もう現実化した危機」にならないと人は動けないのか、というメッセージを逆に受け取ってしまった。いや、本書の訴えるようになんとかもう少し賢くありたいけど。
    財政危機の典型的なパターンは、経済成長率の低下、貯蓄率の低下、長期金利の上昇、財政再建の遅れ、国債の格付けの引き下げ、周辺国の危機の伝播、経常赤字などによる信用不安。日本経常赤字に転落したらいよいよまずいな…と思った。

    日本の財政制度の問題点をざっくり捉えると、戦略の欠如と責任の所在の曖昧さ・そのように促されるルール設計にある。そしてその構造がルールを絶対視する執行により強化される。という、日本らしさの塊で既視感がすごい(i.e.失敗の本質)

    改めて財務省の財政報告見ると、私は怖いと思うけど、日本国民は怖いと思わないのでしょうか。
    https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/a02.htm

    • myjstyleさん
      shokojalanさん
      「東京貧困女子」いいね!ありがとうございます。
      東北のコストは復興税として国民も払っており、25年で10兆にな...
      shokojalanさん
      「東京貧困女子」いいね!ありがとうございます。
      東北のコストは復興税として国民も払っており、25年で10兆になります。コロナだと1桁多いコストです。コロナ税だと非常に高額で長期に渡るでしょう。資産税の累進化はエリート層(=富裕層)が骨抜きにするでしょうし、国民は痛みを伴う財政再建策は受け入れません。日本の財政は潜在する貧困問題ですね。
      2021/01/15
    • shokojalanさん
      myjstyleさん、
      ご丁寧にありがとうございます!自己責任ではなく社会構造の問題では?というmyjstyleさんのご意見に共感しておりま...
      myjstyleさん、
      ご丁寧にありがとうございます!自己責任ではなく社会構造の問題では?というmyjstyleさんのご意見に共感しておりました。
      財政再建を先延ばしにすることで、結局 増税or行政サービスの悪化or通貨信用不安によるインフレ、により国民の生活が貧しくならないことを願っています。。
      2021/01/16
    • myjstyleさん
      shokojalanさん
      同感です。
      このコロナ禍においても、指導層の振る舞いで
      国の劣化を見させられるのは辛いことです。
      shokojalanさん
      同感です。
      このコロナ禍においても、指導層の振る舞いで
      国の劣化を見させられるのは辛いことです。
      2021/01/16
  • <内容>
    筆者は各国の財政事情を検討し、なぜ我が国で財政再建がうまくいかないかを検討している。
    筆者によれば、その主たる要因は財政制度によるものとする。
    ここでいう財政制度とは、財政運営にあたってのルール規則や、編成過程(予算編成)、などの幅広いものを抽象化したものになる。
    財務省が行う予算編成過程においても(サーベージ:予算を請求するもの、ガーディアン:予算査定者において)情報の非対称性が見られ、日本の場合財務省が弱い。

    成功している国の多くでは
    ・経済危機(国債利率の急上昇等)を経験したことによる国民の強い意識
    ・中期フレームワークなどの、将来の財政を拘束する枠組みの存在
    ・財政再建に対する政治家のコミットメント
    →官僚、政治家がどれだけ財政再建に対してやる気を発揮するか。
    が不可欠であり、わが国ではそれはうまくいっていない

    <コメント>
    財政制度の失敗を財政制度に問題があると指摘し、かつそれをモデル化した点で本書は意義があると思う。
    が、そのあとの対処法として公務員制度改革や政治制度に関してはあまり説得力がなく正直残念だった。

  • 現代版の昭和史みたいな。読むごとに暗澹たる気持ちになる。拒否権プレイヤーが多すぎて決められずまずい方向にずるずると進んでいく。諸外国はなぜうまくいったのかもみっちり書かれておるし、それらの国々の中でうまく行った方は結構短い期間で立ち直ってることが数少ない救い。

  • 日本の財政につきどんなに楽観的な見通しを抱く人でも、本書の冒頭4頁の日本の公債依存度のグラフの不恰好さを見たら暗澹たる気持ちになるに違いない。まるで心室細動でも起こしたかのような禍々しい形状だ。しかし、どうやら現在の政治・行政の中枢を占める方たちにとってはそうは見えないようだ。先日も、診療報酬の本体部分の消費税分上乗せが報道された。歳入に連動して歳出を増やすのでは何のために消費税を引き上げるのか分からない。

    著者は、まずバブル崩壊以降民主党政権崩壊までの日本の財政改革の試みと蹉跌を概観し、他先進国の制度改革と比較しながら、なぜ日本では財政改革が進まないのかを探る。そして、最大の問題は財政健全化のためのルールへのコミットメントが弱いことであるとし、公務員制度改革により、官僚の過度な政治への関与を押しとどめ、首相・内閣の中期計画に基づいたリーダーシップの強化を提言する。

    実際に財務省に籍を置き、管内閣で参事官を務め、予算検討委員会に参画し挫折を味わった著者の公務員に対する視線は厳しいが、限られたリソースを官僚本来の企画立案業務に振り分けるべきとする主張は正しいのではないかと思えた。かなり堅苦しい内容だが、予算制度の概略の再確認もでき、かなり有用。

  • 財政赤字は景気ではなく予算制度の問題。

    #bookvinegar

  • 誰しもが思う日本の財政赤字について、元官僚&元民主党のブレーンの立場から論じた作品。
    諸外国の財政赤字の歴史や状況についても書かれていて、財政赤字のことを概観できる。


    逆にここまで書かれていて、なぜ民主党で財政改革が出来なかったのか、どうしたら切り込めるのかについて、今後は書いて欲しいなぁと思った。

  • 要再読。
    財政健全化に特化したより詳細の議論。

    これまでの経緯、各国取組の概説及び比較。

  • これは良書です。元財務官僚が財政について相当な問題意識を持って書いています。政治、官僚それぞれの問題を指摘したうえで、政治家のコミットとその前提となる国民のコンセンサス醸成の重要性と、テクノクラートとしての公務員の専門性向上が期待され、予算制度、財政責任法、公務員制度改革が提言されています。問題は
    根深いですね。

  • 【目次】
    はじめに [i-vii]
    確実に高まってきたリスク/経済成長だけでは解決できない

    第1章 財政悪化の軌跡――危機を深めた二〇年 003
    1 バブル崩壊後の公債依存――継続する財政法違反 003
    一九九〇年、特別公債脱却目標の達成/財政構造改革元年だった一九九七年/「財政構造改革法」の挫折
    2 小泉財政構造改革――成果と限界 009
    小泉政権の誕生/会計間操作と歳出削減/二〇〇六年の歳出・歳入一体改革/リーマン・ショックと改革の頓挫
    3 民主党政権下の試み――政治主導の模索 017
    政権交代の実現/大きく振幅した経済/民主党の政治主導/模索が続いた予算編成/事業仕分けの功罪/「子ども手当」をめぐる迷走/菅政権の発足と消費増税の検討/東日本大震災と復興増税/反対のなかで達成した社会保障・税一体改革/民主党政権三年間の財政の軌跡/マニフェストの財源確保/民主党の敗北と自民党の政権復帰

    第2章 財政赤字の政治経済学――問題は政治家か制度か 043
    1 財政赤字の理論――モデルの探求 043
    景気循環と財政赤字/「政治家の行動」に求めるモデル/「制度」に求めるモデル
    2 予算制度と政治家――コミットメントの重要性 048
    情報の問題/財政・予算とは/集権化と透明化/財政ルール/中期財政フレーム/意思決定システム/予算・財政に関する情報と透明性/制度とプレーヤーの相互作用

    第3章 先進国の財政再建――失敗した国、成功した国 061
    1 財政再建のモデル――開始・実行・結果 061
    財政再建過程/財政再建を促す要因/支出削減か増税か/財政再建の効果
    2 一〇ヵ国の失敗と成功――二〇〇〇年代の明暗 066
    OECD一〇ヵ国の事例分析/アメリカ/支出ルールの成功と限界/イギリス/ゴールデン・ルールとサスティナビリティ・ルール/ニュージーランド/財政責任法というアンカー/オーストラリア/予算公正憲章法/カナダ/一九九〇年代前半の予算制度改革/フランス/ドイツ/権限の断片化と財政規律の低下/イタリア/財源確保規定による一定の改善/スウェーデン/三ヵ加年の歳出総額上限の先決/財政規律のさらなる強化/オランダ/「トレンドベース・アプローチ」の成功
    3 財政再建――成功の鍵は何か 117
    二〇〇〇年代の明暗/アメリカでの財政規律の低下/ユーロ危機に直面する欧州/事前のコミットメント――ルール・目標の約束/事後のコミットメント――ルール違反の監視/ピア・レビュー/独立財政機関の導入/大国と小国の相違/透明性の重要性

    第4章 日本財政が抱える病理――財政規律と予算制度 133
    1 予算制度の実態――さまざまな「抜け穴」 133
    日本の予算とは/二〇〇〇ページを超える予算書/予算の“一生”/関心が低い「決算」/定例化する赤字公債発行/規律が低下する建設公債/一般政府レベルの財政ルール/抜け穴だらけの「シーリング」――増分主義の遺産/政策判断を歪める当初予算の比較/「予定」されている補正予算/一般会計と特別会計間の操作/「隠れ借金」/単なる見通しの中期財政フレーム
    2 予算編成過程――拒否権プレーヤーの存在 163
    断片化している意思決定/与党の介入/党介入の起源――独立直後からの関与/政治主導と「特別枠」/税制改革――自民党税制調査会による決定/拒否権プレーヤー/首相や財務相の弱い力/ガーディアンとスペンダーの戦い/執行面の軽視
    3 改革には何が必要か――日本版財政責任法 178
    橋本改革のねらい/経済財政諮問会議の設置/小泉内閣の予算の検証/公共事業費の削減/経済財政諮問会議の評価/民主党政権の予算制度改革/ベースライン導入への財務省の反対/問題の整理/財政責任法の制定を

    第5章 予算と政治――ガバナンスの強化 195
    1 与党・官僚内閣制――曖昧な責任の所在 195
    与党議員と官僚の連携/公務員の政治化と専門性の劣化/中央省庁等改革の限界/民主党政権の統治機構改革
    2 財務省の役割とは――専門性と透明性 208
    予算編成のゲームのルール/財政再建に成功した国の特徴/財政当局の新たな役割/財務相の政治化と利害/財務省のジレンマ
    3 公務員制度の再構築――日本版上級管理職制度 215
    財政再建と公務員制度改革/公務員制度の分類/上級管理職制度(上級公務員制度)/オーストラリアのSES/国家公務員制度改革基本法の成立と停滞/改革の具体化の頓挫/日本の公務員制度の問題/国家公務員法の問題/基本法に基づく改革案の問題/公務員制度改革の課題/日本版上級管理職制度の導入を

    終章 日本財政の展望――三つの課題 237
    政権交代のたびに悪化する財政/社会保障では大きな政府へ/消費税一〇%で十分か/経常赤字のリスク/人口オーナス社会と後期高齢者の急増/財政再建の第一歩――危機感の共有/財政再建の第二歩――予算制度改革/財政再建の第三歩――社会保障制度改革


    あとがき(二〇一三年盛夏 東京 田中秀明) [259-262]
    主要参考文献 [263-264]

  • 日本の財政悪化の軌跡、財政赤字についての理論、先進各国の財政再建策などがよくまとまっており、そのうえで、財政責任法の制定など日本の財政再建に向けての処方箋を提示している。
    財政再建に向けては、プレーヤーのコミットメントが重要という指摘が印象に残った。本書では地方財政についてはほとんど触れていないが、本書を読んで、地方自治体におけるプレーヤーの財政健全化へのコミットメントを確保するような仕組みとして、財政運営基本条例の制定が有効なのではないかという示唆を得ることができた。

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著者プロフィール

明治大学 公共政策大学院教授。専門:財政学、社会保障・高等教育財政、公共政策。
著書:The Handbook of Japanese Public Administration and Bureaucracy(共編著,JapanDocuments Publishing/MHM Limited,2024年)、『「新しい国民皆保険」構想:制度改革・人的投資による経済再生戦略』(慶應義塾大学出版会,2023年)、『人口動態変化と財政・社会保障の制度設計』(共著,日本評論社,2021年)、The Democratic Party of Japan in Power(共著,Routledge,2017年)、『財政規律と予算制度改革:なぜ日本は財政再建に失敗しているか』(日本評論社,2011年)など。

「2024年 『高等教育改革の政治経済学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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