バルカン―「ヨーロッパの火薬庫」の歴史 (中公新書 2440)

  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (314ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121024404

感想・レビュー・書評

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  • タイトルから世界大戦時の政治が主題かなと思ったが、どちらかというと一般的な農民の文化や宗教観などのソフト面に多く記述があり、何よりもオスマン帝国下の半島の状況もかなり多く紙幅を使って著述されており面白い。
    このオスマン帝国に支配されている間の統治体制、宗教観が西欧では見られない形態で面白い。
    イスラム教と正教を同時に信じるという、日本人のような二重性。
    戦争で列強に引き裂かれるだけでない、バルカン半島に住む人々の生活の面白さを感じられる良い一冊。

  • 課題意識のはっきりした良書。島国に住んでると理解することすらも阻むような難問である。

    今ではバルカンは後進性や暴力といった言葉と共起されることが多いが、オスマン帝国時代はxx人だという民族的なアイデンティティは意識されておらず、宗教的な帰属の方が重視されていた。その信仰だって、田舎にいけばイスラム法もユダヤの儀式もキリスト教の聖人も等しくありがたがるような東洋的な汎神論に近いもので、身分的な制約やお互いの軽蔑はあってもそれなりに共存していた。

    それがオスマン帝国の崩壊とともに、分割を目論む西ヨーロッパの列強の思惑とともにネイションの概念が移入される。
    ところが、西側と違って、東南ヨーロッパでは一つの民族が大多数を占める地域というのは存在しない。トルコ人、セルビア人、ギリシャ人、アルバニア人、、、、
    国境を引いてみても必ず国境外にも大量の居住民を残すため、「未回収」の自民族を自国に収めるべく膨張政策の余地が常に存在する。
    宗教だって、一つの国家には一つの宗教が原則(オランダが新教を選択することはスペインからの独立を意味していたように)なので、強制改宗、大量の難民、大規模な殺戮や強制住民交換(これはイギリスの悪意で分離独立したパキスタンとインドのイスラム教徒とヒンズー教徒の交換もあった)が発生した。
    国境を接してあおっていたオーストリア帝国とロシアの利害が対立すれば、第一次世界大戦までは一直線だ。その後バルカン諸国が東西陣営に分割されても、基本的に1918年時点から国家間秩序はかわっていない。

    要するにバルカンが火薬庫なのはもともとそうなのではなく、国民国家という枠組みがもたらしたのだというのが本書の趣旨だが、国民国家モデルが有効なのは思いのほか狭い世界でしかなかったといまさら言ってみてもオスマン時代に戻るわけにもいかず、詮の無いことである。

  • 書籍についてこういった公開の場に書くと、身近なところからクレームが入るので、読後記は控えさせていただきます。

    http://www.rockfield.net/wordpress/?p=9916

著者プロフィール

1958年ロンドン生まれ。オクスフォード大学で古典学と哲学を専攻。ジョンズ・ホプキンス大学で修士号、オクスフォード大学で博士号を取得。現在コロンビア大学教授。ギリシャを中心とするバルカンの専門家であるにとどまらず、20世紀ヨーロッパ史の世界的権威である。「フィナンシャル・タイムズ」紙、「インデペンデント」紙などの寄稿者でもある。バルカンを扱った Inside Hitler's Greece: The Experience of Occupation, 1941–44 (1993)、 The Balkans: A Short History (2002)、 Salonica, City of Ghosts: Christians, Muslims and Jews, 1430–1950 (2004)で次々と権威ある賞を受ける。20世紀ヨーロッパ史を扱ったものとしては No Enchanted Palace: The End of Empire and the Ideological Origins of the United Nations (2009) (本書)、 Dark Continent: Europe's 20th Century (1998) (未來社より近刊)、Hitler's Empire: Nazi Rule in Occupied Europe (2008)、 Governing the World: The History of an Idea (2012) (NTT出版より『国際協調の先駆者たち』として刊行)などのベストセラーがある。

「2015年 『国連と帝国』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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