食の実験場アメリカ-ファーストフード帝国のゆくえ (中公新書 2540)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (257ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121025401

作品紹介・あらすじ

先住インディアン、黒人奴隷、各国の移民らの食文化が融合したアメリカの食。そこからバーベキュー、フライドチキン、ハンバーガーなど独自の食文化が形成されたが、画一化されたファーストフードや肥満という問題をも引き起こした。そしていまアメリカではスシロールに代表される、ヘルシーとエスニックを掛け合わせた潮流が生まれ、食を基点に農業や地域社会の姿も変えようとしている。食から読む移民大国の歴史と現在。

感想・レビュー・書評

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  • 「実験場」という過激な言葉が使われて
    いますが、内容はアメリカの食の歴史です。

    移民国家であるアメリカにおいて、現在の
    食の主流であるファーストフードを経て
    どこへ行こうとしているのか。
    まさに米国の食文化論です。

    ケンタッキーフライドチキンの発足時に
    店の向かいに、評判の良かったフライド
    チキンの店と並んでガソリンスタンド、
    レストレン、モーテルなどを併設した
    そうです。

    これが今のショッピングモールの始まり
    と言われています。

    カーネルさんはすごいですね。

  •  ファーストフードに席巻されているアメリカの食事情をつづった本かと思ったが、良い意味で裏切られた。
     今では画一的な工業製品というイメージが強いアメリカの食文化だが、昔は多様性に富んだ創作料理で満ちあふれていたことを知ることができた。これが、ひとつめの大きな収穫。本書では、植民地時代からアメリカの食文化がたどった過程を、当時の政治情勢や社会問題とからめて解説してくれており、簡単なアメリカ史の復習にもなる。
     それだけでなく、食を通して今後のアメリカをはじめ先進国が進むべきシナリオまで示唆しているのが興味深い。これがふたつめの収穫。

     昔、ハンバーガーもピザもコーラもないアメリカ植民地時代、先住インディアンや西インド諸島の食べ物に、黒人奴隷やヨーロッパの食べ物が混ざり合い、混血に混血を重ねて実にさまざまな料理が生まれていった。ポップコーンやバーベキュー、フライドチキン、チリコンカルネ、ケイジャン料理、ハンバーガーやホットドックは、異なる食文化が融合して生まれた新しい創作料理だった。
     その裏では、新大陸の乏しい食料事情に直面した人々の葛藤があったという。

    「その意味では、独立するか否かという政治的問題は、アメリカ人は何を食べるべきかという文化的な次元とも連動していた。独立革命は、実はアメリカの人々の食習慣のあり方を大きく揺さぶる出来事でもあったのだ。」(P.50)

     食の多様化の波で生まれたファーストフードがやがて、多様な食文化を一掃し標準化への道を歩み始めたのは皮肉だが、大戦後にヒッピー文化や食の安全性への高まりを受けて、大きな反動のうねりが今アメリカで再び起こっているという。

     著者の筆はこういったアメリカの食の文化史を丁寧にたどるだけでなく、アメリカ第一主義と多文化主義が対立する現代を、社会が背負うべきトータルコストという観点から、食で変革していくという画期的なシナリオにまで発展していく。これが一見、大言壮語に見えてなかなか説得力がある。

    「食という領域は、実は現代アメリカが直面する諸問題の核心部分にメスを入れる糸口としての豊かな可能性を持っているのだ。」(P.231)

     食事はプライベートなことでありながら多くの社会システムと接点を持っており、その食の記憶を掘り起こすことは、アメリカの原点を振り返ることにも通じると著者は説く。

     アメリカが抱える課題は、いずれ日本をはじめ他の先進国にも遅かれ早かれのしかかってくると考えられる。日本はアメリカほど劇的な混血料理はないが、各地の伝統料理が今も残っているし、なにより東京ほど世界中の料理が集結して楽しめる都市はない。
     流通システムである「産地直送」「地産地消」「道の駅」「朝市」、社会システムである「こども食堂」「フードバンク」、消費者の「安全性重視」「プチ贅沢」など、いま日本で起きている食の現象を俯瞰して見ると「食による変革」というシナリオには、国民ひとりひとりが考えることができて、なおかつ社会を大きく動かす力を秘めていることに気付かされる。

  • h10-図書館2019.7.25 期限8/9 読了8/2 返却8/3

  • ■一橋大学所在情報(HERMES-catalogへのリンク)
    【書籍】
    https://opac.lib.hit-u.ac.jp/opac/opac_link/bibid/1001143699

  • 「実験場」「ファーストフード帝国」と好事家の食指が動くようなグロテスクな表題に比べて
    中身はアメリカ全史を流動する食の変遷を取り上げるもの。
    建国初期の食から見られるアメリカの源流が、時代的要請にしたがって興隆したファーストフード産業との対峙の中で如何にしてアメリカ精神を纏い立ち上がり続けてきたか。

  • アメリカの近代史を知るとっかりとして、
    食文化を軸にする発想おもしろいですね。
    紹介される料理、
    どれも食べてみたくなりました。

  • ファストフードや食品産業への目線、ヒッピー礼賛的なところなどは皮相的に思えるが、それでもアメリカの食文化の歴史の手頃なまとめ。特に前半が面白かった。

    ファストフードを格差社会とシンクロするものとする一方で、有機農業・地産地消みたいなのや多様なエスニックフードなどをその対抗軸と位置づけようとしているが、そういうのこそ、ある程度は裕福な人しか関心を持たない /持てないことなんだよね。

  • マクドナルドが日本に上陸してからちょうど50年を迎える2021年(銀座三越に1971年7月20日開店)。本書は、こうしたハンバーガーに代表されるファーストフードの起源について、移民大国アメリカの異種混交的な社会を捉えつつ辿ったものです。食べ物という日常的な対象が、私たちの問題意識や生き方を転換させるヒントになりうることに気付かされます。【中央館2F:文庫・新書コーナー 081//C64//2540】【OPAC: https://opac.lib.niigata-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB28070932

  •  今食べてる/食べたいもの、に対する知識、つまり食文化は、反知性主義に対する突破口。という見立てはご慧眼。反知性側の人の方が一家言あることが多く、さらに知識欲もあり、それは常にマイノリティにつながってることがわかる。

     ただ、アメリカのそれを、日本に横展するのは結構難しいと思った。欧米化という服従史観にならざるを得ない。

     本書は、ヨーロッパからの移民が、持ち込んだ作物以上に、インディアンや、黒人の食物に頼っていたことを明かしている。
    意外とWASP由来のものは少なく、たとえばハンバーガーでさえもドイツ由来だ。

  • 食を通じてアメリカの歴史を理解出来る。インディアンや黒人奴隷が持ち込み白人が生活に取り込んだ料理や、ヒッピーが始めた有機食品やエスニック料理との融合など面白かった。この著書の他のアメリカ関連書籍は面白そうだった。

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著者プロフィール

慶應義塾大学法学部教授。1964年生まれ。慶應義塾大学大学院文学研究科英米文学専攻博士課程修了。
専門:アメリカ文化研究、現代アメリカ研究、アメリカ文学。

主要著書:
【単著】
『性と暴力のアメリカ―理念先行国家の矛盾と苦悶』(中公新書、2006)、『現代アメリカを観る―映画が描く超大国の鼓動』(丸善ライブラリー、1998)
【共著】
『記憶を紡ぐアメリカ―分裂の危機を超えて』(慶應義塾大学出版会、2005)、『新・アメリカ研究入門(増補改訂版)』(成美堂、2001)、『物語のゆらめき―アメリカン・ナラティヴの意識史』(南雲堂、1998)、ほか。

「2016年 『実験国家 アメリカの履歴書 第2版 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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