万葉集講義-最古の歌集の素顔 (中公新書 2608)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (243ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121026088

作品紹介・あらすじ

奈良時代末期に成立した『万葉集』には律令国家・日本の理想を表す側面があった。数々の秀歌を紹介・解説し、その実像を明かす。

感想・レビュー・書評

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  • 上野誠氏の万葉集の話は非常に明晰で分かりやすい。最新の万葉集研究の成果を噛んで含めるように教えてくれる。章の最初に前章のまとめが書かれていて、なんと親切なことか。しっかりおさらいをして次の章に進める。要点は
    ①東アジアの漢字文化圏の文学としての性格を有する。
    ②宮廷文学としての性格を有する。
    ③律令官人文学としての性格を有する。
    ④京と地方をつなぐ文学としての性格を有する。
    であるということだ。万葉集は、純国産ではない。中国の「文選」の影響が強い。全国民の文学というわけでもない。京都の地方への関心から、地方豪族たちがお国ぶりをまとった和歌を作ったりしたのを取り入れ、防人たちや東歌の和歌を採集した。大伴旅人が大宰府サロンを形成したり、大伴家持が難波津に集まった防人たちと和歌のやり取りをして、家持の目にかなった和歌を採用したりしたわけだ。防人は農民たちというわけでなく、地方豪族の子弟たちだったろう。
    「古今和歌集」は最初「続万葉集」として構想されたが、そのころには万葉仮名を読める者はほとんどいなかったという。じゃあ、貴族たちはどうやって万葉集の歌を知ったのだろうか。また、9世紀の最初に万葉集が公開されたというが、どういう形だったのだろうか。いろいろ疑問は残るよ。そういうことについて書いてありそうな本を市の図書館で探したが、見つかっていない。この本にもちょっと期待したのだが、その辺のことは分からなかった。

  • 万葉集の内容 歌の解釈などがよくわかった

  •  これは万葉集の非常に素晴らしい入門書だ。
     編纂という行為には、多くの人の営為があった。そんな当たり前のことを、万葉集については忘れていたことに気付かされた。

  • 天皇から庶民までの歌を紡いだ日本文化の源流と認知される万葉集を、漢字文化圏の文脈に位置する貴族文化の成果と説く。文選なくして万葉集なしの一文があるが、模倣と見るのではなく、文化を受け入れ、それを下敷きとしたアレンジによって、オリジナリティや進化が生じ、独自の文化の発展に繋がったと論じる。異国語である漢字を習得した官人の地方赴任によって文化が伝播し、今度は防人歌や東国歌といった地方色が生まれるといった還流は、日本文化の形成過程をそのまま見るよう。外国(文明)のプレゼンスが高まる時期こそ、国内文化への憧憬や自負も高揚するという指摘は、万葉集が成立した頃の律令国家や、万葉集が(子規によって)再評価された頃の明治国家の誕生経緯を鑑みると、説得力がある。全般に考証が論理的かつ具体的で、わかり易かった。

  • 俯瞰的だ
    各章のまとめがわかりやすい
    万葉集の淵源は文選にある

  • 『万葉集講義』というタイトルだが、副題に「最古の歌集の素顔」とあるように、個々の万葉歌の解説本ではなく『万葉集』全体の性格を明らかにすることが本書の目的である。著者は『万葉集』の性格として①東アジアの漢字文化圏の文学、②宮廷文学、③律令官人文学、④京と地方をつなぐ文学の4つを挙げている。このうち最も重要なのは①であり、しかも「東アジア漢字文化圏の辺境の文学」であることが決定的に重要である。
    「辺境の文学であるがゆえに、貪欲に漢字文化を学んだともいえるし、辺境であるがゆえに、独自に発展したともいえる」。この二面性は、漢文体と万葉仮名が混淆する『万葉集』の表記法にも表れているし、当時中国で最も権威があった詩文集『文選』を範としつつ大和言葉にこだわった万葉歌そのものにも表れている。これは、先進国たる中国への「同調重圧」に対して、辺境国たる日本が自国回帰することで心のバランスを取ったのだという。
    ここで思い出されるのは、『季刊邪馬台国』138号所収の犬飼隆「日本書紀と『歌』」だ。同論文では、日本書紀の歌謡は中国の史書に挿入される漢詩に相当し、漢文体の日本書紀の中で日本の独自性を強調している部分であるとされる。まさに『万葉集』を『文選』に対置した構図と同じである。著者の言を借りれば、『日本書紀』も『万葉集』も「東アジア漢字文化圏の同調圧力のなかで、もがき苦しんだ先祖の文学」なのである。
    なお、著者の万葉歌の現代語訳は例えば次のような調子である。

    我が主の 御霊賜ひて 春さらば 奈良の都に 召上げたまはね
    (訳)よっ!わが主人とも頼む大伴旅人サマ。その旅人サマのコネにすがりまして、春になりますれば、奈良の都に栄転させて下さいましな……。旅人サマ―。

    こちらにご興味がある方は、『入門 万葉集』(ちくまプリマ―新書)などを参照されたい。

  • 万葉集の成り立ち、構成等を東アジア漢字文化圏の中から位置づけた講義。歌そのものの解釈より広く時代背景や『文選』の影響を考察する。

    万葉集の時代的な背景と全20巻の構成から成り立ちを語る。個々の歌の解説は少ないので筆者の他の書籍に譲りつつ、命名の由来や中国文化の影響など実にわかりやすい。

    万葉集に過大な期待をかけるでもなく、それでも素晴らしさを語る一冊。

  • 万葉集の一連を丁寧に説明の上、最後に「日本は翻訳と加工の大国である」と結論づけておられるところに、「なるほど~」と感じ入った次第です。

  • 「万葉学者、墓をしまい、母を送る」で初めて知り、NHK100分de名著「折口信夫 古代研究」で熱い語りに触れた上野誠。いよいよ彼の専門領域の「万葉集講義」です。新書ですが万葉集の世界を大きく深く捉え、新書ゆえのシンプルさと明解さを持った本でした。彼の長年の研究人生の濃縮缶詰が本書なのではないでしょうか?とにかく熱い。上野先生の特徴は読み人への共感力が異常に高く、それゆえにその時代の空気の再現力が生まれていて、それが人の心と社会の有り様の普遍性に繋がっている、したがって万葉集を文学研究としてだけではなく、現代へ通じる日本人の文化基盤として把握しようとしています。それはやまと心という内向きなナショナリズムではなく東アジア漢字文化圏というグローバルな葛藤であることを喝破しています。繰り返しになりますが、いやいや熱い本でした。彼の勢いのある文体に引きづられてアッという間に読了でした。

  • 國學院大學文学部日本文学科教授。

    ※國學院大學図書館
     https://opac.kokugakuin.ac.jp/webopac/BB01870556
     

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著者プロフィール

奈良大学文学部教授。著書『万葉文化論』(ミネルヴァ書房・2019)、論文「讃酒歌十三首の示す死生観—『荘子』『列子』と分命論—」(『萬葉集研究』第36集・塙書房・2016)など。

「2019年 『万葉をヨム』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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