ヒトラーの脱走兵-裏切りか抵抗か、ドイツ最後のタブー (中公新書 2610)

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  • Amazon.co.jp ・本 (278ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121026101

作品紹介・あらすじ

第二次世界大戦におけるドイツ国防軍の脱走兵は、捕まって死刑判決を受けた者だけでも3万人以上と、他国に比べて際だって多い。その多くは戦闘中の逃亡ではなく、民族殲滅などを目にした、命懸けの抵抗としての脱走であった。戦後になっても、彼らを断罪したナチスの司法官たちが続々と復権する一方で、彼ら脱走兵は長い間、名誉回復されないままだった。ある脱走兵の生涯から人間の尊厳を見つめる。

感想・レビュー・書評

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  • 独裁者ヒトラ-の戦争(未曾有の侵略・絶滅戦争)に徴兵された国防軍兵士が脱走、捕らえられ死刑判決を受けた者が三万人以上いたとされます。銃殺を免れても懲罰収容所で飢えと虐待のなかでの重労働、軍刑務所での拘禁・拷問・戦闘訓練に耐え東部戦線に送られました。辛くも生き延びた元脱走兵らは、戦後も長らく卑怯者、臆病者、裏切者と罵られ、生活保障が受けられず、旧軍事法廷の柵から解放されませんでした。ナチスの蛮行を許せなかった良心的兵役拒否者が、名誉回復を成し遂げるまでの人間の勇気と尊厳を見つめた優れたノンフィクションです。

  • 国のために命をかけて戦った人からすれば脱走者は許せないだろう。
    しかし脱走者も人としての権利は当然あるが長年人として扱われなかった歴史があるというのは知っておくべきだ。

  • ナチスドイツに対して抵抗した、一般市民出身の脱走兵の戦中戦後を取り上げている。
    脱走兵バウマン氏の苦労、苦難の人生については、復権及び保証は当然と思われる。
    しかし、ナチスドイツの体制に批判的な考えを持ちつつも、目の前の戦争において、殺人行為を遂行しなければならなかった国防軍兵士たちからすると、脱走兵は当時のドイツ国民としての義務を果たさなかった裏切り者だという意見も理解できる。
    問題は、脱走や戦時反逆などの消極的抵抗に対して、国防軍司法官がほとんど死刑をもって処罰したことであり、それにも関わらず、戦後、司法官たちがが、ナチスドイツから中立的であった軍司法というイメージを作り上げ、最高裁、政府、大学などで批判されることもなく、栄達したということだと思われた。

    また、2009年のについては、ナチス不当判決破棄法の再改正法が成立した背景には、最新のドイツ戦後史研究からの支援があったことも、日本の状況とは大きく異なると思われた。
    著者も以下のとおり述べている。
    「復権活動を可能にした研究による支援という形式についてである。筆者は、戦後史
    とりわけナチス支配の過去の清算にかかわるドイツの政治が反ナチ運動の研究成果と密接な関係にあり、その研究の成果を受容して文化政策・歴史政策(具体的には歴史教育・政治教育)がつくられてきたと理解している。これを言い換えると、それだけ人文系諸学が今なお現実政治においても重要な存在となっているということだ。それを支えるのは「知」を尊重する歴史的伝統と風土だろう。」

  • 393-T
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  • 第二次世界大戦中の軍法会議で不当判決を言い渡された最後の犠牲者グループが、復権するまで戦後65年の月日が必要だったことは衝撃的だった。

  • 第一次世界大戦の経験から、ナチスにとって「脱走」は非常に重い罪で、国家を拒否するどころか民族共同体絶対と見るナチスの倫理に背く最悪の行為と見なされていた。戦後、また脱走兵の死後も名誉回復などで論争がおき、戦争によって人生を台無しにされる。

  • ナチス支配への抵抗者を顕彰する戦後ドイツだが、「国防軍からの脱走」という形で抵抗した人々はその栄誉にあずかることはできず、21世紀になるまで臆病者、卑怯者として罵られ、貧困に喘ぐ人生を強いられた。その名誉を回復する戦いの記録。
    ナチス政権下で軍司法を担った人々が戦後どのような役割を果たしたのかも注目。

  • 大戦下の軍事裁判処刑数、アメリカ146、イギリス40、ドイツは19,600(陸軍のみ)。ドイツ国防軍事裁判の異常な姿、またそうした裁判を司る軍司法官とはなんであったのか?脱走兵は戦後も差別されたらしい。ナチスに従わなかった罪は名誉回復されるべきではないのか?
    東ドイツでは脱走兵が戦後許されたケースは多い。なかには脱走中に捕吏を殺害した脱走兵もいたが「非常事態の罪は問われない」「ヒトラーの軍隊から逃れたことは我々の理解では間違ったことではない」と許された。対する西ドイツでは司法官らが自らを免責し、「終戦後でも軍の規律は維持される」として、戦争は終わっているのに処刑された事例が複数あった。

  • 3万人以上が処刑されたというナチスドイツの脱走兵。戦後も長くその名誉は回復されないままであった。好意的に語られることの多いドイツの過去の精算、最後のタブーを追った作品。

    第一次世界大戦の経験からヒトラー、ナチスドイツは脱走兵に対して厳しい処罰、死刑で望んできた。軍の司法の幹部は戦後も一定の地位を維持し、名誉回復に反対する。

    共に戦場を離脱し亡くなった盟友のため、名誉回復を果たして96歳で逝去した一人の脱走兵の長い戦後を中心に、戦後ドイツの最後のタブーを追った良著。

  • 脱走兵がいかに戦後、悲惨な立場に置かれ続けたか。そしてそれを脱走兵当事者と、人文社会科学の研究者の協同により克服していったか。そのプロセスにおける歴史研究の役割の大きさに衝撃を受けた。

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著者プロフィール

對馬達雄

1945年青森県生まれ.東北大学大学院教育学研究科博士課程中途退学.教育学博士(東北大学,1984年).秋田大学教育文化学部長,副学長等を歴任.秋田大学名誉教授.専攻・ドイツ近現代教育史,ドイツ現代史.主著『ヒトラーに抵抗した人々』(中公新書,2015),『ディースターヴェーク研究』(創文社,1984年),『ナチズム・抵抗運動・戦後教育――「過去の克服」の原風景』(昭和堂,2006年),『ドイツ 過去の克服と人間形成』(編著書,昭和堂,2011年)訳書『反ナチ・抵抗の教育者――ライヒヴァイン1898-1944』(ウルリヒ・アムルンク著,昭和堂,1996年)など

「2020年 『ヒトラーの脱走兵』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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