- Amazon.co.jp ・本 (317ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122003613
感想・レビュー・書評
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下巻も期待を裏切らず面白かったです。下巻のクライマックスはなんといっても日露戦争の必要資金を日本がどうファイナンスしたかです。この話はNHKの「坂の上の雲」でも少しだけ描写されていましたが、当時日銀副総裁だった高橋是清氏がいかに欧米諸国で資金調達をしたかが本書ではリアルに描かれています。何よりもすごいのはかなり機密事項に属すると思われる日本政府とのやりとりを、惜しげもなく記述していることです。確かに本の出版は昭和初期なので時間は経過しているのですが、当時の首相が何を考えていたか、他の閣僚はどう思っていたか、などをズバズバ記述していて、今よりもある意味おおらかな所を感じました。
本書にも記載されているように、ニューヨークのクーンロエプ商会のシフ氏が、(ロンドンにて)高橋是清と初対面であったにもかかわらず、翌日には起債を引き受けてくれます。この背後にはシフ氏の同胞のユダヤ人がロシアで迫害されていることがあり、日本がロシア政府に大きなダメージを与えれば状況が改善されるのではないか、との思惑があったとされています。金融業者であってもやはり人間、こういった人間くさいことが戦争の帰結を決める重要な要素になったというのが一番印象的でした。
また高橋是清氏の国際交渉力はすごい。外国人に対してここまで英語で主張できかつ相手を説得できるような人材がこの時代にいたことを誇りに思うべきでしょう。こういう人材が今の日本にももっと必要だと思いました。 -
彼の全ての行動は「目的」が明確であり、物事の判断「基準」がブレることはなく、相手が誰であろうと絶対に「空気で譲る」ことはない。
そしてかつ、常に彼の主張には根拠が明確で、相手への配慮が行き届いているので、強く出られた相手も納得せざるを得ず、そして虜になるのである。
現代人のダブルスタンダードまみれの生き方と対比をすれば、それが痛いほど身に染み、反省を促される。
彼の青年時代のヤンチャな姿にも、その心には常に一貫性がある。損得で物事を考えた形跡が全くない。
善よりも筋を大切にし、正しさより必要のために生きた、そんな本当の意味でカッコいい男である。
そして彼の心の中には常に日本があった。
現代の政治家、いや日本国民全員に読んで欲しい。 -
下巻は、日銀副総裁となった是清が、日露戦争の戦費を調達すべく英米仏独の銀行家達の間を奔走し、数次にわたる日本公債発行を実現するまでが記されている。
事微妙な局面においてこれだけ上手く事を運ぶことができたのも、ひとえに、是清が欧米の銀行家達に深く信頼されていたからだろう。
本書には、是清のその後の政治家としての活躍ぶりが記されておらず、この点が残念。 -
2018/07/15
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江戸から明治に生きた、本当に波瀾万丈の人生。昔の人は人使い(上も下も)が上手だね。
日銀の総裁騒動に際には、国際社会からどう見られるかという観点から意見を述べているのが印象的。
(抜き書きメモ)
臨終の間際に侍する心得(生きる執着を指摘し、安らかに成仏できるよう)
大蔵省で整理節約により得た剰余金は後年度において使用できるようにした。
余剰人員を集めて農商務省に新たな課を設置したが、上に立つ者次第で非常に能率を上げた。 -
再読。
ペルーで大失敗後、なんとか持ち直して正金→日銀へ。その後日清戦争、日露戦争などを経るあいだ、しばらくは経済、金融界の話メインになるので少々興味は薄れるのだけれど近代日本の創成期における「仕事ができる男の敢然たる仕事ぶり」を読む痛快さはあるので、これはこれで面白くなくはない。
日清日露あたりを描いた小説はそれなりにあるけれど主題になるのは当然、語弊はあるが華やかな戦場のほうで、指揮をとった軍人は英雄視され語り継がれるけれど、その裏で是清のように軍資金調達のために駆けずり回っていた縁の下の力持ち的な存在の人たちがいたことを知る意味はあったと思う。諸外国との駆け引きなど、政治の裏側ってこういう感じなんだろうなあ。
幕末の人物ではもう伊藤、井上、山縣あたりの名前がときどき出てくる程度。
明治38年日露戦争講和のあたりで自伝は終わっているので、その後日銀総裁を経て再び閣僚となり、内閣総理大臣や大蔵大臣など要職を歴任、ついに二・二六の凶弾に斃れるまでの30年は空白のままなのが残念。 -
日露戦争の戦費を獲得するための、公債募集の辺りは本書ではクライマックスに中りますが、実に細かく著されており高橋翁の活躍のほどを知ることができます。自伝ですが、52歳までの記録になり、大蔵大臣などで活躍した部分については当然触れられていません。
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読売新聞『本・よみうり堂』
「夏休みの一冊、私のイチオシ文庫」
田所昌幸(国際政治学者) -
正金銀行頭取から日銀副総裁での日露戦争での国債発行まで。
このあと大蔵大臣、そして226での暗殺につながるのだが、その偉業の根幹となる人生観が上下巻にある。