高橋是清自伝 下 (中公文庫 M 26-2)

著者 :
制作 : 上塚 司 
  • 中央公論新社
3.68
  • (10)
  • (9)
  • (19)
  • (2)
  • (0)
本棚登録 : 203
感想 : 17
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (317ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122003613

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • ・(日本銀行の馬関支店長になって)私が東京をたつ前に川田総裁が特に注意せられたのはこの百十銀行のことであった。即ちこの銀行は山口県士族がその禄を奉還して受けたところの、いわゆる金禄公債を払込資本として建てられたもので、いわば士族の銀行である。君はかねて井上さんと懇意であるから、自然百十銀行救済について話があるかも知れぬがよくその内部を取調べて誤りなきように注意し、決して軽挙してはならぬ。
    また地方の有力者としては九州鉄道の社長高橋新吉あり、銀行家としては長崎に松田源五郎、熊本に沢村大八、堀部直臣、宇土に上羽勝衛、福岡に小河久四朗、佐賀に中野致明らがおっていずれもその地方の勢力家である。かつ銀行家としては皆君の先輩たる人々ゆえ今君が駆け出しの銀行家として日本銀行を代表するについては、これらの人々に対し言行を最も慎まねばならぬ。初めが大事である。軽視されることのないように心がけねばならぬ。また業務上のことは常に本店及び大阪支店との間に打ち合わせて、事情を疎通する事を怠らぬようにと懇篤なる注意を与えられた。
    →本当に、過不足無い引き継ぎだなぁ。

  • 下巻も期待を裏切らず面白かったです。下巻のクライマックスはなんといっても日露戦争の必要資金を日本がどうファイナンスしたかです。この話はNHKの「坂の上の雲」でも少しだけ描写されていましたが、当時日銀副総裁だった高橋是清氏がいかに欧米諸国で資金調達をしたかが本書ではリアルに描かれています。何よりもすごいのはかなり機密事項に属すると思われる日本政府とのやりとりを、惜しげもなく記述していることです。確かに本の出版は昭和初期なので時間は経過しているのですが、当時の首相が何を考えていたか、他の閣僚はどう思っていたか、などをズバズバ記述していて、今よりもある意味おおらかな所を感じました。

     本書にも記載されているように、ニューヨークのクーンロエプ商会のシフ氏が、(ロンドンにて)高橋是清と初対面であったにもかかわらず、翌日には起債を引き受けてくれます。この背後にはシフ氏の同胞のユダヤ人がロシアで迫害されていることがあり、日本がロシア政府に大きなダメージを与えれば状況が改善されるのではないか、との思惑があったとされています。金融業者であってもやはり人間、こういった人間くさいことが戦争の帰結を決める重要な要素になったというのが一番印象的でした。

     また高橋是清氏の国際交渉力はすごい。外国人に対してここまで英語で主張できかつ相手を説得できるような人材がこの時代にいたことを誇りに思うべきでしょう。こういう人材が今の日本にももっと必要だと思いました。

  • 彼の全ての行動は「目的」が明確であり、物事の判断「基準」がブレることはなく、相手が誰であろうと絶対に「空気で譲る」ことはない。
    そしてかつ、常に彼の主張には根拠が明確で、相手への配慮が行き届いているので、強く出られた相手も納得せざるを得ず、そして虜になるのである。
    現代人のダブルスタンダードまみれの生き方と対比をすれば、それが痛いほど身に染み、反省を促される。

    彼の青年時代のヤンチャな姿にも、その心には常に一貫性がある。損得で物事を考えた形跡が全くない。

    善よりも筋を大切にし、正しさより必要のために生きた、そんな本当の意味でカッコいい男である。

    そして彼の心の中には常に日本があった。
    現代の政治家、いや日本国民全員に読んで欲しい。

  • 下巻は、日銀副総裁となった是清が、日露戦争の戦費を調達すべく英米仏独の銀行家達の間を奔走し、数次にわたる日本公債発行を実現するまでが記されている。

    事微妙な局面においてこれだけ上手く事を運ぶことができたのも、ひとえに、是清が欧米の銀行家達に深く信頼されていたからだろう。

    本書には、是清のその後の政治家としての活躍ぶりが記されておらず、この点が残念。

  • 2018/07/15

  • 江戸から明治に生きた、本当に波瀾万丈の人生。昔の人は人使い(上も下も)が上手だね。
    日銀の総裁騒動に際には、国際社会からどう見られるかという観点から意見を述べているのが印象的。

    (抜き書きメモ)
    臨終の間際に侍する心得(生きる執着を指摘し、安らかに成仏できるよう)
    大蔵省で整理節約により得た剰余金は後年度において使用できるようにした。
    余剰人員を集めて農商務省に新たな課を設置したが、上に立つ者次第で非常に能率を上げた。

  • 再読。
    ペルーで大失敗後、なんとか持ち直して正金→日銀へ。その後日清戦争、日露戦争などを経るあいだ、しばらくは経済、金融界の話メインになるので少々興味は薄れるのだけれど近代日本の創成期における「仕事ができる男の敢然たる仕事ぶり」を読む痛快さはあるので、これはこれで面白くなくはない。

    日清日露あたりを描いた小説はそれなりにあるけれど主題になるのは当然、語弊はあるが華やかな戦場のほうで、指揮をとった軍人は英雄視され語り継がれるけれど、その裏で是清のように軍資金調達のために駆けずり回っていた縁の下の力持ち的な存在の人たちがいたことを知る意味はあったと思う。諸外国との駆け引きなど、政治の裏側ってこういう感じなんだろうなあ。

    幕末の人物ではもう伊藤、井上、山縣あたりの名前がときどき出てくる程度。

    明治38年日露戦争講和のあたりで自伝は終わっているので、その後日銀総裁を経て再び閣僚となり、内閣総理大臣や大蔵大臣など要職を歴任、ついに二・二六の凶弾に斃れるまでの30年は空白のままなのが残念。

  • 日露戦争の戦費を獲得するための、公債募集の辺りは本書ではクライマックスに中りますが、実に細かく著されており高橋翁の活躍のほどを知ることができます。自伝ですが、52歳までの記録になり、大蔵大臣などで活躍した部分については当然触れられていません。

  • 読売新聞『本・よみうり堂』
    「夏休みの一冊、私のイチオシ文庫」
    田所昌幸(国際政治学者)

  • 正金銀行頭取から日銀副総裁での日露戦争での国債発行まで。

    このあと大蔵大臣、そして226での暗殺につながるのだが、その偉業の根幹となる人生観が上下巻にある。

全17件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

嘉永七(一八五四)年、幕府御用絵師の子として江戸に生まれ、仙台藩足軽高橋家の養子となる。藩の留学生として渡米して苦学。文部省、農商務省を経て、日本銀行に入り、横浜正金銀行を経て、日銀副総裁に就任。日露戦争外債募集に成功した。日銀総裁に昇任後、山本権兵衛内閣の蔵相となり立憲政友会に入党した。大正一〇(一九二一)年、首相・政友会総裁に就任。都合七度蔵相を務める。金融恐慌ではモラトリアムを実施、恐慌を沈静させた。また世界大恐慌では、金輸出再禁止、国債の大量発行など積極財政による景気刺激策を推進した。昭和一一(一九三六)年の二・二六事件で暗殺された。

「2018年 『随想録』 で使われていた紹介文から引用しています。」

高橋是清の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×