雲と風と: 伝教大師最澄の生涯 (中公文庫 な 12-7)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (410ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122017153

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  • 「愚直」まじめでいい子な最澄。「有能」できる天皇の桓武。対照的な二人の運命の出会いを描いたリレー小説(半嘘)

     最澄と言われたら、同時に空海も連想するものである。その空海に比べたら、あまりにいい子すぎる。マキャベリズム的に考えたら、最澄はリーダーに向いていない人間だろう。結果、桓武天皇というバックを失ってからの苦悩を見れば、そのようになっている。
     逆に空海はあらゆるタレントを持ち合わせていて、機転を利かせて悪いこともできる人間だったんだろう。

     最澄は純潔な人間だったけど、最期には天台宗を確立させた(死を以て、まさに命がけで)。そうして後世で大繁栄を見せるが、天台宗には次を担う偉人がどうしてたくさん生まれたのだろう。やっぱり権力と結びついたから名が売れたのかな。それにしても、比叡山の地は都の東北で、やはりただならぬ場所なんだろうなぁ…と感慨深い。

     桓武天皇の記述が多いのはうれしい。日本史で習った「薬子の変」らへんはずっとイメージの湧かないままスルーしていたけど、これを読んで掴むことができた。安殿親王(平城天皇)のわがままっぷりも公家らしくて掴みやすい。

     全体的に小説というよりは、砕けた歴史解釈本のような感じであった。軽い気持ちでは読めないが、途中挫折はせず読める本である。そういえば司馬遼太郎の『空海の風景』もこんな感じだったな。

     桓武天皇の怨霊信仰を読んでいて、諡号の「武」についてなんか曰くがあったのを思い出した。東征や遷都と精力的に政治活動をした桓武に「武」という文字がつけられることはイメージ通りである。けれど、同じように「武」のつく、天武・文武・聖武とか皆、実権争いで恨みを買うようなことをしている人間なんだよね。壬申の乱、不比等の暗躍、長屋王の変…と権力の黒い影と戦った天皇たちを思い出さずにいられない。

著者プロフィール

(ながい・みちこ)1925~。東京生まれ。東京女子大学国語専攻部卒業。小学館勤務を経て文筆業に入る。1964年、『炎環』で第52回直木賞受賞。1982年、『氷輪』で第21回女流文学賞受賞。1984年、第32回菊池寛賞受賞。1988年、『雲と風と』で第22回吉川英治文学賞受賞。1996年、「永井路子歴史小説全集」が完結。作品は、NHK大河ドラマ「草燃える」、「毛利元就」に原作として使用されている。著書に、『北条政子』、『王者の妻』、『朱なる十字架』、『乱紋』、『流星』、『歴史をさわがせた女たち』、『噂の皇子』、『裸足の皇女』、『異議あり日本史』、『山霧』、『王朝序曲』などがある。

「2021年 『小説集 北条義時』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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