シュガ-タイム (中公文庫 お 51-1)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (215ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122020863

作品紹介・あらすじ

三週間ほど前から、わたしは奇妙な日記をつけ始めた-。春の訪れとともにはじまり、秋の淡い陽射しのなかで終わった、わたしたちのシュガータイム。青春最後の日々を流れる透明な時間を描く、芥川賞作家の初めての長篇小説。

感想・レビュー・書評

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  • S図書館 1991年
    マリクレールの連載、長編

    大学生のかおる
    食欲の異常で日記をつけ始めた

    《感想》
    自分の過食症、新しい母の連れ子で、身長が伸びない病気の弟の航平、恋人吉田との関係性の話だ
    弟を溺愛している
    悩みを相談できる友達もいる
    小川氏は野球好きだから、野球観戦のシーンも出てくる

    多分アイスが原因で、食欲の機能のネジが外れたように過食に陥った
    そのアイスの表現が考えつかない位、気持ち悪い
    他の食べ物の表現も豊かである

    以前の作品『完璧な病室』では、弟の担当医S先生に「包まれた」
    今回は恋人に別れを手紙で告げられ、心が空っぽになる
    弟に触れる
    「お互いが含まれあっているかのように、彼の無垢なぬくもりを心の奥で感じたいだけだった。航平はいつまでも私に包まれた。掌をじっと動かさなかった。」

    ここでも「包まれる」言葉
    小川氏は包まれたい人だと思った
    類語を調べると面白い
    「包まれる」の類語は「隠蔽」「覆われる」など隠したい意味も含んでいた
    言葉のさらに奥の方に触れた感じで面白かった

    ・アイスクリーム
    18ユダヤ人の死体の脂で作った石鹸を思い起こさせた
    ※食べられなくなる程の表現だ

  • 小川洋子さんの小説を続けて何冊か読んでいる。いつも少しだけ変わった習慣を持っている人とか見た目に特徴がある人が描かれて、読み始めからぐっと物語に惹き込まれていく。
    心の状態を色や形やにおいで読み取る感じも好きで、この作品も美しい表現がたくさんあった。
    ストーリーとしてはずっとさびしく不安な感じがした。
    食べても常に空腹という主人公かおるの話を聞いて、友人の真由子が
    「今日はとことん、かおるに付き合ってあげる。かおると同じものをおなじ量だけ一緒に食べてあげる。そうしたら何か、正体がつかめるかもしれない」
    と言って、買い物から家に泊まりがけで付き合ってとにかく食べる場面がよかった。
    わけがわからなくて不安なときこういう人がいてほしいなと思う。
    後の章でも真由子の存在が良かった。
    弟が描かれている場面も美しいが作品にとってどんな意味を与えているかはあまり自分にはわからなかった。
    吉田やバイト先のオールドミスも重要なようで読み終わってみると何だったんだろうというような…

    著者によるあとがきの中に
    「この小説はもしかしたら、満足に熟さないで落ちてしまった、固すぎる木の実のようなものかもしれない。」
    とあった。
    そんな後味がした。

  • 脆く今にもこぼれてしまいそうな美しさと醜さを、ヴェールに包んで差し出してくるような儚さを感じる物語だった。食に魅了されていく主人公の様子や、弟のまつげの描写がとても綺麗であった。病という言葉の中には収まりきらない彼女たちの姿を、これから先もふと思い出す事があるだろうと思う。

  • 春に近づくこの季節にこの本を読めてなんだか良かったなあ、と思った。

    主人公のかおるやその弟、恋人の吉田さん、それぞれが人とは違うこと(異常な食欲や病気等)を持っているけど特段それに悩まされることもなく淡々と日々を過ごしていく。
    大きな感情の波も無くごく当たり前にも思えるような、そんな優しい情景ばかりが描かれているけど紛れもなく彼女たちが過ごした時間は甘くほろ苦い青春だったんだろうなと思う。

    私は中学から高校へと進み、皆が若さを言い訳に出来る甘酸っぱい時間が終わりに近づくことを悟り始めた途端に口を揃えてやれ青春だ一致団結だと言い始めることに同調圧力じみた気持ち悪さを感じていて、青春という言葉を口に出すことを気恥しいことのように感じていた。
    けどこの本を読んだあと、紛れもなく私は今過ぎ行く青春という時間の中にいるんだろうなあと素直に呟ける気がする。
    かおる達が一度目に野球場に行った時、二度目に野球場に行った時で抱く感情が違うように日常を過ごす中で今にしか感じられないものは沢山ある。
    だから別に学校に行けなくったって、夏休みを太陽の下で謳歌出来なくったって、今の過ぎ行く時間を愛おしく思えているということ、それだけで胸を張って青春を過ごしていると、現在進行形でそれなりに私も甘酸っぱい時間を過ごしていると思えた。

    小川洋子さんの書く文章はどれも儚げで優しくてどれも噛み締めたくなるようなものばかり。

  • やや狂気に近い食欲が、静かに淡々と書かれている。
    真夜中の空腹に寄り添ってくれるような作品

  • 初めて読んだ小川洋子作品。

    食欲の描写、とくに
    アイスロイヤルのくだりがすごくリアル。
    弟のことも、まつげや細々した描写が繊細。

    世界、空気感が伝わってきて
    自分が学生の頃を肌感覚で思い出した。

    真由子の真っ直ぐなところが好き。
    吉田さんは、今の大人の私からみると
    あまり好きになれないかも。

  • とにかく、美しい。
    そう感じる作品でした。

    異常な食欲の主人公。奇病の弟。
    主人公と恋人の不思議な距離感。
    決して、普通の話ではないけど
    主人公から見える食べ物の描写、弟の佇まい、
    恋人とのプラトニックな関係性。
    それぞれ凄く美しい文章で書かれて魅了されていく。

    そんな中でも「含まれあっている存在」というのがとても心に残りました。

    大学生のモラトリアムを「シュガータイム」と表したのも素敵だな。と感じた。

  • 登場人物一人ひとりが魅力的でさらっと読めちゃう。

  • 情景描写や動作がとても色鮮やかに表現されていて、綺麗な文章でした。対照的に時折生々しい表現が対比のように感じられました。
    過食は結局なんでだったんでしょう?

  • 芥川賞作家の小川洋子の作品。止まらない食欲の主人公、研究者の恋人、難病を抱える血のつながらない弟、過保護の母親、友人、など魅力的な登場人物。先が気になり、読み進むが、食欲の理由、弟の病気、恋人が一緒にロシアに行った相手、などはっきりしたオチがなく、読み手に考えさせる部分も多く、その部分が消化不良であった。

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著者プロフィール

1962年、岡山市生まれ。88年、「揚羽蝶が壊れる時」により海燕新人文学賞、91年、「妊娠カレンダー」により芥川賞を受賞。『博士の愛した数式』で読売文学賞及び本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。その他の小説作品に『猫を抱いて象と泳ぐ』『琥珀のまたたき』『約束された移動』などがある。

「2023年 『川端康成の話をしようじゃないか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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