新憲法の誕生 (中公文庫 こ 31-1)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (450ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122022898

作品紹介・あらすじ

日本国憲法を生み出した力はどこにあったのか。GHQと日本政府の枠を超えて、国内諸勢力、米国、アジア太平洋諸国の動向を視野に入れ、憲法制定過程の全体像を明らかにし、戦後民主主義を出発点から捉え直す。

感想・レビュー・書評

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  • 1995年(底本1989年)刊。著者は獨協大学法学部教授。本書は吉野作造賞受賞。著書読破は2冊目。


     日本国憲法の成立過程を多様な文献、特に米国史料(議事録など)を積極的に渉猟しつつ、解明していく。

    ① 軍事的圧力なき憲法改正審議議会(押し付け派が軽んじる)の存在、4か月という短くない審議期間と修正の存在。
    ② 制憲専用議会を設置する案もあったが、政府の意向で不採用。
    ③ 松本私案の前提は明治憲法の調査のみ。他国、特に英米の調査ないままGHQに私案提示したという誤謬がある。
    ④ 自由民権運動期の議論が当該憲法に反映されたという視座。
    ⑤ 吉田茂。彼は自伝で脅迫的な押し付け憲法を否定。
    ⑥ GHQとの憲法草案の逐条検討に当たり、日本側の責任者松本は途中で投げ出し。事実上の職務放棄に近い。
     最も重要な折衝で日本側の主張を展開できなかった。
    ⑦ ⑥との関係で、外国との比較憲法的な視座を持たず、憲法理念という意味で米国の精鋭と渡り合うだけの力量と検討が不十分だった。
     特に、天皇主権を維持するだけの理論武装の不足、旧憲法の人権規定の問題点や不備への理解不足が顕著。結局、世界的視野を持った比較法学者が全くおらず、研究の土壌も貧困であったということになろう。
    ⑧ 9条の芦田修正は、芦田修正ではなかった可能性が米国史料から伺える。
     なお、正当防衛的な自衛権。もちろん、米国の一部にはこの否定は難しいとの論者も居たようだ。
    ⑨ 「日本国憲法成立押しつけ論如何」を論じる書では余り解説されない刑法改正に言及する。
     これを「押しつけ」と評しうるか。また、本書で検討されないが、全面改正された刑訴法や民法の家族法部分はどうか。

     WWⅡ終了時、君主国は勿論。就中、非立憲君主国は僅少であった。
     その世界潮流の中、君主主権の正当性を唄う理論武装は相当の困難が予想され、なにもなければ単純に説得力なしとされかねない。
     そういう意味で、本書の検討で露呈されたのは、松本私案の安直さと、戦前期における憲法的理念に関する議論の非成熟性である。
     なお、美濃部の意識も同様の安直さに彩られていることは意識しておくべきことであろう。

  • 日本国憲法誕生の舞台裏を描いたドキュメント。ちなみに筆者は憲法史がご専門の「法学者」である。日本国憲法は誰のどのような思惑で誕生したのか。日本国憲法は本当にGHQからの押し付けだったのか。戦後直後の国民は、本当に日本国憲法に無関心だったのか。憲法制定に纏わる数々の「ナゾ」が明らかになる。過去の資料を丹念に分析し、「頑強的護憲」でも「復古的改憲」でもない、筆者曰く「新たな視座」を求めて描かれた力作である。

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著者プロフィール

1943年東京生まれ、早稲田大学大学院法学研究科修士課程修了。獨協大学名誉教授。和光学園理事長。専攻 憲政史。著書『新憲法の誕生』(中央公論社 1989、吉野作造賞受賞、中公文庫 1995、英語版The Birth of Japan’s Postwar Constitution, Westview Press, 1997)、『「平和国家」日本の再検討』(岩波書店 2002、岩波現代文庫 2013)、『憲法9条はなぜ制定されたか』(岩波ブックレット 2006)、『日本国憲法の誕生』(岩波現代文庫 2009、韓国語版 2010)、『安全保障とは何か――国家から人間へ』(岩波書店 2013)、『平和憲法の深層』(ちくま新書 2015)、『日本国憲法の誕生 増補改訂版』(岩波現代文庫 2017)、編著書『GHQ民政局資料「占領改革」 第1巻 憲法・司法改革』丸善 2001)、豊下楢彦氏との共著に『集団的自衛権と安全保障』(岩波新書 2014)、『沖縄 憲法なき戦後』(みすず書房 2018)などがある。

「2020年 『対米従属の構造』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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