- Amazon.co.jp ・本 (213ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122024137
感想・レビュー・書評
-
陰影の美を、流れるような美しい日本語で讃えた谷崎の批評?エッセイ?
ラグジュアリーな雰囲気。
美は明暗にあり、西洋文化に迎合せず日本になじむように文明が発展していたら今とは違う生活様式になってただろうという考察は、確かに面白いと思った。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
光による陰翳、その陰翳の世界での美が、隅々まで光届く現代社会でどう見えるか、見えないからこその色気、存在を感じるけれど見えない…という空間的・嗅覚的な陰翳まで、谷崎の美意識が綴られている。
『恋愛および色情』が一番長いのが、また著者の思いの丈の長さな気がして面白い。時代を感じる意見だけれど。
読んでて、どういう光景を思い浮かべてるのか、その光景が陰翳含め鮮やかに目に浮かぶ。
夜の闇、屋内の光が時代とともに変わり、その中で変わらなかったものは、その美しさの見え方感じ方が変わり、ただ美しいものではなく、懐古的なものとして今もある、そう思い浮かぶものがいくつもある。
色気と同じ。見えきらないからこその想像を含めて『美』なんだと思った。 -
陰翳をめぐる東洋と西洋の文化の違いをえぐった本。「陰翳礼賛」以外も似た切り口なので、ものごとを捉える時の洋の東西の枠組みの参照としても有益だろう。
陰翳礼賛で谷崎が説く内容にはおおむね賛同する。見えないものに価値、美しさ、時に畏れを見出す姿勢は確かに我々の内部にはある。
だが、彼も触れているように私の体験としてもヨーロッパの街の夜やホテルの照明は日本やアメリカよりも薄暗く、暗すぎて仕事ができないこともあった。青い目の白人は高緯度に住み、太陽の照度が日本よりも弱く、瞳の色が薄いので強烈な明かりは受け入れられないといわれる。そうなると谷崎の主張と入れ替わるように思うのだが、真相を誰か教えてくれないだろうか。
それはさておき、印象的だった箇所をひとつ。
P65
私は、我々が既に失いつつある陰影の世界を、せめて文学の領域へでも呼び返してみたい。文学と言う殿堂の檐を深くし、壁を暗くし、見えすぎるものを闇に押し込め、無用の室内装飾を剥ぎ取ってみたい。それも軒並みとは言わない、一軒ぐらいそういう家があってもよかろう。まぁどういう工合になるか、試しに電燈を消してみることだ。
なお、「客ぎらい」「旅のいろいろ」「厠のいろいろ」も面白く読めた。谷崎の便所のこだわりに納得しつつ、彼が困惑したエピソードなどにはクスッと笑ってしまう箇所もあった。便も陰影の中で見えないことが美しいようだ。
こちらも一箇所だけ抜粋。
P199
それに、そう云うとおかしいが、便所の匂には神経を鎮静させる効果があるのではないかと思う。便所が瞑想に適する場所であることは、人のよく知る通りであるが、近頃の水洗式の便所では、どうもそれが思うようにいかない。と云うのは、他にもいろいろ原因があるに違いないが、水洗式だと、清潔一方になってしまって、草風氏のいわゆる上品な匂、都雅の匂いのしないことが、大いに関係しているのであろう。 -
2023年度【芸術学部 デザイン工芸専攻】入学前知トラ「課題図書」
OPAC(附属図書館蔵書検索)リンク
https://opac.lib.hiroshima-cu.ac.jp/opac/volume/281756?locale=ja&target=l -
風土に根差した生活や建築の工夫、美の本質を語る。
-
面白かった。
西洋文化と日本文化の対比がメインだが、今まで見たことがないような着眼点が多いし、私が知らなかった日本文化(昔は青色の口紅を塗ってたとか!)についても知ることができた。
短絡的にただ西洋批判をするわけでもなく、日本人がどのように闇と共存してきたか、そこに至る訳は何なのか、フラットな目線で考察されていた。
読んでいく中で私たちがいかに西洋的な価値観を当たり前としといるかということに気付かされた。
また、作中に西洋人はぴかぴかの清潔を好み東洋人は古びてくすんだものを好むという話があったけれど、それはどうだろう?今日の様子を見ると日本人はかなり新しい物好きではないか??とは思った。ヨーロッパの人とかの方が、建物でも家具でも古いものを永く好んで使うイメージ。まぁ昔の日本人の話をしているので、そこは近代以降日本人の価値観が変わったということなんだろう。
日本のご飯は暗闇の中でこそ美味しそうに見えると云うのにはすごく納得できた。炊飯器の宣伝用写真は、暗闇で白いご飯が黒い茶碗に盛られて湯気をもくもく立たせてるもんな、、、。そして和食屋さんというのは総じて暗い。
あとは日本式家屋についてもかなり語られてたけど、中でも障子の話と屏風の話が興味深かった。柔らかく微細に光を取り入れるという特徴がすごーく魅力的に語られてて、私も将来的に障子のある家に住みたくなった。憧れはジャパンディのインテリアですね。あとは、安土桃山とかの屏風ってほんとに金ピカピカで悪趣味すれすれだけど、暗闇の中で一部分だけ光を反射してる時こそ美しいっていう説明はなるほどなと思った。
あととにかく文体が好き。なんというか、落ち着いていて心にスッと入ってくるような文体。あと漢字が多くてカッコイイ。
とにかく我等が西洋人に比べてどれくらい損をしているかと云うことは、考えても差支えあるまい。つまり一と口とに云うと、西洋の方は順当な方向を辿って今日に到達したのであり、我等の方は、優秀な文明に逢着してそれを取り入れざるを得なかった代りに、過去数千年来発展し来った進路とは違った方向へ踏み出すようになった、そこからいろいろな故障や不便が起っていると思われる。 -
谷崎作品にこんな作品があったんだー、と読みながら驚きました!
・日本は光と影の使い分けをしている
・東洋の神秘とは、暗がりが持つ不気味な静けさ
・美は明暗にある
つまり、この本はタイトル通りに陰翳を礼讃している内容でしたが、本作品を読んで初めて、日本的な美の奥深さに気付かされた気がします。
読んでいて、確かにそうだよなー!と感嘆するばかりでした。
昔は良かった、若者は老人に冷たい、というような愚痴っぽい内容も含まれていますが、そういう風に感じるのはいつの時代も同じなんだなと思いました。
本作品を読んで、日本的な美に触れたくなりました。
また、谷崎作品に出てくる女性の独特な妖艶さは、日本古来の女性の美が根底にあるのだということを感じました。 -
要は、近代化が進む日本において、昔の方が良かったみたいな話で、昨今だと、「老害」みたいに揶揄されかねない。が、その老害っぷりの緻密な文章が彼の表現力の高さを表している。
西洋のライトが日本家屋にもどんどん導入され出して、夜ですら部屋の暗がりは無くなった時代を谷崎は生きていた。そこから更に近代化/西洋化が進んだ現代において、我々は確かに夜でも日中と同じように仕事したり、家事したりできている。我々はその利便性を謳歌している。
だが、同時に失ったものがありそうだ。
覚束ない蝋燭の灯りのもとでの漆器の蒔絵の美しさや、障子からうっすら溢れる日光の美しさなど、柔らかく優しい翳りを持った美。それは全てを明らかにする潔い西洋的な美しさとは異なる。現代に生きる我々もそういう翳りのある美しさを大事にすべきではないかと思う。「老害」という言葉を使って、何でもかんでも古いものを切り捨てるのではなく、ちゃんと良いものは良いとすること。そういう強さを保つべきだと感じる。
「恋愛および色情」の章が一番良かった。
色気は英語で表現しづらい。それは色気は夜、翳りに結びつくもので、それを表現できる言葉を持ち合わせていないのである。
恋愛が芸術においての主題であった西洋と比べ、茶道では恋愛のテーマは禁じていた。テーマとしてはもともとあったが、隠していたり、ひっそりと楽しむようなものとしていた。それが西洋化に連れて、明るみに出てきたと。
艶やかで、色気のある女性、見られるというより暗がりで触れる女性の美しさ。そういった翳りと女が密接に繋がっていた。その美しさは今でも多くの人が共感できるだろう。
90年前ほどに書かれたものだが、彼の価値観に触れて、近いものを感じるものも多い。人とあまり話したくなくなってきて、居留守を使ったり、大阪から奈良に各停列車に乗って、悠久の時を楽しむことをオススメしていたり、共感できる部分もあり、彼の有名な文豪と時を超えて、繋がれるというのは大変に素晴らしい経験だった。また、どうも昨今は言語化やわかりやすさみたいなのが過剰に持ち上げられているように思う。言語化できないもの、暗がり、翳りのようなものを大切にしようと思った。そこにこそ、我々の忘れてはいけないものが在るように思う。 -
谷崎潤一郎御大は、小説も勿論お勧めですが、こちらも是非…というのが、陰翳礼讃。
光と影、陰翳の中の艶とエロス…ものを見て、ぼんやり感じていた事を言葉にしてくれてあります。 ぽってりとした漆黒の艶に浮かぶ金蒔絵の艶っぽさや水を吸った赤楽など日本古来のモノに秘めたるエロス、その向こうに透ける人々の感性、建築や物の見方、などなど、日本文化を紐解くにも大きなヒントになる良き一冊ではないでしょうか? -
18
開始:2023/6/7
終了:2023/6/11
感想
いつの間にか喪われた黒。文明の光は物怪を追払い人間の領分を広げた。しかしアイデンティティも失った。今からでも取り戻せるだろうか。