陰翳礼讃 (中公文庫 た 30-27)

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  • 中央公論新社 (1995年9月18日発売)
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感想 : 526
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陰翳をめぐる東洋と西洋の文化の違いをえぐった本。「陰翳礼賛」以外も似た切り口なので、ものごとを捉える時の洋の東西の枠組みの参照としても有益だろう。

陰翳礼賛で谷崎が説く内容にはおおむね賛同する。見えないものに価値、美しさ、時に畏れを見出す姿勢は確かに我々の内部にはある。

だが、彼も触れているように私の体験としてもヨーロッパの街の夜やホテルの照明は日本やアメリカよりも薄暗く、暗すぎて仕事ができないこともあった。青い目の白人は高緯度に住み、太陽の照度が日本よりも弱く、瞳の色が薄いので強烈な明かりは受け入れられないといわれる。そうなると谷崎の主張と入れ替わるように思うのだが、真相を誰か教えてくれないだろうか。

それはさておき、印象的だった箇所をひとつ。
P65
私は、我々が既に失いつつある陰影の世界を、せめて文学の領域へでも呼び返してみたい。文学と言う殿堂の檐を深くし、壁を暗くし、見えすぎるものを闇に押し込め、無用の室内装飾を剥ぎ取ってみたい。それも軒並みとは言わない、一軒ぐらいそういう家があってもよかろう。まぁどういう工合になるか、試しに電燈を消してみることだ。

なお、「客ぎらい」「旅のいろいろ」「厠のいろいろ」も面白く読めた。谷崎の便所のこだわりに納得しつつ、彼が困惑したエピソードなどにはクスッと笑ってしまう箇所もあった。便も陰影の中で見えないことが美しいようだ。

こちらも一箇所だけ抜粋。
P199
それに、そう云うとおかしいが、便所の匂には神経を鎮静させる効果があるのではないかと思う。便所が瞑想に適する場所であることは、人のよく知る通りであるが、近頃の水洗式の便所では、どうもそれが思うようにいかない。と云うのは、他にもいろいろ原因があるに違いないが、水洗式だと、清潔一方になってしまって、草風氏のいわゆる上品な匂、都雅の匂いのしないことが、大いに関係しているのであろう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 随筆・エッセイ
感想投稿日 : 2024年1月2日
読了日 : 2024年1月2日
本棚登録日 : 2021年2月6日

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