中空構造日本の深層 (中公文庫 か 54-1)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (274ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122033320

感想・レビュー・書評

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  • 中心で統合するのではなく,周辺部の力の均衡を取る構造。
    合力としての凝集性ではなく,正と負(陰と陽)の両面を以て一体とする。中心には空という核が想定される。その核は大きな力を持たない。

    日本や西洋といった大きな対象について論じるが,個人にも同様の構造が認められるのか。

    古事記,おそるべし。神話,あなどりがたし。

  • 中空構造日本の深層

    筆者は有名な精神分析家の河合隼雄氏であり、近代以前の人々が、世界を認識する際に神話的な解釈をしてきたことを伝えることで、科学的解釈に偏りを持つ近代社会に、一つの世界観を与える上で、神話的解釈の知を言うものを提示している。社会は近代化したとはいえ、人間の精神が変わったわけではない、そのため、今までの神話的知を科学的知のバランスを保つことが重要である。
    日本の神話を読み解いていくと、「中空」の存在が発見される。何かを中心においてと思いきや、すぐにその対抗物が置かれ、それらのバランスをとることで、中心の空性を守ってきた性質がある。精神分析にとどまらず、男性的なものは何かを切る、女性的なものは包み込むという性質がある。丸山の日本の思想にも書かれているが、日本という辺境地域においいては、常に外来文化を取り入れているように見えて、結局のところそれは中止まで行くことはなく、中心の外縁で日本化されたものになっていく。男性原理か女性原理かでいえば、日本は女性原理の強い国である。これは古来のもので、昨今の日本で父権復興を掲げ、若者を鍛えなおそうという運動があるが、筆者は日本にはそもそも復権する父権そのものもがないという。戦前の父の強さは、家長制の中での役割的な強さであり、戦後に家長制がなくなることで、父の権力の脆弱性があらわになったと解釈することが可能である。
    後半は、昔話の深層を良い説くもので、とても面白い。茂木健一郎の本にも書いてあったが、人間の脳は、確実なものと不確実なもののバランスをとるという。前近代の人間は、関あという不確実なものの割合が増えすぎないように、「物語」を確実なものとして採用していた。近代では、それが科学に変わったに過ぎない。そして、今でも、科学でもわからない不確実なことに対しては、やはり物語が採用されるのである。

  •  アマテラス、スサノオに対するツクヨミ、三柱の神のおけるアメノミナカヌシ、さらにそこから生まれたタカミムスヒ、ツハヤムスヒ、カミムスヒなどにおいて中心の神が日本神話において出現してからほとんど記述されないことから日本人の心性においての中空構造を著者は指摘する。
     自分も古事記を読んで最初の三貴神が出現してからすぐに姿を隠すところがかなり謎でありつつそういう構造に結構感心していたのだが、言語化されるとなるほどそういう考えもあるのかと目から鱗だった。日本人の特性としての曼荼羅状の球構造を提示するとこなんてかなりおもしろいんだけど、しかし教育問題や、漫画について言及するとこはちょっとあまりにも図式化されていて正しいことを言っていてその実何も言ってないような感をうけたので残念。

  • 151201『古事記』に見える中空構造
    必ずしも善・悪(キリスト教的な神VSサタン)の構造で規定しない一方で「悪」でも次の段では英雄として描かれる。カウンターバランスが図られるのが特徴である。西洋的な相反するものが止揚し「合」を成すのではなく、中空を保ち、ふわふわと巧妙なバランスを保つ。※神道には、普通の宗教にあるはずのものがない、すなわち「開祖も宗祖も教義も救済もない」by島田裕巳

  • フロイトとユング、あるいは
    リゾームとツリーを構造的に繋ぐものとして
    直観的ながら、ここでは「中空」というものが提示されており
    それはたとえば、日本神話に登場するツクヨミであるとか
    ルイス・キャロル「不思議の国のアリス」において
    主人公を異世界へといざなったウサギ穴などに見られる
    ひとつのいわゆる「元型」イメージなんだ
    グローバル世界における価値観・世界観の激変にさらされたとき
    「中空」を思い出すことで精神をニュートラルに保つことは可能だろう
    しかしまあ、ツクヨミやウサギ穴がそうであるように
    「中空」は見失われがちなものである
    この本も最後のほうはそんな感じで、リゾームに取り込まれてしまう

    かといって、あくまで「中空」に固着するものの末路は
    統合失調の世界にほかなるまい
    あまり深刻にとらえるべきものではないよ

  • 神話や民話、ファンタジー作品、親子関係、宗教、父性・母性の対比などから、日本人の心の深層を解明しようとするもの。タイトルにあるように、日本人が好む「中空構造」についての解説はとても納得感がある。この本では生き方についての解説が中心であるが、ビジネスでも適用できると思う。欧米の統合型に対し、日本・アジアは調整型。物語でも、欧米のものは結婚や魔物退治がゴールであるが、日本のものは曖昧なものが少なくなく、「再生」や「再配置」が多く、絶対的な勝利はない。このテーマはもう少し深めたいぞと。

  • なんかバラバラな構成だなと思ったら通して書いたものじゃないのか…
    中空構造と近親相姦あたりはおもしろかったけど、昔話の深層は河合隼雄の本をいくつか読んでればお馴染みというかんじで新しい発見はありませんでした。

  • 絶対的存在を中心と据えない構造、それが日本人独自の深層心理。神話や昔話を例に解説。意識と無意識の境界が鮮明でないことが、西洋人から見ると日本人独特の主体性の無さと捉えられると指摘。「浦島太郎は竜宮城の竜といつになったら戦うのか」と意見する西洋人の子供に驚愕。

  • 日本人の心の深層に迫る論考や、ユング心理学に基づいて神話や昔話、ファンタジー作品を分析した論考を収録しています。

    著者は前著『母性社会日本の病理』(中央公論社/講談社プラスアルファ文庫)のなかで、日本が心理的には母性優位の国であり、父性優位の欧米と対照的だと主張していました。これに対して本書では、むしろ日本の心理は母性と父性のバランスの上に立っていることが重点的に論じられます。

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