富国有徳論 (中公文庫 か 58-1)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (246ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122035713

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  • 2018年6月時点で静岡県知事にある著者が、早稲田大学教授時代に著したもの。

    本書において、著者は経済的・物質的に豊かになった日本が目指すべきものは富国有徳であると主張し、そのためのさまざまな方策を提案しているが、一貫しているのは自然への畏敬である。

    また、富国有徳のカギとして富士山を挙げているが、富士山の麓である静岡県知事を務めているのは必然とでも言うべきか。

    著者の描く日本は未だ実現していないと言わざるを得ないが、このような世の中が来ることはあるのだろうか。

  • 日本を海洋国家と位置づけ、未来の文明の形成に向けて、日本のとるべき道筋を論じた本です。

    日本は白村江の戦の敗北によって、強大な唐の脅威に対して向き合うことを余儀なくされ、これによって日本の「脱亜」の路線が定まったと著者は考えます。この「脱亜」は、福沢諭吉が論じたような政治的な対アジア政策と区別され、東西文明史の中に日本社会をどのように位置づけるかという観点から考えられたものだと著者は述べています。つまり、中国を中心とする東アジア文明と日本の文明の差異を十分理解した上で、アジアとのよりよい関係を考えて行こうというのが、著者のスタンスです。

    こうした文明論的観点に立って、著者はマルクスの単線的な歴史理解を批判し、ジョン・ラスキンの経済思想の見なおしをおこなっています。ラスキンは「物質的効用はすべて、それと相対的な人間の能力に依存する」と考えました。富の価値は人間の受容能力に依存するという立場から、日本の文明の独自のあり方を見ていく必要を訴えるとともに、アメリカ中心のグローバリズムを受容して単一の価値観に向かいつつある現在の日本のあり方への疑問を提出し、富みについての別の可能性を探ろうとしています。

    さらに、今西錦司や宮沢賢治との対話を通じて、「富国有徳」というオルタナティヴな文明論的価値のヒントを求めています。

    「富国有徳」というコンセプトが打ち出されているものの、その具体的な中身についてはまだ明確なイメージができないでいます。

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