- Amazon.co.jp ・本 (397ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122049161
感想・レビュー・書評
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名著。原著は20年以上前の刊行ですが、中世科学を幅広く概観するうえでこれ以上のものはまだ出ていないでしょう。文庫化にあわせて参考文献などがアップデートされているのも嬉しい。
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哲学 科学 歴史 歴史学 キリスト教 組織神学 歴史神学 教義学
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ギリシャ科学が、アラブに伝えられて、そこからヨーロッパに伝播した12世紀、科学上の真のルネサンスが始まったといってよい。そこから、ケブラー!ガリレオ、ニュートンへと続く科学の方法というべきメソッドが立ち上がった。
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序章 西欧科学の源流としての中世―その意義と研究状況
現代における中世研究の意義
中世科学研究の発展
アラビア科学研究の発展
アラビア科学以前
第1章 ギリシア科学の遺産
古代末期における科学
ヘレニズム科学の残光
東方宗教思想の浸透
新プラトン主義の勃興
第2章 中世ラテン科学の発端Ⅰ―キリスト教教父の自然観
キリスト教とギリシア思想
「ヘクサエメロン」と「フュシオロゴス」
教父の自然観の後世への影響
1 無よりの創造
2 直線的な時間
3 占星術の批判
第3章 中世ラテン科学の発端Ⅱ―プラトニズムの伝統と編纂家の科学
ラテン科学とビザンツの科学
プラトニズムの伝統
ラテン編纂家の科学
1 ボエティウス
2 カッシオドルス
3 イシドルス
4 ベーダ
第4章 ビザンツの科学
数学者たち
新プラトン主義者たち
1 フィロポノス
2 シンプリキオス
医学書の編纂
第5章 アラビア科学の発祥
アラビア科学史の予備概念
シリア・ヘレニズム
1 ネストリウス派の役割
2 単性論者の役割
アラビア・ルネサンス
1 フナイン・イブン・イスハーク
2 サービット・イブン・クッラ
第6章 アラビア科学の開花Ⅰ―数学・天文学・物理学
アラビアにおける学問の分類
アラビアの数学
アラビアの天文学
1 反プトレマイオス体系
2 天球の実在化
アラビアの物理学
1 アラビアにおける運動論
2 光学の発展
3 アラビアの自然観
第7章 アラビア科学の開花Ⅱ―錬金術と医学
アラビアの錬金術
1 錬金術の根本性格
2 アラビア錬金術の起源
3 ジャービルとその後継者たち
4 ラテン西欧世界への影響
アラビアの医学
1 アラビア医学の起源
2 アッ=ラーズィーの臨床医学
3 イブン・スィーナーの医学理論
4 イブン・スィーナー以後
第8章 十二世紀ルネサンス
十二世紀ルネサンスとは何か
西欧世界のアラビアとの接触
十二世紀における大翻訳運動
1 北東スペイン派
2 トレード派
3 シチリア派
4 北イタリア派
十二世紀以後の翻訳
第9章 西欧ラテン科学の興隆―ヨルダヌスとグロステスト
ヨルダヌスの静力学
グロステストと方法論革命
アリストテレス自然学の消化
第10章 西欧ラテン科学の発展―ガリレオの先駆者たち
中世運動論の抬頭
運動の数学的定式化
インペトゥス理論の展開
終章 中世科学と「科学革命」――その連続と断絶
中世科学の近代科学への連続
インペトゥス理論と近代力学
中世自然観の遺産
「科学革命」の新しさ -
ギリシア・ローマ世界が崩壊すると、自然哲学などその知的遺産は、ビザンツを経由してイスラム世界に継受された。その成果はヨーロッパ世界に「逆輸入」され、ルネサンス、科学革命を経て近代西洋科学が勃興する。
なるほど。では、逆輸入の契機は何か。
フリードリヒ2世のイスラムびいきエピソードなどを挙げつつ「十字軍が東西を繋いだ」などと訳知り顔で言いたくなるところ、十字軍の文化史的意義について著者曰く、
「彼らは多く旅したが、しかしほとんど何も学ばなかった」(p255)。
著者が西洋近代科学成立の画期とする「12世紀ルネサンス」については、何も知らなかったので、大変勉強になった。
それから、スコラ哲学については思弁のための思弁といったイメージしかなかったのだが、神学と自然哲学の折り合いをそれなりにつけるという機能もあったのかもしれないなと思われ、これも勉強になった。
内容は知的刺激に満ちている上、文章も流麗。いい本でした。