- Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122072909
作品紹介・あらすじ
武士とは、何だったのか?
千年に亘る戦いの系譜を一冊に刻みつけた、驚愕の傑作歴史小説。
〈螺旋プロジェクト〉中世・近世篇。
負け戦の果てに山中の洞窟にたどり着いた一人の武士。死を目前にした男の耳に不思議な声が響く。「そなたの『役割』はじきに終わる」。そして声は語り始める。かつてこの国を支配した誇り高きもののふたちの真実を。源平、南北朝、戦国、幕末。すべての戦は、起こるべくして起こったものだった――。〈巻末付録〉特別書き下ろし短篇
感想・レビュー・書評
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螺旋プロジェクト、中世•近世編。
平正門の乱終焉から、源平合戦、鎌倉、室町、戦国、江戸徳川、そして幕末の西南戦争まで。およそ千年の武士の国だった日本の物語。なかなかのスピード感。歴史に残された対立は、その山族海族の血の対立から引き起こされたという歴史ファンタジー。源氏系が山族、平家系が海族という血統から始まり、日本の時代の変革の起因として螺旋プロジェクトの一冊となります。
前時代の月人壮士が天皇系が山族、今回は徳川系が山族。主流は山族なのかな?鬼仙島に蒼い目の部族が隠れて住んでるみたいだし。
最後の武士は、海族の西郷隆盛。彼は、もののふの国を滅ぼし未来の日本の為に戦う。
もののふの歴史そのものを螺旋と捉えて描くところがおもしろいなと思いました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「螺旋」プロジェクトの7冊目。今回もまた初読みの作者さん。
描くは平将門の乱から西南戦争まで、武士たちの千年に亘る戦いの物語。
歴史をなぞりながら進む話は日本史をおさらいしているようで楽しく、海族と山族の対立という趣向が取り入れられたことも含めて通説とは異なる人物像や脚色も施されていて面白く読める。
勝ち負けや生死が分かっている話の中で、とりわけ虚実入り混じった書き振り(鬼仙島が出て来た)がなされ、“長老”の言葉に間違ったほうに後押しされた、大塩平八郎の乱の件りが出色。幕末維新の章のまず最初にこの事件が置かれたところも興味深い。
対峙する相手の大きな耳や蒼い目を見て心がざわつく展開が重ねられた物語は、終盤での『この世に人がある限り対立がなくなることはない』という“声”の言う通りであったが、一方、だからこそ「対立」や「分断」について考え行動し続けようという、このシリーズで一貫して語られてきたことが思い起こされたのだった。 -
螺旋プロジェクトの私にとっての7作品目!
今回の時代はプロジェクト中最長の900年超!!!
平将門〜西郷隆盛まで・・・
入れ替わり立ち替わり登場する海と山の一族の両方の特徴を持つ長老達は、歴史を刻む者たちを促す・・・
歴史を刻む者たちは不遇と戦い、光明を掴み、栄え滅びていく。
祇園精舎で始まる平家物語のように歴史の長い目で見れば勝者の一族はいずれ敗者の一族となってしまう・・・
螺旋プロジェクトだからこそ、900年の歴史に一本の串を通して読むことができる、武士の生きた時代の物語ダイジェスト!
→楠木正成や平将門について、もう少し掘り下げて読みたいと思った!
政治のあり方や、統治者がどのような階級の人達がと言うことは、その時代を生きる人達にとってはどうする事も出来ない、受け入れなければならない事!
今の時代は平和と民主主義が私達に豊かさをもたらしてくれてはいるが、未来の人たちから見たら私達の良い時代なのでしょうか?
良い時代であれば良いなぁと思います。
因みに、螺旋プロジェクトも残すところ一作
ここまで長かった・・・ -
螺旋プロジェクトの中で、一番長い年月を担当する本書。
中世・近世を一気に担う天野さん。1冊に、どのように描くのだろうと思っていた。
螺旋年表で分かるように、この時代は、海族が治めていた世を山族が奪い、それを海族が取り返したかと思えば山族が…と目まぐるしい。
源平、南北朝、戦国、幕末維新を駆け抜ける本書は、意味深な序章で幕を開ける。
軍服で刀を携えたその男は、未来の我が国であるだろう光景を見ている。
男に、謎の人影がこう告げる。
「そなたの果たすべき役割は、じきに終わる」
その役割とは何かを知る前に、まずは武士(もののふ)=お前たちの物語を聞けと言う。
謎の人影は超越的な存在だとしても、男は誰なんだろう?
本編は海族である平将門から。
そばには、超越的な存在である巫女が仕えている。
将門は幼い頃から、ふとどこからか視線を感じることがあった。
そんな感覚の元、巫女からの不思議な夢告げに助けられながら、己の人生を駆け抜けていた。
けれど物語が幕を開けた時には、もうその時が迫っており、将門は早々にこの世を去る。
その刹那、将門にはどこからともなく声が聞こえる。
「案ズルナ。オ前ハ役割ヲ果タシタ」
「二ツノ一族ノ対立ハ渦トナリ、果テルコトナク続イテイク」
一方、平家の次の世を担う源頼朝もまた、どこからかの視線を感じており、あの声が聞こえる。
「オ前ハ、マダ死ナヌ」
頼朝の側には、超越的な存在の特徴を持つ僧(文覚)が仕えている。
この時代ってまだまだ歩き巫女の口寄せや、僧侶による呪詛は信じられていたから、超越的存在となると巫女や僧侶かな…とは思っていたけれど、声の主は、姿形を変えながら引き継がれてきたウェレカセリなのかな…
いや、その逆なんだろうと、螺旋作品を読み進めてきた今は思う。
何か(時?渦、螺旋そのもの?)が、原始ではたまたまウェレカセリの姿を借りただけ。
当初私は、こんなに長い年月を僅か1冊で???と思っていた。
けれど、入れ代わり立ち代わりの下克上、争乱の戦国を描くに辺り、このスピード展開はかえって良い効果を生んでいた。
争乱の世を大きな括りとして俯瞰で捉えると、
「争いの絶えない様」や「1人の力ではどうにも抗えない時の流れ」や「登場人物それぞれの思い」が、
大きな渦となって入り乱れながら歴史を作ってゆくのが読者にも伝わる。
こういう描き方も面白い!と思える作品だった。
長い歴史の中では人の一生は一瞬でしかなくて、まして本作は戦の世、散ってゆく者の人生は本当に儚い。
けれどその短い中に天野さんはしっかりと、登場人物たちの人柄や、螺旋プロジェクトにおける重要アイテムを織り込んでいる。
だから次々と移り変わる時代にも、私達読者は置いてきぼりを食らわずに済む。
それにしても、南北朝の巻における尊氏と正成は本当に悲しい展開。
それを継ぐ義満はいささか権力に執着し過ぎに思えたから、余計に尊氏と正成の運命と真っ直ぐな志が、美しく悲しく思えた。
そして読者は戦国の巻で突如、イソベリ・ヤマノベの呼び名を目にすることになる。
「ウナノハテノガタ」を読み終えている読者の方々はハッとさせられるだろう。
私もその1人。
私は天野作品初読みだったけれど、天野さんの描く戦のシーンに緊迫感とスピード感を感じて、
武将達それぞれの義や思惑が混じりあって、どのキャラクターも光っていた。
殿と呼ばれる人物も、やはり人間。
恐怖も感じれば怯えもする。
だからこそ、感情移入してしまうシーンも多かった。
8作品を通しての長い螺旋絵巻として、例え「希望の持てる着地点」という結末が待っているにせよ、
そこまでの「過程」である時代に生きた人々の人生は、過酷で残忍で、時に報われない事もある。
それは「もののふの国」だけでなく、他作品でも見られた。
けれど報われない事も含めて、「希望の持てる着地点」に辿り着く為の必要な犠牲なのか?
悲しい。
犠牲を伴って掴んだ平和も、この世は所詮螺旋構図。
平和な世が続くと、また争いが生まれる。
それぞれの章を読み終える毎に、螺旋の他作品にまで想いを馳せてしまって、
今回はより一層読了に時間がかかってしまった。
各作品の冒頭とラストに必ず織り込まれる『海と山の伝承「螺旋」より』は、
対立を上手に避けた世界(自分とは違う他者を認めた世界)の原始なのか?
それとも、繰り返される螺旋の先にある未来のいつかなのか?
南北朝の巻は心が痛かった。
「後生のことなど、今はどうでもよい」と尊氏が言うシーンがあるのだけれど、本当にその通りだろうと思う。
そんなこと、考えもせずに皆必死に生きているだけだ。
尊氏と正成。
対立する二人だけど、二人はそれぞれ、
己の保身や権力への執着ではなく、お家の為でもなく、この国の乱世を終わらせるために戦っている。
海山の血に流れる対立など無ければ、2人は手を取り合って新しい世を作っていたかもしれないのに。
「和睦を望みながら、結局は戦うことになってしまった」との正成の胸中も書かれていた。
あの大きな耳。
あの蒼い瞳。
近づくと互いに不快感を抱き、相容れる事ができぬ悲しいさだめ。
源平の巻のラストでも教経が言っていたっけ。
「お前も同じだったのか。望みもしない"役割"とやらを、誰かに押しつけられたのだろう」
180~181ページにかけて、
「長い時が経てば、その二つの一族が互いをわかり合い、対立を終わらせることもあるのだろうか。海と山が混じり合って、新たな一族に生まれ変わることはないのか。もしも来世があるとしたら、そんな光景を見てみたいものだ。」
出陣直前の正成の言葉にグッときてしまった。
ところで、導誉が息を引き取る際、左右違っていた瞳の色が両方黒くなるというシーンがある。
導誉に宿っていた超越的な何かが、また別の誰かへと移ったということ。
本作は時代を跨がっている為、超越的な存在が次の世へと渡ってゆく様も描かれている。
そこも面白い。
人類の歴史が続いていく以上、私達もリアル社会の螺旋の「過程」に属する何者かだ。
私達が過程を担う歴史絵巻は、どんな結末へと向かうのだろう。
模索、選択とチャレンジ、失敗、再びの模索と選択とチャレンジ。
時には思いきった方向転換や、対峙する相手を認め、協力も必要になる。
私達のまだ見ぬ未来、「希望や平和」が待っている方向はどっちだ?
現世の選択が正しいかは、現世を生きる私達にはまだ見えない。
ただ、戦国の巻で信長に光秀が意見する場面が描かれているが、ここで繰り広げられる意見のぶつかり合いは、
戦国の世から永い年月を経た現在でさえ、未だ同じ過ちを繰り返しているようで悲しくなる。
「憎しみは憎しみを呼んで渦となり、争いはいつ果てるともなく続きましょうぞ」
そうだよ。
そんな当たり前の事、なぜ人は未だに分からないのだろう。
あるいは、分かっているのに薄っぺらな正当性を並べ立てて争いを止めようとしない。
本作では物語が進行するにつれ、海山の因縁と、超越的な存在について、まことしやかに囁かれ人々に広まってゆく。
するとやはり、勘違いしてしまう者も出てくる。
我こそは天に選ばれし者だと。
思い上がりとは恐ろしい。
間違いを指摘されても聞く耳を持たず、日ノ本の為と言いながら、その行動は家来や民を苦しめ、無駄な戦と死人を増やす。
こういった愚かな行為も、相も変わらず現世でも繰り返されていて、ひどく悲しい気持ちになった。
ところで、私は美吉屋五郎兵衛なる人物を知らなかったので検索をした。
すると、どうやら史実としても謎多き人物らしい。
歴史上のもののふ達には「生存説」が囁かれる者も少なくない。
大塩平八郎と格之助も同じだった。
そこを巧みに使い、天野さんは、鬼仙島へと繋げてゆく。
"時"の望む流れからあぶれた海族が集うという鬼仙島。
まるで"時"の身勝手な辻褄合わせじゃないか。
これもまた悲しい流れだ。
既に読み終えた、この後に続く「蒼色の大地」における灯(あかし)達が頭を過った。
最終章、あのお守りは土方歳三の手に渡る。
加えて、「蒼色の大地」へと受け継がれる村正も、いよいよハッキリとその名が語られる。
平蔵もまた村正と共に「蒼色の大地」へとクロスオーバーする。
さて。
今回も深い感動と共に読み終えた。
面白かった。
「渦は途切れず」の西郷隆盛のシーンは胸熱で、周りの音も聞こえないくらい入り込んだ。
けれど、私は歴史に詳しくない。
常にネットで地形や関係性などを調べながら本作を読み進めていた。
だから、巻頭に相関図や当時の簡単な日本地図が欲しかったかな。
そこそこ有名な武将と、地名や戦の名前は知っていても、
領土や戦地の位置関係がイメージしづらかった。
簡単な地図でもう少し確認が出来ていたら、もっと位置関係を把握して楽しめたかもしれない。
また、今回も改めて「螺旋プロジェクト」のプロットが、とても壮大で素晴らしいものだと思い知らされることとなった。
どの作家さんの作品も素晴らしい。
皆さんの作風が活かされているからこそ、全く違う楽しさがあるし、
それぞれの作品が強烈に頭に残っているので、別の作品を読んでいても他作品を思い返す事が多々ある。
それがまた違う感動を呼ぶ。
贅沢な読書の時間だ♪
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もののふの国
螺旋プロジェクト6作品目
天野純希さんの作品も初。
この螺旋プロジェクトを全部読んでみようと思わなかったら、天野さんの作品を手に取ることがなかったかも。
さて、武士の対立を海山に分けて様々な戦をなぞっている感じ。普段時代物?的なものを読まないので、歴史の勉強のような感じがしてました。
次はコイコワレへ -
螺旋プロジェクトによる歴史物語
人はなぜ戦いをやめられないのか?
歴史上の英雄たちの遣る瀬無い思いに、人の生きる意味は所詮儚いものだと思わされる。
ましてや名もなき人の人生に意味を見出す必要があるのか?
生まれた時代にただ生きているだけなのかもしれない。
生きる意味を考えることが意味のないことなのかもしれない… -
螺旋シリーズ7作目
螺旋シリーズで1番好きな作品かも(まだ1冊残ってますが)。
これだけの長尺の歴史を任されて大変だったと思いますが、史実にかなり忠実で歴史好きを唸らせる脇役たちも登場させるあたり、随分勉強されて書かれているなあ、と感心しました。
戦国時代や幕末など、たくさんの本がでていますが平将門からつなげて読むと圧巻。まさにもののふの始まりから終わりまでの壮大なお話でした。
でも短くキレイにまとめてあるので、それもまたよかったです。 -
紐解き始めて、頁を繰る手が停められなくなってしまった。そして素早く読了であった。「日本史」の長い経過の「裏面?」というようなことで展開するファンタジーだ。凄く面白い。
山中の洞窟に、戦いに敗れて少し弱っているという風な男が在るという場面から物語は起る。戦いに敗れた、間もなく最期を遂げようという状況下の男は「武士(もののふ)の物語を聴くがよい」という、頭の中に響く不思議な声を聞くこととなる。本作の主要部分は、その「武士(もののふ)の物語」ということになる。
男が聞かされる物語とは、“もののふ”が繰り返して来た戦いの経過だった。世の中には、決して相容れることが無い2つの一族が在るのだという。「海の一族」、「山の一族」と呼ばれる。各々の一族の流れを汲む者達が在って、両者が争ったというのが、色々と伝えられている戦いの歴史なのだという。
平将門の戦いから源平合戦、鎌倉幕府の成立、室町幕府が起こって行く時代、更に南北朝の争いの収拾が図られる時期、戦国時代から江戸幕府が成立する時期、そして幕府支配が揺らぐ時期に入り、幕末の争乱になる。
史上のよく知られた人物達が登場する篇が折り重ねられている本作である。彼らが、人智を超えた何かに導かれるように、相容れない者との争いを繰り返す。それは「役目」とも呼ばれる。そして洞窟に在る男の時代ということになる。
本書では、単行本の後に発表された戦国時代関係の篇が末尾に追加されている。それによって『もののふの国』の物語は少し厚みを増すが、或いは「マダマダ在る『もののふの国』の物語?」というような感にもなっている。
決して相容れることが無い2つの一族の流れを汲む者達が、人智を超えた何かに導かれるように、「役目」を果たすというのが、繰り返されて来た「戦い」の歴史なのであろうか。或いはそれは「更に続く」または「続いている」のであろうか。
或る種の壮大なファンタジーなのだが、何か考えさせられる内容の作品であると思う。興味深い。 -
面白かった!
螺旋プロジェクトともののふ(武士)たちの歴史、生き様が見事に融合され、歴史的に有名な合戦では、テンポの良い戦の描写と武将たちの想いに胸が熱くなりました。
平将門から西郷隆盛までの戦いを、海と山の対立に当て嵌め、謎の多い人物とされる歴史上の人物が「超越的な人物」として配される。
歴史に造詣が深いわけではないですが、歴史史実を大きく歪めることはなく、歴史の空白をうまく描いているなと感じました。
時代を逆行して読んでいるせいで、次の作品「蒼色の大地」にも共通して出てくるキャラの末路を知っているだけに、何とも言えない想いが。