画狂其一

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  • NHK出版
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140056936

作品紹介・あらすじ

酒井抱一と鈴木其一、師匠への思慕と葛藤から世界が驚愕する絵画が生まれた!

感想・レビュー・書評

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  • 江戸時代の画家、酒井抱一と弟子の鈴木其一。2人の画家としての矜持と師弟関係を超えた繋がりを描いた歴史ドラマ。
    抱一が師と仰ぐ尾形光琳くらいしかこの時代の画家を知らなかったが、江戸時代の末期に様々な画家や歌舞伎役者達によるこの時代の文化、生活、繁栄、道楽、修行、旅行などの雰囲気が躍動感を持って表現されており生々しく感じられる小説だった。
    其一の最後に描きあげた朝顔図屏風はメトロポリタン美術館にあるという。時代と国境を越えてその勢いは今でも異彩を放っているだろうか。

  • 琳派とは、俵屋宗達・本阿弥光悦を祖とし、やまと絵の様式を基盤としながら、デフォルメやトリミングといった斬新なアレンジにより、装飾性と意匠性に富んだ独自のスタイルを確立した流派を言う。その後、尾形光琳・酒井抱一・鈴木其一と受け継がれ、現代絵画にまで影響を与えている。
    琳派は、狩野派や土佐派などの各流派のように師弟や親子関係で結ばれた訳ではなく、私淑による断続的な継承という特徴があり、また日本でのデザイナーの誕生でもあった。

    本著は、その中の江戸琳派の祖・酒井抱一の弟子で、その事実上の後継者である鈴木其一の物語。彼は、琳派の末裔と位置づけられているが、近代に通じる都会的洗練化と理知的な装飾性が際立ち、近代日本画の先駆的な絵師だとも言われている。

    前半は酒井抱一がメインで、後半では鈴木其一が抱一の影響から如何に脱皮していくかが描かれている。
    また周囲には、江戸末期の谷文晁、葛飾北斎、歌川広重、河鍋暁斎、伊藤若冲などがキラ星の如く現れ、直接・間接に鈴木其一に影響を与えていく様は豪華絢爛という他はない。

    ただ鈴木其一の代表作である「朝顔図屏風」が何故かアメリカ・メトロポリタン美術館の所蔵というのが残念である。

    今年(2018年)は酒井抱一没後190年、鈴木其一没後160年で、折しも山種美術館で「琳派展」が開催されている。是非行かなくては・・・。
    (2018年5月12日~7月8日)

  • 面白かった! 
    鈴木其一が好きで見つけた本。
    人柄、時代背景もなるほどと思うし、何より絵師たちの衝動や情熱、生業としての絵を見る目線に頷かれられた。

  • ★2017年11月25日読了『画狂其一』(がきょうきいつ)梓澤要著 評価A

    江戸時代末期の日本画家、鈴木其一の物語。著者の梓澤要氏の作品を手に取るのは前回の荒仏師運慶以来。
    昨年から歴史上の芸術家、宗教家を描いた物語をたまたま読んできている。いつも感心するのは、武士のように波瀾万丈の人生と言うほどではないと思われる芸術家でも、作家にその生涯を語らせると手に汗握る物語を創作していること。俵屋宗達も、若冲も、運慶も、この鈴木其一も、少々の伝聞と残されている気迫こもった作品から物語を紡ぎ出す作家というのは、やはり天賦の才がある選ばれた人たちなのだと改めて感じ入った次第。地味な題材だけれども、こういう本がもっと評価されてもいいのではないかと思う。

    また、実は、私は受験では日本史を取らなかったので、鈴木其一の名前を初めて見たことにいまだ自分の無知を痛感させられた。

    江戸時代末期、尾形光琳に傾倒し、その作風をまねて名を上げた酒井抱一。その部屋に弟子入りした為三郎(後の鈴木其一)は、兄弟子の死去もあり、才能を見込まれて酒井抱一に仕え、部屋をもり立て、師匠の名声を下支えする。紫染職人の子として育ち、京都から江戸に出てきて、失敗した父の轍を踏まず、抱一の下で、我慢に我慢を重ねて、実力を蓄える。

    師匠抱一亡き後に、一時自分を見失いかけるも、西日本への9か月の旅で、自分を取り戻して帰京する。

    鈴木其一とほぼ同じ時代に、歌川(安藤)広重がいる。其一は、東海道五十三次を見せられて、真の自分の世界へ達している広重の境地に嫉妬、憎悪を感じる。

    また、画狂老人である葛飾北斎の富嶽三十六景の跋文に、其一自身が理性を失い、常軌を逸するほどに画に没頭したいと刺激を受ける。(梓澤氏の想像だとは思うが、、、)

    物語には、七代目市川団十郎や時代の荒波に飲み込まれた大老 井伊直弼との親交も軽く描かれ、それとなく江戸時代末期の世相、空気を話に織り交ぜながら、時代の風を感じさせる点も上手いと感じる。

    鈴木其一は、夏秋渓流図、朝顔図屏風など高い評価を受けている名作を残して、1858年9月10日にコレラのために死去。(安政の大獄の年)

  • 九州産業大学図書館 蔵書検索(OPAC)へ↓
    https://leaf.kyusan-u.ac.jp/opac/volume/1439739

  • 其一は抱一の弟子。
    という薄い印象しかなかったけど、絵師だろうが弟子だろうが、ひとりの人間なんだ!と明らかなことに気づかされた。
    絵に師に人に時代に、渦巻く時間に生きてきた人だった。

    抱一の性格が(勝手に)思ってたのと違って、最初はとまどった。

  • 「江戸琳派」と括ってしまえばそれまでだけど、師匠の酒井抱一が微妙な位置づけなのを更にややこしくした感がなくもない、鈴木其一。でもこうやって見ると、この時代、世は(徳川家斉の大御所時代・後半)化政から幕末期。絵師は北斎に広重。芝居は7代目市川団十郎の栄枯盛衰から8代目の自死。大地震に大火に飢饉にペリー来航とてんこ盛り過ぎ。振り回されるわなー。終いにゃ河鍋暁斎が婿と来たもんだ。

    文政11年・1828年3月。7代目市川団十郎の助六に、岩井紫若の白玉。揚巻は誰がやったんやろ。酒井抱一が描いた雲龍小袖、文政12年の文政の大火(佐久間町火事)で焼失したらしい。あーあ。

    抱一没後、7代目市川団十郎が、息子の襲名に其一へ雲龍小袖を依頼する。受け切れずに苦悩する其一の背を上方へと押す。このシーンは短いけどとても印象的。まあ、ここから後が、西国旅行ガイドみたいに散文的なので余計ね〜。姫路藩家老の河合寸翁は好人物だった。

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著者プロフィール

1953年静岡県生まれ。明治大学文学部卒業。1993年、『喜娘』で第18回歴史文学賞を受賞しデビュー。歴史に対する確かな目線と骨太のドラマを織り込んだ作風で着実な評価を得てきた。作品執筆の傍ら、2007年から東洋大学大学院で仏教学を学ぶ。2014年『捨ててこそ空也』で、第3回歴史時代作家クラブ賞作品賞を受賞。主な作品に『百枚の定家』ほか。

「2016年 『井伊直虎 女にこそあれ次郎法師』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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