幸福論: 〈共生〉の不可能と不可避について (NHKブックス 1081)

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  • Amazon.co.jp ・本 (339ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140910818

作品紹介・あらすじ

不透明で流動的な社会、将来不安に脅かされる人々…いま、「幸福な社会」とはどのようなものか。幸福への設計は、一握りの「エリート」に任せられるか。幸福につながる「教育のあり方」とはどのようなものか。どんな社会も、なんらかの選別と排除を抱えこむ以上、万人の幸福な"共生"は不可能とする考えから出発し、統治権力が巧妙に演出する「幸福像」を超えて、真の幸福はいかにして可能かを徹底討議。人文科学の粋を集めた迫力ある鼎談。

感想・レビュー・書評

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  • 「ごく少数のソクラテスが、たくさんの豚を満足させる世界」。「幸福な社会」がいかにして設計可能かをめぐり、宮台真司が提案した社会設計のありかたは、比喩的に言えばこのようなものだ。それをめぐる、鈴木弘輝、堀内進之介との鼎談が本書である。専門用語や人名がバンバン出てくるので、正直僕には難しかった(何しろもとの議論を読んでいないので、正しく引用されているかどうかもわからない)。

    したがって以下は何となくの感想。この本の焦点は宮台の次の主張をもとに展開される。

    「どうせ国家のフィールグッド・ステイト(大衆が心地よさを感じる状態を目指す国家)化は避けられない。それは現代の「不安のポピュリズム」よりましであるし、避けられないならば、よりましなフィールグッド・ステイトを目指すべきである。したがって、エリート(全体性を見渡せる者=自分以外の他者が多様な生を営むことに耐えられる者)はそれを自覚して、アーキテクチャを巧妙に設計することで、パンピーが幸福を感じられる目指す社会をつくるべきだし、教育はそのようなエリートを育てる必要がある。」

    そして、この議論に対して、主として若手の堀内が反論していくのだが、全体として堀内の反論に宮台はまともに答えているのだろうか。そこがピンとこない、というか、うまく論点をずらしてごまかしている気がする。結局、フィールグッド・ステイトをめぐる宮台の主張の最大の欠陥は、統治機構(エリート)の正統性が何にも脅かされない(批判精神が消滅する)点にあると思うのだが、宮台はその危険性についてどこで答えているのだろう。少なくとも僕には、まともに答えているようには思えなかった。

    あえて感情を逆なでするようなエリート主義的物言いをする宮台の言い回しが鼻につくこともあって、「援助交際」を支持していた頃の宮台と、ずいぶん違う印象を受ける(僕は彼の著作を追いかけているわけではないので、変わっていないのかもしれないが)。その自覚的な?「嫌な奴」ぶりと、それに丁寧に反論する堀内の姿が印象に残った一冊。

  • 対談をまとめたのであろう本。口語表現が多く、文章ではリズムが掴みにくかった。
    ほぼ読み飛ばしたが、結局、幸福論の本質はわからなかった。

  • 宮台先生(対話に真剣ではない)に比べると、真面目に対応する堀内先生が輝いて見える。ファンになりそう……



    【目次】
    目次
    「幸福への設計」はいかにして可能なのか――「序」にかえて

    第一章 パターナリズムこそ幸福の大前提? 
    1 幸福の機会費用 
      習い事体験と塾体験
      学力プラスアルファが重要
      教育のパラドクス
      発言の本質はパターナリズム
      まともな感情プログラム
      男は承認を求め、女は理解を求める
      何が「まとも」で何が「合理的」なのか
      SFの教育的効果
      「潜在性の思考」の喪失
      四段階に分かれた子どもたち
      「適応」ではなく「適応力」を
      究極の目標=幸福になること? 
    2 「不安のポピュリズム」の登場
      過剰流動性に見舞われた社会
      あえて愛国を強調する戦略
      ゆとり教育はなぜ失敗したのか
      グローバル・エリートの画策
      ソーシャル・デザインの課題

    第二章 いかに幸せだと思わせるか――幸福の社会工学 
    1 フィールグッド社会の罠?
      「安楽国家」構想
      教科書未履修問題と「不安のポピュリズム」
      公正原理の恣意性
      フィールドグッド・プログラムは市民の自己慰撫?
      情報操作は不可欠?
      個人性の調整が必要?
      批判の可能性を開く批判
      反論――フィールドグッド・プログラムを正当化できない理由
      オタク問題の両義性
      ポイントは「社会をうまく運転すること」
      「現実の虚構化」と「虚構の現実化」
    2 全体性の危機――〈公〉不在の日本社会 
      権益争奪戦と官僚の質低下
      情報管理行政の課題
      パブリック・トークに背を向ける世代
      〈公〉と〈私〉の関係
      「一流の存在」が嫉妬される社会
      何が日本的エリーティズムを支えていたのか
      統合シンボルの空洞化
      プラットフォームへのベタな没入
      ノーマライゼーションの二つの次元
      丸山眞男の二重性
     3 「頭の良いネオコン」の戦略
      再び、フィールドグッド是か非か
      「推奨したい」の真意――「ルール主義」と「共生主義」
      「抗いたい」の真意――広範な政治的関心の喪失
      メタ的立場の民権派エリート
      亜細亜主義者のベタ化
      プラットフォームの不在?

    第三章 エリートが「幸福な社会」を作るのか? 
    1 まずは「感情的安全」の保障から――多様性の構築へ 
      ポストモダンは再帰的近代か
      ポイントは「奪人称性」
      「広いパターナリズム」「狭いパターナリズム」
      いま求められる「パターナリズム」とは?
      愛国教育よりも「ミメーシス」を重視せよ
      過剰流動性の意味
      民主制の困難を補完するエリーティズム
      「帰る場所」の両義性
    2 〈エリート〉の条件 
      オタクの世代論的考察
      いつまでたってもダメなボク
      『グロテスク』のアクチュアリティ
      「教養主義」の没落
      多様性フォビアを克服するプログラム
      特定人称性の戦略
      エリートはルックスが重要?
      エリート選抜の入試システム
      「格差」をどう捉えるか
      エリートは「全体性」を見られるか

    「幸福」から「教育」へ、「教育」から「幸福」へ

    第四章 教育を通して「疑似階級社会」を作る?
    1 人を見て「機能の言葉」を説け!
      視座の輻輳がもたらす無限後退
      「機能の言葉」の教育的効果
      自己言及による全体性への接近
      子どもの視座からの教育、デザイナーの視座からの教育
      「適応」「適応力」の循環的関係
      人称的なものを「見えなくする」ことは可能なのか
      9条の本質
      「意思する人」を育てる方法
      全ては、言葉を受け取る側の能力による?
      「闘技」参加には賛成が必要?
      「エリート」はファシストなのか
    2 「学校的共同性」を再考せよ!
      「知らぬが仏」しかし「知りたければ知れる」
      まずは、子どもの感情への配慮から
      日本的エリートの承認可能性
      共同性をどう自覚させるか
      学校を核とする地域興し
      学校で生育環境の人為的操縦を
      学校の「聖性」に代わるもの
      エリート界隈は甘くない

    第五章 〈社会設計〉の不可能と不可避
    1 バイオポリティクス――恣意性にどう対処するか
      代理母問題の本質
      「生活の質」か「生命の尊厳」か
      決定プロセスをめぐる問題
    2 「教育の一枚岩」をどう捉えるか 
      ゆとり教育の意義
      「戦後教育の失敗」への視点
      ステークホルダーの反動
      「感染動機」こそ重要
      オルタナティブ・スクールの役割
      偏差値教育を肯定できるか
      多様性の強制
    3 設計者の責任をめぐる問題 
      「全体性」とはどういう概念化
      社会科学の新しいステージ
      予期理論的な恋愛観
      「正しい認識」は万人に必要か
      観察する視座のせめぎあい
      地位達成から人間関係へ
      モラルハザードは回避できるか
      手続きと事実性――正当性の根拠はどこにあるか
      感情的安全というキーワード
      自己決定とパターナリズムの折り合いをどこで付けるか
      〈共生〉の不可能と不可避①――「適応力」のすすめ
      〈共生〉の不可能と不可避②――越境不可能性に向けて
      〈共生〉の不可能と不可避③――「幸福への設計」

    注釈
    批判の可能性を切り開く批判――「あとがき」にかえて

  • かなり難しかった。もう少し賢くなったら、もう一度読もう

  • レベル高くてついて行くのに必死だった(読書なのだがw)
    エリート教育は大切だが所詮は情報宇宙の暇つぶしゲームだとも最近は思うようになってきた。
    田吾作と同じ視点に立ち田吾作の田吾作らしさを楽しめる田吾作のようなエリートが必要だと思う僕は典型的な日本人の良い人なのかもしれないw
    この本では宮台氏の誤解を生むであろう発言に正面からツッコミを入れているトコロがステキだった。
    その後の宮台氏の反論は高度な言語ゲームで上位1%の人間だけが唸るであろうというマニアックな内容w
    伝えたいコトは分かるが初めて宮台ワールドがチョット揺れた⁈という場面もあり良かったw
    ただ、正しいかどうかの判断は必然的に先送りになる位に周辺情報の知識と理解が必要だと感じた。

    とか、考える時間があるのは幸福だw

  • 麻生中学高校に行ったエリートのお坊ちゃんが、野山で遊んでばかりいたけど、軽く東大に入学できたよ、みたいなイヤミなことを書きながら、幸福論だって。
    でも、麻生学園みたいなとこは、勉強できて当たり前で、あとは、どれだけ遊べるかが重要みたいなこと書いてあって、エリート校って、そーなのかーって感心した。

  • [ 内容 ]
    不透明で流動的な社会、将来不安に脅かされる人々…いま、「幸福な社会」とはどのようなものか。
    幸福への設計は、一握りの「エリート」に任せられるか。
    幸福につながる「教育のあり方」とはどのようなものか。
    どんな社会も、なんらかの選別と排除を抱えこむ以上、万人の幸福な“共生”は不可能とする考えから出発し、統治権力が巧妙に演出する「幸福像」を超えて、真の幸福はいかにして可能かを徹底討議。
    人文科学の粋を集めた迫力ある鼎談。

    [ 目次 ]
    第1章 パターナリズムこそ幸福の大前提?(幸福の機会費用;「不安のポピュリズム」の登場)
    第2章 いかに幸せだと思わせるか―幸福の社会工学(フィールグッド社会の罠?;全体性の危機―“公”不在の日本社会 ほか)
    第3章 エリートが「幸福な社会」を作るのか?(まずは「感情的安全」の保障から―多様性の構築へ;“エリート”の条件)
    第4章 教育を通して「疑似階級社会」を作る?(人を見て「機能の言葉」を説け!;「学校的共同性」を再考せよ!)
    第5章 “社会設計”の不可能と不可避(バイオポリティクス―恣意性にどう対処するか;「教育の一枚岩」をどう捉えるか ほか)

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    [ 参考となる書評 ]

  • 完璧にキャパオーバーしました\(^o^)/
    合意に基づいた決定では、正統ではあるかもしれないが、正当な合意が得られる可能性は低い(また、正統であるかも疑わしい)ので、一部のエリートが恣意的に決定された全体を見渡し、その「全体」にとって一番効果的なシステムを考え、それを試行錯誤の中で、継続的に、世代を超えて行っていくことが、今後の社会において人々が幸せになるために必要であり、そのような状況が不可避になっている…的なことが書かれていた気がする\(^o^)/そのような状況において、この本に登場する方々が考案するのが、知的階級を明確にし、その階級間を流動的に移動できるようなシステムと、それを可能にする教育である。それによってエリートの地位が確立し、エリートが考えるシステムが脱人称的になる…らしー\(^o^)/難しかった。でもなんとなく全体として何が言いたいかは分かったと思う。

  • 難解だた、桐野夏生の「グロテスク」を知ったのがなにより

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著者プロフィール

宮台真司:1959年宮城県生まれ。社会学者、映画評論家。東京都立大学教授。1993年からブルセラ、援助交際、オウム真理教などを論じる。著書に『まちづくりの哲学』(共著、2016年、ミネルヴァ書房)、『制服少女たちの選択』(1994年、講談社)、『終わりなき日常を生きろ』(1996年、筑摩書房)、『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』(2014年、幻冬舎)など。インターネット放送局ビデオニュース・ドットコムでは、神保哲生とともに「マル激トーク・オン・ディマンド」のホストを務めている。

「2024年 『ルポ 日本異界地図』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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