最後の一壜 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ) (ハヤカワ・ミステリ 1765)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (363ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150017651

感想・レビュー・書評

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  • 手練による短編は、この世でもっとも素晴らしいもののひとつだ。『特別料理』のスタンリイ・エリン、最後の短編集(こんなふうにいつまでも処女作を引き合いに出されるのはいやだろうか?)。
    ‘奇妙な味’のイメージが強いエリンだが、本書の作品のジャンルは幅広い。なかでも印象的だったのは『エゼキエレ・コーエンの犯罪』。一人の女性の強い信念が、過去の事件の真実を暴く。その信念に支えられ、主人公は自身の問題に立ち向かう力を得る。スタンダードで前向きな本格推理だ。エリンなのに。ファンタジックでブラックな短編もいいが、こういうのももっと書いてくれたらよかったなあ。

  • 『特別料理』で得も言われぬ不気味な<b>「奇妙な味」</b>を味合わせてくれた、エイリンの短編集。ミステリあるいはサスペンスの範疇での掌品が多いが、結末の跡に、さらなるドラマを感じさせる作品が多い。翻訳家も錚々たるメンバーが揃った、珠玉の短編集。

    「エゼキエル・コーエンの犯罪」(1963年 訳:仁賀克雄)
    イタリアでレジスタンスとして活躍したエゼキエル・コーエンは、ナチと内通した裏切り者とされていた。休暇旅行でイタリアを訪れていたアメリカ人警官は、父の無実を信じる娘と出会い、二十年以上の歳月を超えて、真相究明に乗り出す。ほろ苦い結末ながらストレートに感動できる佳作。

    「127番地の雪どけ」(1965年 訳:小笠原豊樹)
    因業大家と管理人に冬の間の十分な暖房を求める住人連合が立ち向かう。ユーモラスな展開から、作者らしい「ニヤリ」とさせる結末が宜しい。

    「古風な女の死」(1966年 訳:永井淳)
    画家の妻が夫のアトリエで、胸に深々とナイフを突き立てられて死んでいる冒頭から、その死の真相を探る本格推理。。。。にみせかけての意外な結末。<b>ミステリとしてギリギリセーフ</b>かつ悪意の深さが伺えるアイデアが秀逸。

    「12番目の彫像」(1967年 訳:永井淳)
    舞台はイタリア。映画制作の現場と辣腕プロデューサーの思惑がぶつかり合って。。。という中篇ミステリ。長さゆえか、ミウテリとしては凡作であるが、映画好きにはある種堪えられない構図の「対決もの」として楽しめる。

    「最後の一壜」(1968年 訳:矢野浩三郎)
    この世に一本しかないワインを巡る、愛憎渦巻く復讐譚。鮮烈にしてなんとも言えない余韻を残す、傑作。

    「画商の女」(1970年 訳:深町眞理子)
    「127番地の雪どけ」と同じく、持つ者とと持たざる者の対決編。因業な画商をやり込めるアバズレの冴えたやり口が極めて痛快。

    「清算」(1971年 訳:永井淳)
    結末から更なるドラマの広がりを感じさせる。時代が生んだアイデアは、デヴィッド・マレルのアレと同じテーマを鮮やかに、しみじみ怖く料理している。

    「天国の片隅で」(1975年 訳:丸本聰明)
    短編にしておくのは勿体無いようなアイデアだが、長編だとダレるんだろうなぁと。個人的に、俺自身の持っている闇の琴線に触れる、大変に怖くも爽快感のある傑作。

  • おなじみのエリン節。奇妙な味わいはぶれることがない。好み。

  • 『特別料理』ほどじゃないけど、短い中に意外な結末ありで、やはり面白い。今回はホラーよりもミステリ色が強いと思った。
    あまりの真相に笑いすらこみ上げてくる「127番地の雪どけ」「古風な女の死」「最後の一壜」。
    個人的に衝撃的だったのは「世代の断絶」。ヒッチハイクの危険を書いてるんだけど…15才のヒロイン、あんなことがあったのに何も理解してないことに驚いた。

  • 短篇の名手 Stanley Ellin の第三(そして最後の)短編集。珠玉の、というのは陳腐なレトリックだが、しかし、まさにこのような短篇集にこそふさわしい。

    Stanley Ellin はその代表作『特別料理』からして、「こういう話だろうな」というのが見え見えな誰にでも馴染のあるプロットを、しっかりと完成されたサスペンスへと昇華させるのが巧い。この『最後の一壜』で言えば、映画のセット用に等身大のハリボテ彫刻を作っている男の妹が映画プロデューサーの毒牙にかかり、やがて撮影所内でそのプロデューサーが謎の失踪を遂げる『12番目の彫像』が好例。もちろん話の行く着く末は他に無いわけだが、これが謎と驚きに満ちた短篇へと化けるのだ。

    お気に入りのベスト3 は、言い得て妙としか表現のしようがない絶品のタイトル『世代の断絶』、悋気な画商に対する復讐が楽しく溜飲が一気に下がる『画商の女』、この構成は鮮やかとしか言いようのない『壁のむこう側』。次点が奇想の殺人(?)事件、表題作の『最後の一壜』。

  • スタンリイ・エリンのミステリー短編集。スタンリイ・エリンは短編の名手として有名な割には書いた短編の数はそれほど多くないらしい。しかし、50年近く前の作品ですがどれも非常によく推敲されていて、飽きや古臭さを感じさせません。

  • なんだろう。
    現代ミステリと比べて古めかしさは否めないし、オチも別に奇抜なものはないのだが、一遍一遍なぜか引きよされた。

    これが短編が巧いということなのだろうか。

    ■このミス2006海外10位

  • 「そのワインは、1929年にサントアンの葡萄園でわずか40ダースだけが製造されたという。今日ではそのすべてが失われ、多くの専門家が史上最高の名品であろうとしながら、誰ひとりとして現物を味わったこともなければ、ボトルを見たことすらなかった。その伝説のワイン、ニュイ・サントアンが、たった一本残っていた! この世の最後の一壜をめぐる、皮肉で残酷きわまりない復讐劇とは……表題作をはじめ、人間性の根源に潜む悪意を非情に描き出す、傑作の数々を収録。年に一作のペースでじっくりと熟成された、香り高き名品を堪能してください。」(ハヤカワポケミス版紹介文)

    20世紀米国の作家、スタンリー・エリンの短編集です。この人の作品には短編が多くて、ミステリ系のアンソロジーなんかにぽつぽつ入ってたりするんですが、中でも有名なのはデビュー作「特別料理」(この本には収録されていません)でしょうか。その「特別〜」をはじめ、探偵が謎を解いたり読者が推理したりするような一般的(?)「推理小説」とは違う系統の作品が多いですが、ほぼ全作品の初出が『エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン』ということらしいですし、少なくとも「ミステリ」の範疇には入るだろうと思います。「奇妙な味」ってやつかもしれません。
    そんな能書きはさておき……。収録されているのは以下の15篇です。
    「エゼキエレ・コーエンの犯罪」
    「拳銃よりも強い武器」
    「127番地の雪どけ」
    「古風な女の死」
    「12番目の彫像」
    「最後の一壜」
    「贋金づくり」
    「画商の女」
    「精算」
    「壁のむこう側」
    「警官アヴァカディアンの不正」
    「天国の片隅で」
    「世代の断絶」
    「内輪」
    「不可解な理由」
    なかなか気の利いた作品ばかりですが、いずれにも共通する淡々とした描写が、かえってストーリーを高める効果を生んでいるように思います。ちなみに、個人的に特に印象に残っているのは表題作の他「古風な女の死」「贋金づくり」「壁のむこう側」辺りです。
    本当はここで全15話の紹介・感想を書きたかったんですが、こんなにあると気力が湧きません。加えて、下手にあらすじを書くと面白味が減ってしまう作品が多いように思うので、今回はあえて何も書かないということにします(めんどくさいだけ)。
    ということで、興味をお持ちの方はぜひご自身でお読みになってみてください。おすすめです。

    (大英堂ファン)

  • スタンリー・エリン短編集。どれも二時間ドラマの原作になりそう。簡潔明瞭おもしろい。読後感も悪くない。「最後の一壜」などは、キャストも頭にうかんだほど。

  • 人間心理を鋭くついたものだったり、ブラック・ユーモアがきいたものだったり。わりと好きな作風でした(*^m^*)

    でも、個人的には作品のおもしろさにムラがあって、クゥーー♪(=´∇`=)としびれるものもあれば、え?(゜▽゜;) ってな具合の話も。まさに玉石混淆って感じかな?

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