- Amazon.co.jp ・本 (190ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150018931
感想・レビュー・書評
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ほとんどの登場人物たちに漂う人生負け犬ムードがリアルで素晴らしい。ボストン裏町から抜け出せない彼らそれぞれが、幸せや成功を夢見てもがく。内気で人の良い主人公ボブが捨てられていた子犬を助けたことによって、転機が訪れる。初めの設定から、彼だけは純粋な善人でいくのかと思ったがそうはならない。自分の為でなく大事に思う人の為なら罪を犯し、赦しは求めず一生背負うことを引き受ける。ラストに光が見えたことは救いだ。
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濃い。短編なのに、スープじゃなくて、ええと、スプーンを刺したらそのまま立ちそうな濃厚さ。
そして、物語と言う、骨格の強さと表現という二本柱を見せつけられた感がある。すごい。
まさか私が最初にこれをSFだと思って読み始めたとか無いわ……途中でSFじゃない。明らかに違うってなった。
あー。でもいやほんとに出てくる登場人物の陰影の濃さはすごい。見事です。最後まで読むと、また最初のページに戻りたくなる。 -
クリムゾンリバーから10年以上たったのか(感慨深く)。
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一軒の酒場を舞台に、孤独な青年バーテンダー・ボブの周辺に巻き起こる、突風のようなできごと。始まりは、捨て犬との出逢いだった。
アイルランド系移民の集まるボストンの下町は、そのまま社会というボトルの底に沈んでしまったみたいな街であり、夢や救いに見放されたような淀んだ時間に、誰もが人生を弄ばれているかのような土地である。
そこに生きる印象深い人々と目立たぬ主人公ボブを巻き込むトラブル。読む進むうちに、これはスクリーンで観る映画のような物語だな、と思っていたら、なんと本書は、短編『アニマル・レスキュー』(2012年『ミステリ・マガジン』掲載)は映画化され2014年世界各地で公開(日本未公開)されているのだそうだ。そして本書はその映画の脚本を元に長篇小説に仕上げたものという、やや風変わりなプロセスを踏んで完成した作品らしい。それならば、本書にのっけから映画的な雰囲気を感じたのは間違いではなかったみたいだ。
そしてこの街はC・イーストウッド監督により映画され『ミスティック・リバー』の街と同じ舞台だという。昔、少女が殺されたドライブイン・シアターの跡地という表現が作中に出てくるが、そういうわけだったか。
ハードボイルド系のパトリック・ケンジー・シリーズより、昨今、ノワール系のコグリン家サーガが、ルヘインの優先創作活動になっている傾向からして、本書の世界である、バイオレンスと貧困の嵐が吹き荒れる下町は、作家の小説舞台としてうってつけの場所であるのかもしれない。
男たちや女たちの、静かな生き残り術、知恵と人情と駆け引きと、と言った危険密度の高い時間が過ぎてゆく。長篇と言うのには200ページに満たない小編であるが、その濃縮された危険な時間を味わえる、ルヘイン・ワールド全開の秀作として取り組んで頂きたい一冊である。 -
ボストンの底辺に蠢く犯罪者を扱った小説。
表紙の広告に「犬」の文字がある以上、苦手な犯罪小説でも手に取らねばならないのだ。
たかだか180頁程度の内容だけれど、無駄がないので満足感は大きい。どんでん返しも用意されてるしね。
作者の意図しない、たぶん製本上の偶然の仕掛けがあって驚かされた。 -
デニス・ルヘインの最新刊。
前にポケミスで出た『夜に生きる』を思わせるノワール系だが、読後感としてはミステリというより一般文芸に近い。主人公もそれを取り巻く人物も、基本的には『日頃の行いがあまり良くない』タイプではあるのだが、そのせいか、ちょっとした言動の描写には妙な人間味を感じる。
あまり長い話ではないのだが、ルヘインらしい濃厚な1冊だった。巻末の『訳者あとがき』によると、本作は映像化もされているらしい。本邦で公開されるかどうかは解らないが……。
手に取った時、随分薄いな〜と思ったが、考えてみれば古いポケミスはだいたいこれぐらいの厚みのものが多かったような記憶がある。組版の変化もあるだろうが、全体的に現代の小説は長いのだろうか。